海外展開に向けて今日から始められる事 ー タイ進出中のAIスタートアップ企業をモデルに | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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海外展開に向けて今日から始められる事 ー タイ進出中のAIスタートアップ企業をモデルに

国内事業だけでは成長の限界が見えてきた。海外展開の必要性も感じはじめている。ただ、人的リソースには限りもあるし、投資リスクも考えるとどうしても一歩が踏み出せない。そもそも海外進出のやり方もわからずにいる…。そのような悩みを抱えているマーケターは少なくありません。

ここに、今まさにタイ進出にむけた取り組みをスタートしている企業があります。AI業界のスタートアップ企業である株式会社HACARUSです。なぜコロナ禍の今、海外展開を決めたのか? 日本にはないどんな魅力があるのか? 具体的にどのような戦略で進めているのか? 企業のスタートアップや海外進出の支援をされているEN Innovation Co., Ltd. CEO & Founderの宮田 直栄さんのモデレートのもと、株式会社HACARUSのGlobal Sales ManagerのJ.J.PRICEさんにご講演いただきました。
 

海外進出の第一歩は「スモールスタート」で

モデレーターの宮田さんはMBAを取得後、タイやマレーシアのベンチャー企業での新規事業立ち上げの経験をもちます。その中で、「スタートアップ企業と大企業それぞれの強みをかけ合わせれば、最低限のリソースで大きなインパクトを生み出し、スピーディーに成長できるのでははないか」と考え、現在はスタートアップ支援、海外進出支援、中小企業のDX・新規事業立ち上げ支援を精力的に行なっています。


EN Innovation Co., Ltd. CEO & Founder 宮田 直栄 さん

宮田さんはこれまでの支援経験から、「海外進出はスモールスタートではじめ、ハードルを勝手に上げようとしないこと」を強調します。
 
「多くの中小企業やスタートアップ企業は、海外進出には大きな投資やリスクを負わねばならないと思い込みすぎています。すぐに海外オフィスをひらいたり、現地で人を雇う必要は必ずしもありません。大きなリソースをかけなくても、投資のリスクをせずに、今できることから始めることがたくさんあります。」(宮田さん)

海外進出を考えているマーケターに宮田さんが勧めるのは、「JETRO Innovation Program(JIP)」のような、世界を目指すスタートアップ・中堅・中小企業を後押しするプログラムへ参加することや実際に進出をした事がある仲間と繋がること。それに加え売り込みや商談ではなく、相談ベースで現地企業との対話をすることで、リスクなく海外への理解や事業展開のヒントを得ることができるといいます。
 

スタートアップの強みは「柔軟性」と「スピード」

株式会社HACARUSのタイ進出の第一歩も、JETROによるタイのビジネスマッチングイベントへの参加という「スモールスタート」でした。実はモデレーターの宮田さんは、JIPにメンターとしても参画しており、 J.J.さんと協働してHACARUSのタイ進出支援を現在進行系で推進されています。



HACARUSは、2014年創業の京都発のAIスタートアップ企業です。現在はおもに「医療・製薬系」「産業・製造業系」の二軸でグローバル事業を展開されています。J.J.さんによると「AIというとビッグデータのように大量のデータをイメージされるかもしれませんが、HACARUSのアルゴリズム『スパースモデリング』では、少量のデータでAI構築ができます。特長である高い解釈性や説明性は、特に医療分野で評価いただいています」とのこと。

また AI人材育成プログラム「HACARUS Dojo」では、AIプランナーや医療データサイエンティスト、経営層・経営企画担当者向けの講座や、ほかにもAI部門の立ち上げ支援を行っています。

デジタルオートメーション領域に明るい宮田さんも「従来のディープラーニングは扱うデータ量も膨大で導入企業にとってもハードルが高かったのに対し、HACARUSのソリューションのいいところは、少量データでAIを構築できるというハードルの低さ。少ないデータで検証しながら新しい事業が作れる強みがあります」と、他のAI企業にはない強みを分析します。

「なぜ医療と製造業の二軸になったのか」と宮田さんから問われると、J.J.さんは「もともとは業界を絞らず柔軟性をもってオープンに対応しているうちに、お客様の抱えている課題に対して自社がお手伝いできる部分がクリアになり、自然と医療と製造業に落ち着きました。また、どちらの業界も規模が大きく、どの国にも必ず存在する点も、グローバル展開を重視するHACARUSの方針にマッチしていた」といいます。

「クライアントと対話を重ねながら一緒に解決策を考えていく柔軟性とスピードは、大企業にはないスタートアップの強みですね」(宮田さん)。
 

コロナ禍の今がむしろチャンス

それでは、グローバル進出は具体的にどのようなステップで行われているのでしょうか。

J.J.さんはいくつかの段階を想定しています。「まずは日本国内で実績をつくり、次にそのモデルを海外に持っていきます。そしてそれぞれ地域や企業のニーズにあわせてローカライズをしたうえで提供をします。ですが、何よりまずすべきは、現地の多くの企業との対話を重ね、その国の市場や会社のニーズを理解すること」と断言します。

HACARUSでは社員の約7割が日本人でありながら、社内では英語が使われています。J.J.さんによると、その目的は「HACARUSは日本企業ではなくグローバル企業であるというマインドセットづくりのため」とのこと。創設当初からグローバル対応できる人材や制度をつくるのが自然の社風で、そもそもグローバル展開をしているという意識さえなかったといいます。

とはいえ、現地を訪れたこともない国々へのアプローチ、さらにコロナ禍での進出に不安はなかったのでしょうか? 意外なことに、J.J.さんによるとコロナ禍の今はむしろチャンスなのだそうです。

コロナ禍によって、働くスタイルが全世界的に変わり、時間や場所にとらわれないリモートワークが可能になりました。現在、ヨーロッパのドイツ鉄道(日本におけるJRのような大手鉄道会社)との研究開発プロジェクトが進行中なのですが、現地に一人も送ることなくフルリモートで進められています。このビジネスの文化がコロナ後もつづくかはわかりませんが、出張も不要になり、展示会もデジタル化された今しかできないことも多く、ある意味でこれまでより海外展開しやすい環境にあります。」(J.J.さん)


 

ヨーロッパや北米にはない、タイの魅力とは

これまでもいくつもの国への事業展開を勧めているHACARUSですが、今回、タイ進出の決め手はなんだったのでしょうか?

「タイを選んだのは半分戦略、半分偶然です。医療・製造分野における世界の市場と成長の可能性を調査・検討をして戦略的にタイへ絞り込みました。偶然というのは、JIPでタイのビジネスマッチングイベントに選ばれて、10近いタイの企業の方と対話の機会をいただけたことです。反応は様々でしたが、この機会だけでも現地のニーズや期待がわかり、HACARUSのソリューションがタイでヒットする可能性が高いことがわかりました。」(J.J.さん)

HACARUSでは、現地企業との対話をつづけていくうちに、医療業界は国ごとの法規定のハードルが高いことがわかり、スタートアップの今はより早くサービス提要ができる「製造業」を優先することに決めたとのこと。ただ、開発コストや売上の規模感のより大きい医療関係も今後視野にいれているとの話に、宮田さんは「お客さんとの対話で現状把握した上で、自分たちのリソースを最適化している」と、その取り組みを高く評価していました。

ところでタイにはどのような特長があるのでしょうか。宮田さんは次の4点を紹介してくださいました。

「まずは、タイは東南アジアの中心地であり、ASEAN諸国をつなぐハブであること。また、親日でも有名で、信頼関係の築きやすい国民性であること。さらに日系企業の進出拠点数が東南アジアでナンバーワンであり、現地情報やネットワークが充実していること。さらにタイ政府が『Thailand 4.0』を掲げ、中所得国から高所得国へシフトするために国をあげて企業のデジタル化を推進していることなどが挙げられます。」(宮田さん)



J.J.さんもここまでのタイでのグローバル展開をつうじて「最近では、タイでも人件費の上昇や他のグローバル企業との競合が発生してきており、自動化や技術導入の移行期にさしかかっています。AI企業のタイ進出にとってもいいタイミング」と今進出するメリットを語ります。

最後に、Bigbeat LIVE ASEANをご視聴のみなさんへ、二人からメッセージが寄せられました。

「JETROのプログラムのように無料でビジネスマッチングができる機会がたくさんあります。そのようなプログラムに参加しつつ、自ら情報収集をし、現地の人と繋がっていくことが今すぐにできるころ(行動)だと思います。」(宮田さん)

「コロナもある、海外は難しい、とやめる理由を見つけるのは簡単です。ただ、よくよく数字や情報を見てみると、今海外進出しないと機会を見逃すことがわかってきます。海外進出を支援してくれる団体もあるので、失敗を恐れずにまずはチャレンジしてみることをおすすめします。」(J.J.さん)

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