インドネシア首都機能の東カリマンタンへの移転計画

【2020年6月2日】公開

現在のインドネシアの首都は「ジャカルタ」ですが、近く東カリマンタンへ移転する予定があるのをご存知でしょうか。
ミャンマーでは首都機能移転を実現していますし、世界に目を向けるとエジプトや中国そしてロシア等多彩な国で首都機能移転の計画や構想があります。

2019年8月26日、ジョコ・ウィドド大統領は記者会見で東カリマンタン州の主要都市バリクパパン近郊を新首都の最適地にあげました。
当初の予定では2020年にマスタープランを作成し、2020年中には建設開始、2024年に政府機関が移転を行う計画でした。

しかし、政府は新型コロナウイルスのパンデミック対策を最優先とし、現在のところ首都移転は保留とされています。
今後の状況にもよりますが、来年の再開を示唆する財務大臣の発言もありました。

今回は、インドネシアの首都ジャカルタが移転する理由や移転に関するトピックスをご紹介します。
 

首都移転を行う理由

ジャカルタの抱える問題点とは

ジャカルタにはいくつかの問題点がありました。
現在の首都ジャカルタに経済機能やインフラ上の負担が増加し、ジャワ島に全人口の54%が集中し、GDPの58%が集中しています。
ジャワ島の面積は国土の6.7%であるにも関わらずこの数値なのです。 
つまり、ジャワ島とジャワ島外の格差が開きすぎており、それを是正する必要があるのです。

また、現在1,000万人もの人々が暮らしている首都ジャカルタは湿地にあります。
更に違法な地下水採取が原因とされる地盤沈下の問題に面しています。
一部が毎年25cmずつ沈んでいるのです。
「既にジャカルタの半分近くが海抜0m地帯」という問題点は、首都として非常に大きなネックと言えるでしょう。
「2050年には市域の35%が水没する」との予測もあります。 

更にジャカルタは公共交通機関が未発達で、「世界最悪」とも指摘される渋滞が発生しています。 
 

移転先はどうして東カリマンタンになったのか

東カリマンタン選定の理由は以下のポイントです。

・地震や津波等の自然災害リスクが低い
・全国土の中央にあるため利便性が高い
・石油生産の中心地であるバリクパパンやサマリンダ等の地方都市近郊であり、インフラが比較的整っている
・18万ヘクタールもの用地を利用できる
 

以前からあった首都移転の提案 

そもそも首都機能移転は近年始まった議論ではありません。
インドネシアはオランダ植民地時代からジャカルタを首都としていましたが、1945年から独立戦争の間には軍事的理由で首都が移転していました。
その後1949年に独立後ジャカルタが首都に復帰しています。
1957年にはスカルノ大統領が首都の移転に触れ、スハルト大統領時代の後期にはジョンゴル地区に首都移転の計画が持ち上がっています。
以降度々検討された首都移転ですが、巨額の移転費用等の問題があり実現することができませんでした。

しかし、大統領であるジョコ・ウィドド大統領によって決定されました。
ジョコ大統領は、前ジャカルタ州知事であり、首都機能移転が実現する2024年に任期満了を迎えます。
更に憲法による再選規定があるので、次期大統領選へ出馬することはできません。 
首都機能移転は、ジョコ大統領のレガシー(遺産)となるのです。
 

移転と経済

首都移転を行うためには巨額の費用が掛かりますし、経済面での影響もあります。
 

移転する行政庁とは

移転する対象は、「大統領宮殿」「主要省庁」「国会」です。
ビジネスや金融関係はジャカルタに残すとされています。

つまり、新首都は政治の中心であり、経済面ではジャカルタが引き続き中心を担うのです。
 

移転に掛かる費用

移転費用は466兆ルピア(日本円にして約3兆4,484億円、1ルピア=約0.0074円換算)と試算されています。
財源は、国家予算が19.2%で、官民連携事業(PPP)が54.6%、そして民間資金が26.2%の予定です。 
 

移転に伴う経済的なメリット

インドネシアの国家開発企画庁(バペナス)は、2019年に首都移転の経済成長予測に触れました。
これによると、ジャワ島から首都を移転することによって、経済成長率を0.1%押し上げる効果が期待できるそうです。
これは、15兆ルピア(約1,142億1,500万円、2019年当時)にものぼる額です。

従来活用されていなかった資源を有効活用することで、経済効果が期待できるだけではなく、所得格差の縮小や労働集約産業の成長も期待されています。

しかし一方で、「首都移転によってインフレ率が0.2%上昇する」という不安要素もあります。
これについては、「新しい首都のインフラが十分に整って製造業が軌道に乗ることで、インフレ率上昇の影響が最小限に抑えられる」と考えられています。 
 

移転に関する問題点

移転に関する問題点は高額な移転費用だけではありません。
ジャワ島とカリマンタン島の東部は約1,000㎞もの距離があり、アクセス方法は空路のみです。
政治や経済が分散されることによって、効率が低下する懸念があります。 

また、カリマンタン島はオランウータンの生息地としても知られており、20年で約半減したとされるオランウータンの保護が重要視されています。
国際自然保護連盟(IUCN)のレッドリストで「絶滅危惧IA類(もっとも絶滅の危険が高い)」に指定されているカリマンタン島のボルネオ・オランウータン。
「野生のオランウータンは今後25年以内に絶滅する可能性が高い」と専門家に指摘されています。

開発を進める際には、自然保護との両立が大きな課題となるのです。 
 

おわりに

2020年1月、インドネシアの首都移転関連の運営委員会のメンバーに、英国のトニー・ブレア元首相や、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・アブダビ皇太子と並び、ソフトバンクの孫会長が選定されたことが発表されました。 

政府の支出を抑えるためにも、国内外の民間企業からの投資協力は必要不可欠です。
孫社長は投資呼び込みのための顔役として期待されており、今後どんな展開を見せていくのか気になるところです。

インドネシアに進出をお考えの方は、東カリマンタンに注目してみるのも良いかもしれません。


【参考記事】

JETRO「東カリマンタンへの首都移転、2024年中に開始」

BBC「インドネシア、首都移転先はカリマンタン島」

日系ビジネス電子版「インドネシア、悲願の首都移転構想」

SankeiBiz「インドネシア、首都移転決定 巨額費用に反発も過密回避へ大なた」

国土交通省「平成 28 年度 首都機能の移転に関する海外事例 」

NNA ASIA「首都移転、経済成長を0.1%押し上げる効果」

SankeiBiz「インドネシアでオランウータン絶滅危機 カリマンタン島では20年で半減」

Newsweek「SB孫会長、ブレア元英首相らインドネシア首都移転の「顔」に 投資期待も移転は実現可能?」

 

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