知って損はない、日系企業がASEAN進出時に注意すべき税務事情|AGS Consulting Singapore Pte. Ltd.  八鍬 信幸さん | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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知って損はない、日系企業がASEAN進出時に注意すべき税務事情|AGS Consulting Singapore Pte. Ltd.  八鍬 信幸さん

Bigbeat LIVE ASEAN vol.04の4本目のセッションではAGS Consulting Singapore Pte. Ltd.  八鍬 信幸さんに、
海外に進出する日系企業に向けて、注意すべき税務事情についてお話いただきました。
その主なポイントは、日本の税金、海外の税金、そして国際取引に係る税金の3つになります。
八鍬さんは、2008年にKPMG税理士法人の国際部に入社し、2014年に現在のAGS Consulting Singapore Pte. Ltd.で、シンガポールにおける日系企業の海外進出のコンサルティングや会計税務支援などに従事してきました。2017年には、AGSマレーシアの立ち上げを担当し、ビジネスマガジンへの連載や講演などに多数登壇されています。
 

日系企業の海外進出で必須となる税務の基礎知識

日本と海外の税務の違いについて、八鍬さんは3つのポイントを指摘します。

1.日本の税金
2.海外の税金
3.国際取引に係る税金


そして「今回は、日本の税金と国際取引に係る税金を中心に解説していきます」と八鍬さんは講演の概要に触れます。
日系企業が海外に進出する際に、日本の税金では「法人」と「個人」のケースで異なります。また、国際取引に係る税金では「源泉税」への配慮が必要になります。

日本の税金~法人編~


日系企業が海外進出で考慮しなければならない税制には、「タックスヘイブン税制」と「移転価格税制」の2つがあります。
八鍬さんは「こちらの2つの税制は、海外に進出する日本企業にとって、かなり重要なものとなります。まず、タックスヘイブン税制ですが、シンガポールを例に見てみましょう」と国による法人税率の違いを下図のような例で示します。


 
国家間の法人税率の差を利用して、ペーパーカンパニーを設立すると、どのような差額が生じるのか、その例も示されます。
 


仮に、日本で1億円の売上がある企業が、シンガポールに登記を移して納税すれば、税率の差から1,300万円の利益が得られるようになってしまいます。こうしたケースを防ぐために、タックスヘイブン税制があります。
その具体的な予防方法について、八鍬さんは「一定の条件に当てはまる場合、軽課税国の所得を日本の親会社側で合算(引き戻)して、日本の法人税を課税します」とタックスヘイブン税制の制度について説明します。

2つ目の「移転価格税制」は、タックスヘイブン税制と同じコンセプトの税制です。その仕組みについて、日本で行われる事業の利益モデルが示されます。



通常の国内取引であれば、100の仕入れを200で販売すれば、国内に100の利益が発生します。ところが、利益の発生する会社を国内ではなく、シンガポールなどの海外子会社を経由して販売することで、国内の利益を0にする会計処理が可能になってしまいます。
 


こうした取引価格の操作を防ぐための税制が、移転価格税制になります。
八鍬さんは「関連会社の取引であっても、第三者に売る価格と同等の価格、この例では200でシンガポールの子会社に売ってください、ということを指摘できる制度です」と説明します。
 


移転価格税制は、海外の関係会社との取引価格についても、独立企業間価格(第三者との正常な取引価格と同等な価格)にて価格の設定をしなければならない制度です。
八鍬さんは「名だたる企業であっても、税務調査などによって申告漏れを指摘される例があります。ソフトバンクでは、900億超え、日産でも200億、良品計画でも70億円の申告漏れを国税局から指摘されています。ですので、このタックスヘイブン税制と移転価格税制というのは、日系企業が海外進出するときに、非常に重要な論点になってきます」と指摘します。
そして、法人編の税務事情を次のように整理します。
 

 

日本の税金~個人編~

個人編では、海外進出に伴って日本の個人が海外に移住する際の税金について解説されました。
個人(日本居住者)が海外移住する際の税金には、「国外転出時課税制度(出国税)」があります。出国税では、平成27年7月1日以降に国外転出をする一定の居住者が、1億円以上の有価証券等を所有等している場合には、国外転出の時に、その対象資産について譲渡等があったものとみなして、対象資産の含み益に所得税が課税されます。
八鍬さんは「1億円以上の株式を保有している人が、国外に転出するときに、その株を売ったとみなした利益に課税する制度です」と説明します。例えば、日本に住んでいる富裕層が、香港やシンガポールのようなキャピタルゲイン非課税国に移住して、その後で株式を売却して利益を得ても、日本で課税できなかったことから、国外転出時課税制度が誕生しました。そして「現在は納税を済ませてからでないと、移住できなくなっています」と八鍬さんは補足し、制度のポイントを次のように整理します。
 


八鍬さんは「対象となる株の中には、非上場株も含まれているので、上場株式のような価格がついていなくても、時価評価して正しく申告する必要があります」と説明し「特に注意が必要なのは、日本で会社を起こされて自社株を持っている方です。設立当初は1,000万円の株が、企業価値を算定すると1億円を超えているケースもあります」と注意を促します。
また「移住先や目的に関係なく適用になる点にも注意してください」と八鍬さんは補足します。
 

国際取引に係る税金~源泉税~

八鍬さんは源泉税の基本的な仕組みについて、図を用いて説明します。
 


なぜ、源泉税があるのか、その理由についても、一枚の図を示して「確実に税を徴収するための仕組みです」と八鍬さんは説明します。
 


そして、なぜ海外進出時に源泉税の注意が必要なのかについて、八鍬さんは「外国の会社が日本で申告納税をするのは難しいので、源泉税徴収制度を用いて、外国の会社は申告をしなくてもいい代わりに、日本の会社が申告納税する必要があります」と注意を促します。


 
さらに「海外進出をして海外取引が多く発生してくるようになると、このように海外に対する報酬の支払いというのも増えていきます。そうすると、今まで日本国内の会社に対する支払いだと、こういう源泉の論点は出てこなかったのに、海外に対する支払いが発生した途端、こういった源泉税の論点が発生してくることがあります」と八鍬さんは補足します。
そして、国際取引に係る源泉税について、2つのポイントが示されます。


 
まず、1つ目のポイントについては、日本の会社が支払う報酬が課税対象かどうかが基準となります。
 


そのチェックするポイントは以下の3点となります。


 
この3つ目の項目について、八鍬さんはケーススタディを紹介します。
 


八鍬さんは「アメリカの会社からインボイスが送られてきたら、何をしなければいけないでしょうか。『インボイスに示された100万ドルを支払います』ではなくて、3つのポイントを確認します。まず、インボイスに記載されているこのlicense feeが、日本において源泉税の対象になるのか確認します。次に、日本とアメリカ間の租税条約で、このlicense feeの取り扱いについて、軽減や減免措置があるのか確認します。最後に、日本側で必要な手続きが発生してきます」と3つの確認について説明します。

次に、外国子会社から「利子」、「配当」、「ロイヤリティ」の支払いを受ける時には、図のような注意が必要になります。


 
八鍬さんは「たいていの場合、利子とか配当とかロイヤリティに対しては、どこの国でも源泉税が発生することが多くあるので、利子、配当、ロイヤリティというのがあった時には、源泉税だと考えて頂くために、この3つを挙げております」と話します。
そして、確認する3つのポイントを紹介します。


 
そのケーススタディとして、ローンの例が紹介されます。


 
このケースについて、八鍬さんは「日本の親会社からタイの子会社に対して貸付をしたとします。この貸付に対して、タイの子会社は利息を支払わなければなりません。この利息の支払に対して、何を検討しなければならないのでしょうか。まず、この利息自体がタイにおいて源泉税の対象になるのか確認します。次に、日本とタイでの租税条約について、どういった取り扱いがあるか確認します。最後に、タイ側で源泉が必要になった場合は、タイ側でどういった手続きが必要になるのか確認します」と説明します。
最後に、国際取引に係る税金について、次のように整理した内容が示されました。



八鍬さんは「税制のことについては、各国との法令や時間の経過により、動いていきます。その時その時に合わせて情報を正しく取得できるようにしていくことが大切です。」という言葉で講演を締め括られていました。










 

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