タイ化粧品市場参入の重要なパートナー:ディストリビューターとの関係づくり

前回は、タイの化粧品市場のあらましを、クリップティップ株式会社代表取締役の冨永知之さんにお伺いしました。
その中で冨永さんは、「ディストリビューターとの関係」と「FDA承認申請」という、2つの大きな参入障壁があるとご指摘されています。

今回は、2つの障壁の1つ目、「ディストリビューターとの関係」について、お話をきいていきます。

ディストリビューターとは
ディストリビューターとは、タイ国内でその商品の販売権を保有する卸売企業のことをいいます。
タイに化粧品を輸出する場合、ほとんどのケースでディストリビューターと契約することになります。

なぜなら、タイ市場参入のもう1つの障壁である「FDA承認申請」をおこなえるのは、「輸入者」に限られるからです。

「輸入者」の条件と役割は、次の4つです。
1.    輸入者は、現地法人を有すること
2.    輸入者は、FDAより証明書を取得して通関手続き(外注可)を行うこと
3.    輸入者は、タイ王国内における商品の製造物責任を負うこと
4.    輸入者は、商品の販売に際して、広告や配布物の責任を負うこと

ですので、ほとんどのケースで、ディストリビューターが輸入者となり、彼らがFDA承認申請をすることになります。
もし、日本の化粧品メーカーが、自らFDA承認申請をしようとするならば、現地法人を作らなければなりません。
新規参入時に、その手間とリスクをとるより、現地のディストリビューターと契約する方が合理的です。

そして、ディストリビューターは、小売店などの販路を開拓し、タイ国内に商品を流通させます。

ただし、FDA承認申請に必要な書類は、メーカーのノウハウの結晶です。
これを託す相手は、慎重に選ばなくてはなりません。
(FDA承認申請については第3回でご紹介します)

輸入者の条件と役割
それでは、上にあげた輸入者の条件と役割について、ポイントをみてみましょう。

(1)輸入者は、現地法人を有すること
厳密には、法人に限られているわけではなく、個人でもできます。
その場合、タイ国内に在住していることが条件です。
しかし、個人でおこなうのはなかなか難しいことも事実です。
また、個人でできる人でも、法人化してしまった方がいろいろと都合が良いこともあり、実際には法人ということになるでしょう。

(2)輸入者は、FDAより証明書を取得して通関手続き(外注可)を行うこと
ここでのポイントは、輸入者=ディストリビューターということです。

輸入者が、商品のFDA承認の証明書を保有しています。
そして、通関する際には、その証明書を提示しなくてはなりません。

ですので、万一、FDA承認の証明を保有するディストリビューターとトラブルを起こし、関係が悪くなってしまった場合、その商品を通関することができなくなる可能性があります。
彼らが持っている証明書がないと輸入することができず、販売できなくなってしまうわけです。

こうなると、また初めからやり直しです。
そのような事態を避けるためにも、ディストリビューターとは緊密な連携が取れるよう関係を構築することが重要です。

(3)輸入者は、タイ王国内における商品の製造物責任を負うこと
輸入者=ディストリビューターは、タイでの商品の源流として、製造物責任が生じた場合に最初に問い合わせを受けることが多く、その対応が求められます。
ですので、メーカーはディストリビューターから、タイにおける製造物責任保険に加入するように求められます。

日本には、懲罰的損害賠償の法制度がありません。
万一の際には、精神的被害について勘案されることはありますが、基本的には被害額分の責任を負うだけで済みます。
しかし、タイでは2倍程度の懲罰的損害賠償判決が出されることがあります。

(4)輸入者は、商品の販売に際して、広告や配布物の責任を負うこと
広告や配布物の表現などについて、日本の医薬品医療機器等法(薬機法)に相当する法律の責任を負うのは、輸入者=ディストリビューターです。

ですので、タイ国内でのプロモーション活動は、原則、ディストリビューターの戦略・指示に従ってください。

たとえば、ディストリビューターへの断りなく展示会に出展したとします。
そこでメーカーが配布したパンフレットの記載内容について、FDAの査察で問題になったとしたら、その責任はディストリビューターが負うことになります。
もしその為に、ディストリビューターがFDAからライセンスをはく奪されるような事態になると、当然、勝手にパンフレットを配布したメーカーに、損害賠償請求がなされることでしょう。

このように、これは大きなトラブルの元になる恐れがあるので、くれぐれもご注意ください。

ディストリビューターの役割
前項であげた「輸入者の条件と役割」と重複する項目もありますので、ここではポイントを絞って解説します。

ディストリビューターの役割は、おもに次の8つです。
1.    FDA承認申請
2.    輸入・通関
3.    商品保管・配送
4.    営業
5.    マーケティング
6.    販売先との契約
7.    売上回収
8.    製造物責任

これらのうち、1~3は物流会社としての役割を担っています。
また、FDA承認申請から輸入・通関に際しての注意点は前述したとおりです。

4と5の、営業とマーケティングについては、前回の「ざっくりわかるタイ化粧品市場」でもご紹介しました。
タイでは、基本的に、小売店が商品を買い取ってくれることはなく、委託販売が中心です。
また、商品のプロモーションも、自力でやっていく必要があります。

6の販売先との契約について。
小売店のバイヤーはタイ人です(日系の小売店でも多くはタイ人)。
そして、たいていの場合、英語が通用しません。
交渉はタイ語でおこなわれます。
ですので、タイの商習慣がわかっているなど、ニュアンスも含めてタイ語を理解できる人でないと、なかなか販路開拓は難しいようです。

また、7の売上代金の回収ですが、タイでは支払いサイトが極めて長く、末締めの3ヶ月後払いというのが多いようです。

8の製造物責任も前述しましたが、メーカーに保険加入が求められます。

ディストリビューターとの契約
それでは、ディストリビューターとは、どのような流れで契約をしていくのでしょうか。

まず、ディストリビューターに依頼したい内容をまとめます。
前項であげた、ディストリビューターの8つの機能のうち、どの部分が自社に足りないのかを整理します。
たとえば、商品を置いてもらう小売店はすでに確保しているので、販路開拓は不要といったケースもあるかもしれません。
また、独占販売権を与えるかどうかなども検討しておいてください。

そのような条件を決めたうえで、ディストリビューター候補にアポイントを依頼していきます。

そして、複数のディストリビューターに商品の打診をしていきます。

第1段階は、会社概要と商品概要のプレゼンテーション。
このとき、日本国内でのマーケティング概況を説明すると、タイでの展開をイメージしてもらいやすいので、含めておくと良いでしょう。
これらは資料作成も含めてすべて英語でおこないます。
この段階で興味をもってくれたディストリビューターとは、次の段階へ進みます。

第2段階では、商品の詳細説明が中心になります。
学術的な裏付けの話や、ビューティアドバイザーによる使い方の説明など、深い部分に言及した内容です。
また、ほかにどのような商品を持っているのかであったり、日本側の事業開発担当者の話であったりなど、将来的な展望も含めて話し合われます。

そして、最終的な取引条件を詰める、契約交渉となります。
商品の取引価格の交渉のほか、さまざまな活動費の折衝がおこなわれます。
FDA申請費用や物流費用、回収・保管に関わる費用、営業・マーケティング費用などについて協議します。
ここでのポイントは、営業・マーケティング費用です。
たいていのタイの企業は、「いくら」という枠で要求してきます。
「この広告をこれだけやるので〇〇バーツください」という言い方ではありません。
「〇〇バーツ出してください。内容はこちらで状況に応じて検討します」というやり方です。
商品の買取はまず期待できません。
返品の可能性も考慮しつつ、初年度にどれだけ費用を投資できるのかを決断しなければならないのです。


これまで見てきたように、タイ市場参入の成否はディストリビューターの選定にかかっているといっても過言ではありません。
そのためには入念な情報収集と慎重な検討が必要です。


さて、次回はもう一つの参入障壁である「FDA承認申請」についてご紹介いたします。

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連載1 ざっくりわかるタイの化粧品市場
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連載4 タイの化粧品市場参入のための展示会活用法

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