日系製造業のベトナム進出が活発化しています。全業種の中でも製造業の進出は多く約半数を占めています。一方で、現地拠点を持つ日系企業は、人件費高騰やコンプライアンス強化などの課題にも直面しており、対策が求められています。この記事では、ベトナム市場の現状や課題、日系製造業の進出動向、今後の展望について解説します。
ベトナムにおける産業の現状|進出日系企業の2社に1社は製造業
ベトナムの実質GDP成長率は、2022年で前年比約8%、2023年で同約5%と高水準を維持しています。産業構成比では、2020年時点で製造業が22.7%を占めており、全産業でトップです。主要製品は、自動車や二輪車、食品加工、携帯電話、縫製などです。以下、卸売・小売が8.9%、建設が6.7%、情報・通信5.7%、運輸・倉庫が5.5%と続きます。
出典:株式会社国際協力銀行「ベトナムの投資環境/2023年2月」(第22章 主要産業の動向と FTA の影響 1.ベトナムの主要産業)
ベトナムはASEAN地域において、日系企業の重要な進出先の1つとなっています。ベトナム国内にある日系企業拠点数(海外支店、現地法人や現地での創業など)は、2022年度で約2,400拠点でした。2019年度に比べ約400拠点増えており、インド(約100拠点減小)やインドネシア(約100拠点増加)などと比較して著しい増加数となっています。また、進出している日系企業の業種は製造業が最も多く、2023年時点で約48%を占め、実に2社に1社の割合です。
多くの日系企業は当初、ベトナムの市場成長性と若く低コストの労働力に魅力を感じ、生産拠点としてベトナムに進出していました。しかし近年では、米中貿易摩擦やウクライナ情勢の影響などにより、中国に対する集中リスクを分散する「中国プラス・ワン」の動きが加速しています。そのため、ベトナムへ工場移転する企業が増加している傾向にあります。
このような背景から、ベトナムは東南アジアにおける有力な生産・投資拠点として、今後も外資企業の注目を集めるでしょう。
在ベトナム日系企業が直面する課題
先述してきたように多くの魅力があり、進出企業が増えているベトナムですが、進出にあたり留意しておくべきこともあります。それは、コンプライアンス意識向上、個人情報保護法対応、人件費の高騰といった課題です。
コンプライアンス問題では、過去に日系大手製造業による賄賂事件も取り沙汰されました。ベトナム政府は、ルールや手続きを厳格化し、汚職・不正の撲滅を徹底しています。また、個人情報のデータ保護に関しては2023年7月に「個人情報保護政令」が施行されており、現地企業は対応に追われています。
これらに加えて、近年、特に懸念されているのが人件費の高騰です。ベトナムでは賃金水準が年々上昇しており、製造業を中心に生産コストが増加しつつあります。具体的には、政令に基づいて設定されている地域別の最低賃金を2024年7月から平均6%引き上げる見通しです。
例えば、地域1(ハノイ市、ハイフォン市、ホーチミン市を含む)は6.0%増の496万ドン(約2万9千円)、地域2(ダナン市、バクニン省など)は6.0%増の441万ドン(約2万6千円)に改訂します。
こうした中でも原価率を抑えるために、RPAやOCRなどのデジタルツールを活用した業務自動化や、工場レイアウト・生産ラインの最適化による生産性向上が求められています。
それでもベトナム進出は止まらない
課題に直面しながらも、日系企業はベトナム進出に意欲的な姿勢を見せています。日本貿易振興機構(ジェトロ)による調査では、2023年時点での今後1〜2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業は56.7%でした。一方で「縮小」、「第三国(地域)へ移転、撤退」と回答した企業は、わずか2.5%となりました。このようなことからベトナムは、インドやバングラデシュ、ラオスとともに、事業の拡大意向についてASEANでは高い人気を誇っています。
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2023年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)(2023年11月)」
事業拡大の意欲が高い理由としては、市場規模/成長性や、政治・社会情勢の安定性、人件費、駐在員の過ごしやすさ(生活環境)などがあります。また、営業利益の黒字見込みは2022年59.5%、2023年54.3%と半数以上を占める一方、赤字見込みはどちらも2割程度となっています。
原価率の上昇といった懸念はありつつも、それを上回る市場成長性や利益を期待できることがベトナム進出拡大の理由と考えられるでしょう。
まとめ
ベトナムへの日系企業の進出は、市場の成長性と人件費、中国プラス・ワンの動きなどから、今後も製造業を中心に継続すると見られています。一方で、今後の人件費高騰や法制度の整備、コンプライアンス強化など、さまざまな課題にも直面しています。そのため、今後はデジタル化による業務効率化や、生産ラインの最適化など、課題解決に向けた取り組みがベトナム進出へのカギになってくるでしょう。
参考情報:
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/01/87ad4ca1c203fc6b.html
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/01/e0551490d4b6f8e4.html
https://www.jbic.go.jp/ja/information/investment/image/inv_vietnam22.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003410.html
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/a261e38b2e86c8d5/20230023rev2.pdf
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/05/27ef2438f25486f7.html
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/01/3d534ee1fc1f7f49.html
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/e98672da58f93cd3/20220039rev2.pdf
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/01/e0551490d4b6f8e4.html