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【イベントレポート】ASEANのDXに、日本のITが貢献する可能性と課題|Bigbeat LIVE ASEAN vol.02

コロナパンデミック以降、当たり前と思われてきた働き方やビジネスモデルの再定義が世界規模で求められ、それに伴いグローバル展開のあり方そのものも大きな過渡期をむかえています。このような未知の変化をいち早く察知し、企業や業界の方向性に更新をかけつづけているのが経営者です。
そこでBigbeat LIVE ASEAN Vol.02ではIT企業経営者座談会を緊急開催! 欧米からASEANまで幅広い拠点を持つアステリア株式会社 代表取締役社長/CEOの平野洋一郎さん、シンガポール拠点を足掛かりにASEANへの展開をつづけるウイングアーク 1st株式会社 代表取締役/社長執行役員CEOの田中潤さんをお迎えし、日本のIT企業のグローバル対応の現状や今後の展望などについて、一経営者の視点からお話いただきました。モデレーターは、新規事業の立上げやバリューチェーン再編、DX支援などを20年以上にわたり手掛ける株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役の八子知礼さんです。



日本のIT業界がグローバル対応に遅れをとる理由とは

日本のITのグローバル化について、しばしば対応の遅れが指摘されますが、どのような理由があるのでしょうか。モデレーターの八子さんが尋ねると、アステリア社の平野さん、ウイングアーク 1st社の田中さんからそれぞれ「日本語をベースに考えていること」「日本のUIやUXの特殊性」が挙げられました。

平野さん:
ITのプロダクトのグローバル化は英語対応が第一。日本語だけのUIやUXを作ってから英語版を作ると後手になってしまう。これがプロダクトの遅れとしては大きいです。

田中さん:
かつて色々な機能を詰め込んだ『ガラケー』は日本では喜ばれましたが、海外では操作が複雑で理解されませんでした。世界標準を最初に設計せずに後から作り直そうとすると、どうしても遅れにつながります。

こうした日本と海外の差異について、平野さんは「プロダクトの考え方」、田中さんは「品質の考え方」の違いをそれぞれ強調します。

平野さん:
日本のソフトウェアは『今必要なもの』をつくろうと考えるのに対し、欧米は『未来に必要なもの』をつくる傾向があります。今必要なものはすぐ売れるので経営の『安定』につながります。未来に必要なものは、まずリリースしてブラッシュアップしていく『永遠のベータ版』のような手法ですが、ここには欧米ならではの『投資』の考え方が背景にあります。

田中さん:
日本のものづくりは『高品質』を売りにしていた一方で、欧米は『途中段階』でオープンにして徐々に品質をあげていく。欧米製品が増えた影響もありますが、特にモバイルが増えてから、日本でも顧客のデマンドが欧米型に変化してきました。

日本でも現在は「アジャイル」「プロトタイプ」と呼ばれるような欧米型のスタイルが増えてきています。
 

ASEANでのグローバル展開事例

次に、各社のグローバル展開に関しての紹介をいただきました。
アステリア社は創業以来「日本からグローバルに」という考えを貫き、イギリス、アメリカ、中国、香港、シンガポールでビジネスを展開。ASEAN地域においては、シンガポールをベースに、インドネシアのベンチャーキャピタルへの出資やミャンマーでの実証実験、カンボジアでのNPO支援など、4カ国に拠点を持っています。

平野さんは、ASEANでのビジネス連携のやりやすさの一つに「時差」を挙げました。
「ミーティングもロンドンは夜、アメリカは早朝になりますが、シンガポールの時差は1時間のみ。非常に連携しやすく、これもASEANの価値のひとつでしょう。」と平野さんは話します。


ウイングアーク1st社は、中国とシンガポール、オーストラリアに会社を置き、タイでは出資したIT企業を拠点にビジネスを行なっています。オーストラリアは、将来的な英語圏への展開のため実験場と位置づけ、オーストラリア国内での新しいビジネスモデルを展開されています。ASEANでの事例として田中さんが強調されたのは、シンガポールでの「WINGARC DATA EMPOWERMENT ACCELERATOR」プログラムです。

田中さん:
このプログラムは、当社と現地企業のMEET VENTURESによる、いわゆるスタートアップコンテストです。当社のテクノロジーを活かした新たなビジネスを発表してもらいます。昨年選ばれた3社へは、ビジネスのコンサルティングや仕組みの提供を行い、うまくいった場合は金銭的な支援も実施しています。


田中さんによると、以前は日本国内同様のモデルでビジネスをしていたものの、それでは海外のローカル企業へ展開しづらいと気づいたとのこと。そこで「我々がローカルを理解してローカルのためにつくるのではなく、既にローカルがわかっている人たちを支援して、一緒にビジネスをするモデル」に行き着いたのだと言います。
「WINGARC DATA EMPOWERMENT ACCELERATOR」は第2回の募集が始まっており、ASEAN諸国だけでなく、ヨーロッパを含む100を超えた企業からの応募がすでに届いているそうです。

 

ASEANならではパートナーシップの可能性

ところで、欧米とASEAN諸国を比較するとどのような違いがあるのでしょうか。欧米にも支社をもつアステリア社の平野さんは、次のように述べます。

平野さん:
ASEANを中心としたアジア諸国と連携がしやすい理由の一つは、彼らが日本を市場としてみていること。この点はパートナーシップを結ぶ上で重要です。シンガポールではGolden Gate Venturesと組んでいますが、この企業はすでに20社以上の出資先・ポートフォリオがあります。パートナー企業がさらにその先のネットワークを持っているとビジネスもさらに広がっていきます。

田中さんも経営者の視点で、グローバル展開におけるパートナーエコシステムの可能性を重視されています。

田中さん:
グローバルでも通用する力はなんだろうと考えたとき、それはテクノロジーでも営業力でもなく『顧客基盤』。
今日お話している取り組みも、世界でも通用するエコシステムによる共存共栄の関係の実現に向けたチャレンジです。

こうした現地企業との協働例として、田中さんはzeemart社の卸売りプラットフォームを紹介しました。
この企業は前述の「WINGARC DATA EMPOWERMENT ACCELERATOR」プログラムの優勝社。日本では飲食店とサプライヤーを仲介する卸のシステムが確立されていますが、東南アジアでは未整備で、さまざまな調達手段が混在するカオス状態なのだそうです。そこでzeemart社は、需要供給のバランスをデータで高度に最適化させる新たな卸売プラットフォームを開発。現在は1300社以上が利用するまでに急成長を遂げたといいます。


アステリア社でもシンガポールにある最先端のパブリックチェーンをつくる会社と連携し、シンガポール大学の優秀なコンピューターサイエンスの動向をウォッチしているとのこと。平野さんはASEANエリアの可能性を次のように語ります。

平野さん:
ASEANの総人口は6億5000万、GDPは日本の2倍。市場規模だけでなく成長率の観点でも大きな可能性を秘めています。さらに、(ソフトバンク社の)孫さんのいう『タイムマシン経営』もできる場所でもあり、投資の観点でも面白いエリアです。

グローバル展開においてデジタルマーケティングが必須に

コロナ禍でのグローバル展開にあたり、マーケティングの観点でお二人の経営者は何を最重要視してきたのでしょうか。八子さんが尋ねるとお二人とも「デジタルマーケティング」と回答しました。

田中さん:
ロックダウンなどでオフィスへの出社すら禁じる国も出てきた状況で、顧客開拓をする際に力を入れたのが『デジタルマーケティング』です。東南アジアは日本のように有線ネットワークが発達していない分、モバイルネットワークが進化しています。先程の「卸のシステム」の事例でも、実はプラットフォームはPCではなくスマートフォンで展開していました。こんな発想は日本では決して浮かびません。デジタル領域ではSNSマーケティングが効果的ですが、使われているSNSはASEAN内でも国によって異なります。未だにつづくコロナ状態を受けて、完全にデジタルシフトする方向になりました。

平野さん:
去年の4月からフィールドでのイベントは一切出ていません。その分、全部デジタルにかけており今後もそのつもりです。ASEANでも英語圏のシンガポールを拠点に、東南アジアのマーケティングを全てデジタルでやっていきます。
 

コロナ時代のリモートワークの可能性

コロナパンデミックに伴い、経営者として自社の働く環境についても大きな決断をしたといいます。現在は2社ともにリモートワーク体制とのことですが、それぞれどのような背景でその判断をしたのでしょうか。

田中さん:
第1回緊急事態宣言以前に日本を含めて全社で、完全リモートに振り切りました。東京のオフィスも2/3は返却し、各拠点も必要に応じて縮小・移転をしています。もちろん課題はいろいろ出てきますが、みんなでクリアしていくしかありませんね。

平野さん:
テレワークへは2020年1月31日に全社へ移行の発令をしました。判断が早かったのは、中国拠点の一つの杭州が武漢に近く、爆発的な感染拡大の情報を日々収集していたためです。昨年4月以降は、9割以上のテレワーク体制が続いており、10月には東京のオフィスの広さを1/4にして恵比寿に移転予定です。

八子さんが「この結果なら社員の幸福度も上がっていることでしょう」と絶賛していたのが、リモートワーク移行によるアステリア社の生産性の変化です。下のグラフが示すように、リモート導入以降、一般の上場企業と比較しても生産性が向上しており、今年の7月の調査では3/4以上の社員が生産性が上がったと回答しています。


なぜアステリア社ではリモートワークによる生産性の向上が実現できたのでしょうか。そこには「オフィスの再定義」がありました。

平野さん:
リモートワークへの移行にあたり、オフィスのあり方を『バーチャル』『センター』『サテライト』『リモート』『リゾート』と5次元に再定義しました。『バーチャル』はアバターを使ったオンライン上のオフィス。『センター』は必要な時に集うためのもので、配信スタジオを活用しています。『サテライト』は首都圏の約100箇所のサテライトオフィスが利用できます。自宅をオフィスにする『リモート』環境の充実のために『快適化支援金』を月1.5万円支給しており、配信環境やテレビ会話で困っている人はもういません。

ちなみにサテライトオフィスの契約料や快適化支援金は、スリム化した東京オフィスの費用を活かされているそうです。平野さんの注目しているもう一つのオフィスのあり方が、いわゆる「ワーケーション」と呼ばれる「リゾートオフィス」。実施率はまだ1割に満たないほどとのことですが、働き方の選択肢の一つとして考えられているとのことです。ここまでオフィス環境へ注力されているのは、「ウェルビーイングという言葉が経営でも注目されており、コロナが流行してから非常に意識しています。」という平野さんの、経営者としての想いがありました。

 

日本の全企業のIT化・グローバル化を支えていく

座談会の最後に、お二人へ未来のIT企業の理想像を尋ねました。

田中さん:
未来のIT企業というよりは、日本の全企業がITを利用する世界をつくらないといけないと考えています。『IT=コスト』と考える企業、特に中小企業は少なくありませんが、彼らに共通の利便性を提供できれば、日本はこれまでにない競争力を備えることができると本気で思っています。今後の日本は、人口も減少し国力も衰えていくなど課題ばかりですが、他の国も同じ課題を将来的に抱えることとなります。その時に日本が課題を克服する仕組みを作れていたならば、それは日本発で世界に提供できるものです。そのためにも未来のIT企業は、日本全体をITで活性化できるような企業体となっていかなければなりません。コロナ禍は従来のやり方を見直す機会です。

平野さん:
(理想は)日本がソフトウェア輸出国になることです。そもそもソフトウェアは、産業材のなかで国土も資源も限られた日本に向いています。これは一企業としてというよりも、IT業界の理想形として考えています。
もう一点、グローバルという観点でいえば、IT企業だけでなく地方を含む日本の企業も、IT化でグローバル化を進めることができます。 『日本中の企業のグローバル化を支える』。これがIT企業のこれからのミッションではないでしょうか。
 

 

 

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