2014年に外資系証券会社を退職し、東南アジアを周遊して、2015年からベトナムのピザ店で働き、2018年からKAMEREOを創業して現在に至るKAMEREOのCEO & Co-Founder 田中 卓 さん。学生時代から強い独立志向を抱き、たまたま訪れたベトナムに大きな刺激を受けたという田中さんに、ベトナムでのライフスタイルやビジネスについて伺いました。
●ベトナムの他に検討されたASEAN地域には、どのような国がありましたか。
田中さん:
日本にいた20代のころから、新興国でGDPの伸びている国で仕事をしたいと考えていました。一度きりの人生なので、GDPが延びていない日本よりも、成長期にある国で事業をしてみたいと思ったのです。ベトナムにした理由は、たまたまでした。新興国の飲食店で働きたいと思っていたときに、ベトナムで創業したピザ店をみつけて、縁あって働くことになりました。
●証券会社をやめて単身ベトナムに乗り込む際はどのような気持ちでしたか?
ご家族やご友人などまわりの方々の反応はどのようなものでしたでしょうか?
田中さん:
ベトナムに行くと決めてから家族に伝えたので、特に反対などはありませんでした。「頑張って」と言われたくらいです。証券会社で働いていたときも、いろいろな経験をしましたが、3年くらい働くとラーニングカーブが緩くなり、入社1年目ほど成長できない自分がいると感じました。同じことの繰り返しになるのです。そこで、実際のオペレーションやマネジメントを身につけるために、それができるような環境に身を置きたかったのです。
●ご自身の成長のために、新興国と起業という2つの目標に挑まれたのですか。
田中さん:
僕の周りには、起業家しかいませんでした。なので、起業は特別なことではなかったですし、海外だからという特別感もありませんでした。大学時代の同期の仲間は、ほとんどが起業していて、28歳での起業は遅い方でした。新卒で入社したときも、はじめから3年で辞めようと思っていました。組織の中で、誰かに指示される仕事を長く続けたくなかったのもあります。
●コロナ前には、休日はどのように過ごされていましたか。
田中さん:
休日は、日本とあまり変わらないです。ご飯食べたり、飲んだり、ゴルフいったり、旅行したりで、ベトナムならではの楽しみ方というのは、特にしていなかったです。ただ、物価がやすいので、日本よりもいっぱい食べたり飲んだりできます。7年も住んでいると、普通に感じます。
●7年間の暮らしの中で、お勧めの旅行スポットとかはありますか。
田中さん:
よく行くのは、ダラットという高原です。日本の軽井沢のような感じて、ホーチミンから飛行機で30分ほどで行けます。高度1,500メートルほどの高地なので、涼しくて過ごしやすいです。
●食事はどんなところに行かれますか。
田中さん:
グルメでは、かなりの店に行っています。ローカルのグルメは楽しいです。ただ、仕事とオフを明確に分けてはいません。プライベートの楽しみが仕事に役立ったりしますし、仕事がうまくいっていなければオフも楽しめません。なので、分けていない方が幸せだと思っています。
●いまのビジネスが軌道にのったら、次に始めたいビジネスやご自身の目標はありますか。
田中さん:
まだまだ、現状はビジネスを伸ばすフェーズではないです。僕たちのビジネスは、BtoBのECなので、ファイナンスなどと提携する準備はしていますが、まずはベトナムがプライマリーです。あと2~3年くらいは、ベトナムで成長して、安定してきたらタイやカンボジアを検討していきたいと考えています。
●FoodTechをはじめとして、ITに関する知識や技能は、どのように習得されましたか。
田中さん:
ITの基礎はありません。開発などは、共同創業者のCTOが担当しています。機能改善とか、お客様からのフィードバックとか、デザインのチェックなどは、手伝っています。
●ASEANでのビジネスを邁進される中で感動したこと、悔しかったこと、嬉しかったことなど、最も感情を動かされた瞬間はどんな時でしたか。
田中さん:
嬉しかったのは、起業したときです。また、事業が伸びたり、チームに人が増えたり、市場で生き残っているとか、ビジネスの成長が見えているのが、一番の喜びにつながっています。
●感動したことはありますか。
田中さん:
感動は、仕事ではなくて、ベトナムの人たちの優しさに、いつも感動しています。ベトナムの人たちは、とても他人のことを気にしてくれます。日本も昔はそうだったのかも知れませんが、ベトナムの人たちは、自分が金銭的に満ち足りていなくても、他の人を助けようとします。ベトナムでは、コロナ禍において日本のような給付金がなかったのですが、厳しいロックタウンの中でもお米を寄付するなど、互いに助け合う気持ちに溢れています。
●悔しかったことはありますか。
田中さん:
ベトナムとは関係ないですが、人のマネジメントに関して、悔しさを感じたことはあります。外資系証券会社の時代は、高学歴でロジカルに考える社員ばかりだったので、マネジメントを意識することなく、仕事がまわっていました。しかし、飲食業には学歴や経験も含めて、いろいろな人が関わっています。そのため、ロジックだけで人をマネジメントできません。モチベーションなどもケアする必要があり、最初は大変でした。自分の無力さを痛感しました。
●そうした苦労は、どのように克服されてきたのですか。
田中さん:
失敗から学ぶというか、やりながら学んできました。本を読んだり、人の話も聞きましたが、それはあくまでも参考で、自分のオリジナルを作っていきました。そうした経験の中で、自分なりに発見した方法は、情報をきちんとシェアすることでした。この会社がどこに向かっているのか、社長が何を考えているのか、そうした情報を過剰なほどにシェアすることで、情報の格差をなくして、マネージャーや現場の不安が起きないように心がけています。
●目標としている人物やビジネスモデルはありますか。
田中さん:
目標というよりは、影響を受けた友人や教授、先輩などはいます。その中でも印象的なのは、大学で受けた竹中平蔵教授のゼミでした。そのゼミの内容は、何が問題なのかをひたすら考える授業でした。例えば、あるニュースを取り上げて、何が真の問題なのかを深く議論しました。その経験は、結局すべてのビジネスに通じることだと思っています。実際の仕事でも、事象が起きたときに、何が本当の問題なのかを探り出せなければ、正しい解決策が見いだせません。会社も仕事も、その事業の基本は、何かの問題を解決することです。その精度が高いと、事業が成長していきます。なので、僕の会社のチームも、メンバーの問題解決能力が高まれば、ビジネスのコアバリューになると思います。
●ベトナムの飲食店に向けたFoodTechが成長する可能性はどのくらいありますか。
田中さん:
FoodTechは、あくまでもBtoBのECを効率よく回すためのイネーブラでしかありません。ベトナムは人件費が安いので、日本のようにITに置き換えてコスト効果が得られるわけではないからです。それよりも、僕たちの事業を通して、飲食店で働く人たちの待遇や評価を変えていけたらと願っています。飲食は、人の生活に欠かせない仕事であり、食べることで人の心を潤し幸せな気持ちにしてくれます。僕たちの提供するECによって、仕入れの問題を改善し、飲食店のビジネスをより良い方向にサポートすることで、人を幸せにする仕事をバックアップしていきたいと考えています。
”飲食業は人をしあわせにする仕事”と言い切る田中さん。
その人々の笑顔をつくりだす飲食業界の人々を支えるため、日本から遠く離れた地で現地の人々と助け合いながらビジネスに邁進する田中さんの姿が目に浮かぶようでした。