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【実装】日系BtoBスタートアップがASEANで成功するための勝ち筋とは

Bigbeat LIVE ASEAN vol.04の5本目の講演では、オンラインメディアNewsPicks監修のもとセッションを行いました。Kroll Associates (S) Pte. Ltd. 川端隆史さん、リブライトパートナーズ株式会社 (以下 リブライトパートナーズ) 蛯原 健 さん、SYNQA Pte. Ltd. (以下SYNQA) 長谷川 潤 さんをお招きし、「NewsPicksプロピッカーと読み解く実践日系BtoBスタートアップの勝ち筋」と題して、ASEANという世界が注目するマーケットの魅力や、ASEANの市場に参入するための具体的なステップなどをお話いただきました。

まず最初に、川端さんモデレートのもと、蛯原さん、長谷川さんに自己紹介をいただきます。

「リブライトパートナーズ代表の蛯原と申します。当社は、独立系のベンチャーキャピタルパートナとしてシンガポールに本拠を構えています。我々のファンドの出資者は、ほとんどが日本企業や日本の金融機関です。我々は、日本の企業とアジア地域、特にASEANとインドを結んで、オープンイノベーション促進を支援しています。」(蛯原さん)

「SYNQAという会社のファウンダー兼グループCEOの長谷川潤と申します。私たちは、2013年からタイを拠点に、ペイメントサービスを提供しています。現在は、売り手と買い手を結ぶトータルソリューションをフィンテック含めて提供しています。東南アジアを中心に、日本にも拠点があります。」(長谷川さん)
 

若いアジアと老いていくアジア

まずは、ASEAN市場の規模がわかる資料をご覧ください、とモデレートを務める川端さんが1枚のスライドを示しました。



注目すべきは、日本との世代の違いだと言います。

日本の中央年齢は、iPhoneが普及する前のX世代になりますが、アジアを見てみると、パソコンがあるのが普通でスマホネイティブの世代が中心となっています。例えばラオスやフィリピンでは、パソコンではなく最初からスマホが主流となっています。このスマホネイティブ世代というのが東南アジアの世代感になる、と川端さんは話します。

上記で示したグラフでは、バーが右の方に行くほど歳をとっています。イメージとしてはASEAN諸国と言うのは左に寄っているというのが川端さんの印象とのことでした。そのように、スマホなどが当たり前のものとして受け入れられる“若いアジア”がある一方で、国が発展して高所得になる前に高齢化が進んでいるアジアもあります。つまり、“若いアジア”と“老いていくアジア”という、二方面で見て行く必要があると川端さんはいいます。また、1人当たりGDPはあくまで平均値なので、タイのバンコクや、インドのジャカルタなど、大都市圏になると、全国平均の約3倍くらいの値になっています。
 

ASEANのデジタルエコノミーの現状とは

川端さんは次いで、ASEANの概況を踏まえてのデジタルエコノミーやイノベーションの状況について蛯原さんに尋ねました。



蛯原さんは次のように語ります。
ASEANでも、DXの一大ブームが訪れています。日本でも2018年あたりから、経産省のレポートがきっかけとなり世間でも騒がれていました。振り返ると、1995年にWindows 95が登場してから、インターネットのブームが始まりました。その当時は、大きく分けてECと広告がインターネット産業の中心でした。これと同様の現象が東南アジアで起きたのは、2010年から11年あたりです。最初に広告やECが広がり、半歩遅れてゲームが普及しました。東南アジアのテック企業というとGojekとGrabの2社が知られていますが、シンガポールでゲームのジャイアントといえば、Sea Limitedが有名です。企業年齢は11年ですが、時価総額はトップです。ですので、ECや広告はじめとするインターネット産業の勝負は、もう米国のビッグテックとローカルのトッププレイヤーで決したと思います。」(蛯原さん)

しかし一方で、DXのXの方にあたるインターネットの外の部分、例えば医療や教育、農業や車、あるいは物流、サプライチェーンなどの分野が、テクノロジーを使ってイノベーションを起こすのは、スタートアップにとってとても優勢となっているのが、ここ5年程の動向だといいます。
そうした分野がイノベーションを起こしている間も、“お金”は全産業の血流であるため、フィンテック分野は常に進化を遂げています。フィンテックはずっとイノベーションが続いているのだと蛯原さんは話します。
またDXによってASEANでは、スタートアップやそれに対する資金調達が強烈に進んでいます。2021年の1月~9月期の9ヶ月間だけでも、2兆円を調達しているとの数字が出ています。

 

何がASEAN進出の成功と失敗を分けるのか

川端さんからASEAN進出の成功と失敗を分けるポイントについて尋ねられると、長谷川さんは「始める場所も非常に重要である」と答えました。
国が分断されていて各国によりGDPも異なるため、マーケットサイズがあるから、という理由だけで取り組むと失敗すると長谷川さんはいいます。

・自分が事業を始める土壌があるのか
・そこに人などのリソースがあるのか
・自分が目指しているビジネスの対象ターゲットがどのくらいあるか
・そこに資本がちゃんとついてきているのか

その観点がとても重要であり、また各国の優遇措置に関しても検討する必要があるようです。



次に蛯原さんに、投資家視点でのASEAN進出のポイントをお聞きしました。
ASEANは、国によって全然違うので、現地で成功するためには、ローカルのパートナーが必要であると蛯原さんは断言します。

「従来では、財閥とのジョイントベンチャーが多かったようですが、現在はローカルのスタートアップと組むのがいいと思います。僕は、10年後のメインストリーム経済や産業を担うスタートアップと、今から組んで行きましょう、と提案しています。」(蛯原さん)

 

なぜ、SYNQAは成功することができたのか




高校卒業後、単身渡米しスタートアップの立ち上げに携わりながら2013年にタイで起業。現在では37カ国以上、300名強の多国籍社員を抱えるFinTech企業SYNQAの代表を務める長谷川さんに、自らがスタートアップとしてどのように事業を成長させてきたのか伺うと下記のように答えてくださいました。

「僕は日本人ですが、会社自体は現地ローカル企業としています。それがとても重要だと思っています。会社の共通語は英語ですしダイバーシティの考えでもある「どんな人でも働ける現地の企業です」ということを謳っています。
あとはDXの影響が大きく、すでにハードウェア事業で成功しているASEANの日系企業が今BtoB向けのソリューションを必要としていることが多いのですが、そこの企業からはSYNQAは日系企業として捉えられており、言葉など同じ日系企業としてのメリットを感じてもらっている、という2軸で成長をさせていただいています。
また最近は、SaaSモデルにシフトして、古いインフラを変革させるためのソリューションをASEANの各国に合わせて提供することで、さらなる事業成長を目指しています。」(長谷川さん)

ローカルの信頼や顧客を勝ち取りつつ、一方で日系ベンチャーとしての強みを生かしている長谷川さんは、日系企業のお客様がたくさん支援をしてくださって、案件があった際にはすぐに相談をくださるので事業を伸ばすことができている、といいます。

そうした人との繋がりによって成長ができるところは、まさにASEANならでは、といえるようです。

 

これからASEANで注目すべき市場

今後ASEANで注目すべき市場はどこにあるのでしょうか。
長谷川さんが見ているのは「向こう2~3年で伸びていく産業」であると話します。

「SYNQAは、決済のインフラを扱う会社なので、その視点で見ると、1つは医療系です。ワクチンの接種や、人と人とが触れる医療で、対面せずに診療を受けることができるか、薬を受け取ることができるか、アドバイスを受けることができるかとか、そういった観点でヘルスケア系に注目しています。当社も、ワクチンの予約から決済まで一括で行うソリューションを病院向けに提供しています。2つめは保険、そしてグロッサリー系の全部で3つです。クラスターなどが起きた時に、どうしても供給が止まり、農家で収穫せずに放置されてしまっていたので、そういったagricultureテックなども、結構面白いのかなと思っています。」(長谷川さん)

ベンチャーキャピタルの視点からについても蛯原さんに伺いました。

「代表的なロングショットは、1つは宇宙、もう1つは自動運転です。あとEVもありますね。また、ヘルスケア全般とフィンテックは、もう産業として相当資金を集め続けているし、スタートアップに資金も人材も集まっています。それと、もうひとつ気にするべきはSDGsなどの環境関係です。ここに今、お金や人やリソースが集中しています。ASEANは環境後進国ですし、そこに大きな課題があるので、シンガポールでも新素材系のベンチャーが現れたりしています。」(蛯原さん)

環境対策に対しては、日本企業から提供できるパスがあるのでは、と川端さんはいいます。
在シンガポールの有志で運営している【Jシップ】というプラットフォームを活用し人的なネットワークを作ることにより、ビジネスにおいてのシナジーが期待されます。
しかしそこにはリスクもあり、例えば、ジョイントベンチャーなどを検討していて、対象となる企業のトラックレコードを求めても、創業3年くらいの会社では出てきません。そのときにポイントになるのは、経営者の経歴になります。ゼロリスクというビジネスは存在しませんが、リスクコントロールも日本からの進出では考慮するべき項目です。



 

ASEANビジネスで注意すべきポイントとは?

ASEANビジネスでの注意点について、蛯原さんは「とにかく手数を増やすこと」だと言います。
スタートアップや新規事業ではカントリーリスクなどは無視してとにかく手数を増やすこと、実際にそのように日本企業にアドバイスもされるそう。

「失敗する可能性の方が高いわけです。例えば、20社あったら数社は完全失敗や全損する失敗があります。そして、数少ない成功によって全体として報われます。ポートフォリオという考え方は嫌、という事業会社は結構多いです。1兆円の買収も良いのですが、やはりスタートアップの出資や買収もやる、あるいはジョイントベンチャーもやる、そのようにたくさんやることをお勧めしています。そして、なにより1番のリスクは“やらないこと”でしょう。これだけ勃興するアジアにとっては、全くやらないのが1番リスクなんです。」(蛯原さん)

蛯原さんがやらないことが一番のリスクとお話しされた一方で、法律による規制や人材雇用など進出にあたってのリスクを長谷川さんは挙げられました。

法律は、ころころ変わるので、それに合わせることが結構多いです。色々なものが税制も含めて変わりま
す。せっかく伸びはじめたのに、急に規制が入って閉じなきゃいけなくなったりします。そのため、常にフレキシブルであり、リスク分散している必要があります。もう1つは人材です。能力のある優秀な人たちを雇用していく上で、パイが限られているので争奪戦になります。」(長谷川さん)

 

参加者へメッセージ

最後に、ASEANで企業をし、奮闘を続ける蛯原さん、長谷川さんのお二人から、Bigbeat LIVE ASEAN参加者へ向けたメッセージをいただきました。

「日本企業の得意分野は、BtoBだと思います。ビジネス向けのきめ細かい顧客対応など、日本企業のベストプラクティスやオペレーションエクセレンスには、一日の長があります。ビジネス向けSaaSは、可能性があると思います。あとは、やはりDXです。例えば、物流向け、スパやヘアサロン向けなど、業種に特化したSaaSです。ビジネス向けの業種業態向けのSaaSをやられている方は、ASEANについては検討されても良いのではないかなと思っています」(蛯原さん)

やらないことがリスクだと思います。7億人近くいる東南アジアで、日本が充分にフットプリントを作った東南アジアで、僕らはそれにレバレッジをきかせて、さらに成長させていくことができる。とても恵まれた環境に置かれていると思います。あとは来て実行するのみのだと思うので、一緒に成長していければと思うので、まずはやってみましょう。」(長谷川さん)

おふたりのお話から、日本企業のASEAN進出の可能性とその道筋が見えた気がしました。
 

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