急成長するASEAN市場での協業と製造業DXへの産学官連携での挑戦【AMEICC/デンソー/三菱電機】 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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急成長するASEAN市場での協業と製造業DXへの産学官連携での挑戦【AMEICC/デンソー/三菱電機】

東南アジアの市場は、2021年だけで20社近くのユニコーン企業が生まれるなど急成長をつづけており、ASEANへの注目はますます集まっています。一方で、その可能性に注目するのは欧米諸国も同様です。ASEAN進出にあたっては欧米諸国にはない、日本ならではの課題解決や価値創造が求められます。そのためには現地企業との連携も欠かせません。

本メディアを運営する株式会社ビッグビートが主催・運営するオンラインイベント Bigbeat LIVE ASEAN vol.04のSession1では、日系企業とASEANの現地企業の協業を支援する日ASEAN経済産業協力委員会(以下AMEICC)の和田有平さんをお招きし、 ASEANで活躍する日本のプレーヤーや、日本企業と東南アジア企業のオープンイノベーション事例、さらに東南アジアで挑戦する日本企業向けの経済産業省関連の支援スキーム情報についてお話いただきました。

また、Denso International Asia (Thailand) Co., Ltd.の横瀬健心さん、Mitsubishi Electric Factory Automation (Thailand) Co., Ltd.の矢作典路さんをお招きし、日本企業が得意とする製造業のDXに対する東南アジア現地企業の取り組み状況や、日本流のものづくりの考え方や製造業DXでリードすべく産学官連携で取り組んでいる最新の活動について、対談の場が設けられました。
 

日-ASEAN間の企業協業を政府の外郭団体が支援

和田さんは2009年経済産業省に入省。2019年6月からタイでAMEICCの事務局代表となりました。和田さんがタイに来て驚いたのが、東南アジアのデジタルスタートアップの成長の早さだといいます。

2021年は時価総額10億ドル以上のいわゆる『ユニコーン企業』が東南アジアだけで新たに20社近く誕生しました。日本のユニコーン企業が10社に満たないことからも、ASEANの成長の早さがわかるでしょう」(和田さん)

AMEICCは、日本とASEAN10カ国の経済大臣がメンバーの枠組みです。主に日本政府からの予算を活用して、日本の企業とASEANの企業との連携支援などをおこなっています。



その代表がアジアDX(ADX)実証事業です。ADX実証事業は経済産業省からのファンディングを受け、ASEAN企業と日本企業の間でデジタル技術を活かした企業間連携をおこなうパイロットプロジェクトを支援しています

東南アジアは、地方部の貧困や医療格差、製造業におけるデジタルリテラシーの差など様々な社会課題を抱えています。こうした課題解決のために日系企業とASEAN企業が連携する支援を行うのがADX実証事業の主眼です。



ADX実証事業では、2020年から現在までで医療・ヘルスケア、農業、水産業、ツーリズム、環境エネルギー、製造人材育成など幅広い分野の案件を採択しています。


 

日系企業とASEAN企業との協業事例

つづいて、和田さんから具体的なADX実証事業の事例紹介がありました。



1.医療・ヘルスケア
和田さんによると「医療・ヘルスケアは国によって質のばらつきがあり、シンガポールなどの進んでいる国に対して、ベトナムなどの他の東南アジアでは、トップ層以外の医療レベルに課題がある」のだそう。

日本の医療スタートアップ企業メドリング社は、ベトナムのヘルスケア系機関Japan Viet Num Health Bridge社と連携し、イオンモールの施設内にクリニックチェーンを経営。メドリング社が蓄積する日本の診療ビッグデータを活用することで経験の少ないベトナムの医者をサポートし、患者への適切な診断や医療行為を可能にするソリューションを提供しています。



2.農業
タイの農業分野の事例では、日系企業のSAgri社が、タイの農業協同組合省、Listen Field社と連携して、政府が保有する農地情報をデジタル化していくプロジェクトを支援しています。農家が生産性を上げていくためのアドバイスも提供することで、地方の農業生産性の向上に貢献しています。

また、日系の大手商社である双日はベトナムの農業関連企業と協業し、現地の養豚農家へ、 IoTによる農場や飼育データの管理などの経営をサポート。さらに販路の海外展開までをワンストップでおこなえるデジタルプラットフォームを提供する実証を進めています。



3.水産業
ASEANの財閥と日系スタートアップとの連携事例もあります。

水産養殖×テクノロジーに取り組むウミトロンは、ITテクノロジーを駆使した養殖における給餌の最適化を通じて、生産性の向上に貢献しています。今回の事例では、難しいと言われていた透明度の低い養殖池での海老の養殖においても生産性を高めることにチャレンジしています。その技術が評価され、タイのナンバーワン財閥で海老の生産量も世界トップクラスのCPグループとの連携が実現しました。


※ADX実証事業の採択事例。第2回では新たに17件が採択され、累計実績は40となった


※ADX実証事業の詳細については、こちらのQRコードからアクセス可能。第3回の公募も予定されている。

日本が直面している欧米の脅威

このように、ASEANには日本にはない成長ポテンシャルが秘められており、政府からの支援も活用しながら着実に日ASEANの協業実績は増えています。しかし、こうしたASEANに注目するのは欧米も同様であり、日本も欧米の動向に注意を向けないわけにはいきません。実際に欧米がもたらす脅威の一つであるデジタル化に向けた対応の準備指標(RI: Readiness Index)について、和田さんは次のように語ります。

「ドイツでは『Industrie 4.0 Maturity Index』という、自社のデジタル導入の進捗を分析する評価ツールを構築しました。このIndexによる分析を通じて自社の強みや弱みを把握し、適切な投資先が判断できるものですが、このヨーロッパ型のデジタル化の指標がASEANでも広がってきています」(和田さん)


※ドイツの 評価指標「Industrie 4.0 Maturity Index」

ヨーロッパ型指標の代表が、シンガポール、ベトナム、タイに広がる「SIRI(Smart Industry Readiness Index)」です。SIRIでは評価とソリューションが結びついている面があるようで注意が必要と考えています。「SIRIで判明した企業のデジタル技術の弱い点は、欧米のソリューションで補えばいい」といったように、ASEANでのビジネスチャンスが欧米企業に流れ込みやすい仕組みになっているようです。これは日本のビジネス展開にとって大きな脅威となります。

また、マレーシアやインドネシアでも欧米型の評価指標が用いられおり、評価ポイントが高ければ補助金がでるような仕組みを国が設けています。

「ASEANの各国政府が欧米型の指標を取り入れ始めています。これでは欧米基準で製造業のIoTが進んでしまいかねません。日本の製造業のデジタル化には、一様にIoTを推進するのではなく、テーラーメイドでやれる強みや、ソリューションの導入だけでなくどう使いこなすかまでをトータルに提案できる強みがあります。欧米型の指標に代わる日本ならではの指標や価値を提案したいと考えています」(和田さん)


 

日本ならではの人材育成プログラム「LIPE」

こうした危機感を受けて、和田さんが所長を務める一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)は、日本の強みを生かした人材育成プロジェクトを2021年3月に始めました。それが、Thailand 4.0の基盤となる日タイ連携でのIoT技術を活用した「Lean IoT Plant management and Execution(LIPE)」です。

「LIPE」はIoTを効率的に使うための人材育成プログラムのことです。3日間のベーシックコースでは、「無駄の分類と特定」「センサーを使ったデータ収集」「収集データのクラウド転送」「データの見える化」「設備総合効率(OEE:Overall Equipment Effectivenes)に基づくデータ分析と改善活動」の学習機会を提供しています。

『LIPE』によって、中小企業でも投資をおさえながらスモールスタートでも効果が高いIoT化が可能になり、タイ政府や現地企業にも評価されています。『LIPE』はタイだけでなく、他の国の製造業中堅・中小企業でも応用できると考えています」(和田さん)



※LIPEの人材育成プログラムは日本とタイの専門家によって開発されている
 

製造業のデジタル化事例1:SIerの人材育成プログラム「LASI」

ここで和田さんから、日本ならではのデジタル化推進をタイで進めている企業として、Denso International Asia (Thailand) Co., Ltd.(DIAT社)とMitsubishi Electric Factory Automation (Thailand) Co., Ltd.(三菱電機FA社)の紹介がありました。この2社はどのような事業展開をしているのでしょうか。

DIAT社は、タイ政府の支援を受け「LASI(Lean Automation System Integrators」というコンセプトによるSIer育成によって、タイ製造業のデジタル化に貢献しています。 DIAT社の横瀬健心さんに詳しくお話を伺いました。

『LASI』は、自動車部品製造で磨いてきた技術とノウハウを教育プログラムに凝縮し、世界のものづくり産業の発展に貢献する、という目的のもと作られたプログラムです。L(Lean)とは無駄がなく筋肉質なという意味で、トヨタ生産方式されるような生産活動の無駄を徹底的に分析・改善しつづけ、競争力ある人と現場をつくっていくコンセプトです。最近では欧米からも注目が集まっています」(横瀬さん)

「LASI」は、欧米流の製造方法とはどのような違いがあるのでしょうか。

「欧米型のシステムや設備が中心の考えではなく、現場や人に焦点を当てた最適化・自動化設計をするのがLASIの大きな特徴です。そのため、不要な投資を抑制する効果が出たり、エンジニアリングを通じて現場の人や技術者も鍛えられます。このような日本独自の手法をタイに紹介することで、国力の底上げに貢献したいと考えています」(横瀬さん)


※LASIのコンセプトとプロセスをあらわしたグラフ。まずは現状の製造ラインを把握し、無駄な作業とそうでないものに分ける。次に改善活動と自動化導入を実施する。さらにTPMなどの手法による運用メンテナンス、という3ステップで構成されている。

横瀬さんによると、「LASI」は2018年の開始以来すでに約800名がプログラムを修了するほどの評価を得ており、さらに大学の授業や自社教育のための専門講座のリクエストもあがってきているのだそう。「『LASI』が少しずつタイに浸透してきる手応えがあります。この活動の先に日本企業の市場が広がる可能性を感じています」と締めくくりました。
 

製造業のデジタル化事例2:企業のIoT化度合いの指標「SMKL」

つづいて、三菱電機FA社の取り組みについて、矢作典路さんに話を伺いました。三菱電機FAは、 IoT化の活用によって生産性向上と付加価値を創出するFA-IT統合ソリューション「e-F@ctory」を提供していますが、この度、日本の産業団体と連携して「SMKL(Smart Manufacturing Kaizen Level)」という、工場のデータ活用の度合い(IoT化度合い)を見える化する方法を開発しました。

「製造業のDXが謳われるようになりましたが、『具体的にどのような手順で導入すればよいかわからない』『IoT導入のROIをどう評価すればいいのかわからない』といった声が多くありました。そこで開発したのがスマートマニュファクチュアリングの成熟度を示す指標『SMKL』です」(矢作さん)

「SMKL」の指標は極めて明快です。下図のように縦軸が「工場の”みえる化”レベル」、横軸が「管理対象のレベル」を示しており、それぞれ縦軸はa〜d、横軸は1〜4と4つのレベルが設定されています。この二つの指標を掛け合わせて、4×4のマトリックスのどこにあるかを把握することで、自社のIoT化がどれだけ進捗しているかを知ることができます。



当然、サプライチェーン全体に改善を含めたみえる化が実現する右上の「4d」レベルが理想ですが、これが実現できているのは日本の大企業でも稀なこと。特にタイの現地の中小企業の中には「スマートマニュファクチュアリングは一部の技術力をもった大企業の話なのでは」と敬遠されるところも少なくないのだとか。

「そこで『SMKL』で申し上げたいのは、お客さまの事業規模や技術レベル、投資金額や投資期間に応じたスマートマニュファクチュアリングがある、ということです。また、お客さまの中には、データ収集からみえる化改善を重視したい縦軸のレベルアップを望む方もいれば、ある一拠点のみえる化を横展開を求める横軸のレベルアップを起業するお客様もいます。そうした要望を具体化する上でも、『SMKL』で自社の状況を把握することをきっかけに、効果的で適切な提案や具体的なディスカッションが可能になります」(矢作さん)

最近では前述のLIPEの一部のプログラムにも「SMKL」が取り入れられるだけでなく、日本の製造科学技術センター (IAF:Industrial Automation Forum)とともに、「SMKL」の国際標準化を目指して普及活動が始まっているのだとか。

「『SMKL』はもともとは弊社の社内用の工場向けに策定した企業標準だったが、あらゆる製造業に応用できることがわかり、IAF様の位置づけでオープン化し、普及活動をしています。根本的なモノづくりの考え方をベースにした指標である『SMKL』がグローバルに普及していることをめざしています」(矢作さん)


 

日本企業への経済産業省関連の支援スキーム情報

セッションの後半では、和田さんから経済産業省が実施するASEAN関連の取り組みが3つ紹介されました。



1.日ASEAN経済強靭化アクションプラン
こちらはコロナウイルスが世界的に拡大して間もない2020年7月に、経済産業省がASEANとまとめた政策パッケージです。特にこの中で日本企業に活用できるものは、AMEICCによる 東南アジアでのサプライチェーン強靭化のための設備投資支援です。「一か国に生産が集中すると、コロナ禍などの混乱でサプライチェーン全体が止まってしまうことがあります。このアクションプランでは、東南アジアのなかでサプライチェーンを分散化したり、他の集中している地域から一部を東南アジアに持ってくるための設備投資支援をおこなっています」(和田さん)
これまで92のプロジェクトの採用例があると言います。予算の余裕もまだあるとのこと。東南アジアにすでに製造拠点のある企業は、ぜひ活用を検討されてみてはいかがでしょうか。

なお、前半に紹介したADXもこのアクションプランの一つ「デジタル技術の社会実装の推進」に基づいています。



2.イノベーティブ&サステナブル成長対話(DISG)
こちらは日本の経済産業大臣とASEANの経済大臣らが設立を決めた対話の枠組みで、「イノベーションを通じたさらなる成長力の強化」と、「持続可能な経済成長の実現」の同時達成を目指すものです。ASEAN向けに日本との協業の価値や事例を紹介する情報発信も続けているそうです。

「日本とASEANの方針を政府間でも対話を重ね、日本企業とASEANの産業界の連携を後押しする活動を続けていきます」(和田さん)



3.日ASEANビジネスウィーク
こちらは日本の企業向けにASEAN情報を提供するイベントで、2020年は5月24日〜28日まで一週間をかけてイノベーションやサステナビリティなどのテーマを取り上げたそうです。ウェブサイトではイベントのアーカイブやサマリーも閲覧可能とのこと。

最後にASEANでの事業展開を考えているマーケターや経営者へむけて、和田さんからメッセージがよせられました。

AMEICCでは、ASEANでのビジネスに関心ある方と官民連携をし、ASEAN市場で日本が東南アジアの成長に貢献していきたいと思っています。ご覧になっている企業のみなさんが、今回ご紹介した事例やスキームを活用いただければ幸いです」(和田さん)





 

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