元インドネシア駐在員に聞く、 インドネシア進出で知っておきたい注力産業とは【2020年ー2021年版】 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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元インドネシア駐在員に聞く、
インドネシア進出で知っておきたい注力産業とは【2020年ー2021年版】

2020年から続くコロナ禍で、インドネシアも累計感染者数が140万人を超え、GDPのマイナス成長や失業率の増加など、経済にも深刻な影響が出ています。一方で、世界第4位の人口を抱え、今後も毎年数百万人規模で増加が見込まれるインドネシアでは、経済の活性化や新たな雇用の創出へ向けて政府も積極的な動きを見せており、日本企業も新たな進出先として注目しています。

そこで今回は、インドネシアで経済調査・分析や日系企業のビジネス支援等に携わってきた専門家への取材をもとに、​​インドネシア経済の現状、今後の注力産業やその展望についてレポートします。



 

◆新型コロナウイルスの影響で1998年以来初めてGDP成長率がマイナスに

インドネシアでは日本とは桁違いの勢いで新型コロナウイルスの感染が拡大しました。2020年9月には1日の新規感染者数が3,000人を超え、2021年1月には1日1万人以上という勢いで感染者が増え続け、製造業や観光業をはじめ、多くの産業が大きな打撃を受けています。2020年のGDP成長率は2.07パーセント減となり、アジア通貨危機直後の1998年以来初のマイナス成長となりました。

失業者も急増し、2020年8月時点での失業率は7.07パーセントと前年同月比で1.84ポイントも上昇。1,000万人弱が失業状態にあえいでおり、早急に雇用の創出が求められるような状況になっています。

日本企業に関していえば、インドネシアでは特に自動車産業が強く、日系企業が国内販売台数の97パーセントものシェアを占めていますが、コロナ禍で販売台数が急激に落ち込み、2020年は53万台と、例年100万台規模で売れていた状態から半減してしまいました。
ただ、インドネシアは人口が世界第4位と非常に多く、新型コロナウイルスによる経済停滞でその内需が減ったことで輸入額も減少し、皮肉にも貿易収支は2020年通年で約217億ドルの黒字となっています。
 

◆情報・通信分野は好調、注目はスタートアップ企業

インドネシア政府やIMF、世界銀行などの発表によれば、​​2021年のインドネシアのGDP成長率は4~6パーセントと予測されています。では、特にどのような分野が伸びていくのでしょうか。

2020年のGDP成長率を産業別に見てみると、特に​​運輸・倉庫業が15パーセント減、宿泊・レストラン業が10パーセント減と大きく落ち込んでいるのに対し、​​情報・通信分野は10パーセント超の伸びを記録し、今後も堅調な成長が見込まれています。この分野ではGoogleが2019年に首都ジャカルタにデータセンターを開設しており、今後もIT産業の発展を見据えた設備投資がますます増えていくでしょう。日系企業では、NTTがインドネシアに進出しており、データセンターの開設など、ネットワークインフラの構築に寄与しています。

また、インドネシアは​​スタートアップ企業が台頭してきており、ASEANで創出されたユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上)6社のうち、5社がインドネシアの企業となっています。特に、配車サービスを含む多彩なアプリサービスを展開するゴジェック、オンラインマーケットプレイスのトコペディアなどが注目されており、今後ますます発展が期待されています。
 

◆インドネシア政府はEVの自国生産に積極的

失業率の上昇や今後ますます増え続ける人口を鑑みると、新たな雇用の創出が欠かせません。そこでインドネシア政府が注目しているのが​​EV(電気自動車)産業です。



インドネシアはEVバッテリーの原料となるニッケル鉱石の生産高が世界一です。これまでは第一次産業としての原料輸出が主でしたが、今後は自国でのEVバッテリー生産、さらには車体を含めたEVの自国生産を目指しています。実際にインドネシアでは近年、EVタクシーが増えてきており、今後もますます増加していくでしょう。現地ではインドネシア国有企業がEVの合弁会社を作るといった報道もあります。
現在、自動車販売台数のシェア9割以上を占めている日系企業に対しても、インドネシア政府はEV生産を求めています。また、2020年11月には韓国大手の現代自動車がEVの現地生産計画を発表、2021年2月にはアメリカのテスラ社がEV産業への投資をインドネシア政府に提案するなど、海外勢も積極的な動きを見せています。

さらに、EV生産が軌道に乗り、現地を走るEVが増えれば、当然、充電設備の拡充も求められます。今後はEV関連のインフラ投資や新規参入も視野に入れていく必要があるでしょう。
 

◆三菱商事や双日が進めるスマートシティ事業とは

インドネシア政府は2017年から国内100都市をスマートシティ化する「100 Smart City」計画を推進するなど、​​スマートシティにも注力しています。

日系企業の動きを見ると、三菱商事が2020年にジャカルタ郊外のBSD地区でのスマートシティ事業計画を発表、今後の展開が注目されています。三菱商事が掲げるコンセプトは、インドネシア初となる公共交通指向型開発(Transit Oriented Development/TOD)で、公共交通の結節点となる駅周辺に商業施設、住宅、病院、学校などを集約し、利便性の高い都市開発を目指しています。



また、双日はジャカルタから東へ約40キロの地区にデルタマス・シティという総合都市を開発・運営しています。ここではパナソニックと共同でIoTを取り入れた住宅を建設するなど、スマートホームを含めた積極的なデジタル化が進められています。
 

◆インフラ整備もますます重要に

2020年は新型コロナウイルス対策のためにインフラ向け予算が圧縮されましたが、2021年は大幅に拡充される見通しです。近年、インドネシア最大のインフラ事業といえば、ジャカルタ~バンドン高速鉄道が挙げられますが、本事業は中国が受注し、すでに現地企業との合弁で開発が進んでいるので、日系企業がこの事業に関わるのは厳しいと言えます。

では、今後新たに参入していくには、どのような分野を考えていけばいいのでしょうか。
国が豊かになれば、モノの動きも活発になります。ですから、​​物流・ロジスティクス系のインフラ構築は今後伸びてくると考えられます。宅配便のようなB to Cの小さな物流は、すでに現地に数多くある零細企業が低価格で請け負っているので、B to B、たとえば企業同士の物流をシステム化するなど、大規模な物流インフラの構築に参入の余地がありそうです。この分野はまだ発展途上なので、デジタルによる事務処理の効率化や企業間のロジスティクス・マネジメントなど、DX関連でのビジネスチャンスもあるでしょう。すでに日本郵船が現地企業と合弁会社を設立するなど、事業展開を図っています。

また、インドネシア政府は​​再生可能エネルギー発電にも注力しており、国内発電容量のうち、再生可能エネルギーの比率を2025年までに23パーセントにする(2019年時点では13~14パーセント)という目標を掲げています。これまでは水力発電や地熱発電が主力でしたが、2018年頃から風力発電所の建設が急速に進んでおり、太陽光発電への投資も行われています。地熱発電においては、すでに住友商事や三菱商事などが開発に参画しています。日系企業であれば、太陽光発電でも力を発揮できると思われるので、今後の進展に注目すべきでしょう。
 

◆ITやDXの活用が今後のビジネスのカギ



世界第4位の人口を有するインドネシアは、これまで内需の拡大を軸に成長を続けてきましたが、タイやベトナムのような輸出志向型の国と比べると伸びが弱いため、政府は危機感をもっています。そこで今後は、これまでの国内事業重視の考え方から​​海外ビジネスを積極的に受け入れていく方向へと転換し、規制緩和が進んでいくでしょう。実際に2020年2月に国会に提出された雇用創出オムニバス法案では、外資規制に関する法改正も盛り込まれています。

また、今後もますます人口が増加していくことから、B to Cビジネス、サービス系のビジネスが伸びると予測されます。2019年にはゴジェック創業者のナディム・マカリム氏が教育・文化相に就任、IT系の人材育成の強化を掲げており、今後はさらにIT関連の産業が伸びていくでしょう。また、インドネシアは離島が多いため、オンライン医療をはじめ、僻地でも都市と同じようなサービスの恩恵を受けられることが求められています。ここでもデジタルインフラが重要なカギとなります。

このように、ITやDXを活用して成長のブレイクスルーを果たすことが、今後のインドネシアビジネスでは特に肝要だといえるでしょう。

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