タイ難民キャンプを救うデジタルトランスフォーメーション | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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タイ難民キャンプを救うデジタルトランスフォーメーション

タイ・ミャンマー間の国境約2000キロ。ここに戦禍や迫害から逃れミャンマーから越境してきた人々が暮らす9つの難民キャンプがある。居住する多くはカレン族やシャン族、モン族、カレンニー族などの少数民族。その数10万人以上。故郷への帰還もできずに、不安な毎日を送っている。外出はおろかキャンプ内の自由な行動も制限され、外部との通信も認められていない。だがそのような中でも、現地で暮らす人々を救済し人権を守ろうという動きが広がっている。力の源泉となっているのは、ここでも先端通信技術を使ったデジタルトランスフォーメーション(DX)だった。
 

インターネットの利用を禁止

9つある難民キャンプの中で人口最多のメラ難民キャンプ(ターク県ターソーヤーン郡)。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、約4平方キロメートルある岩山の斜面に約3万5000人が暮らしている。ミャンマー国軍とカレン族の武装組織「カレン民族同盟(KNU)」との戦闘が激しかった1984年、国境を超えてタイ領に流れ込んだ人たちを収容するためにタイ政府が開設したのが始まりだ。
2005年の和平交渉で停戦の合意がなされたものの戦闘はなおも続き、21年の国軍クーデターで再び戦場に。現地に残っていた住民たちの家や土地も次々と焼かれ、今なおタイ側への流入が続いている。正確な実数は国連でも把握できず、メラキャンプだけでも総計5万人、9キャンプ全体では15万人~20万人になるとも指摘されている。

これに対しタイ政府は、難民キャンプからの外出だけでなく、キャンプ内での通信手段の確保やインターネットの使用を全面的に禁止している。外部の反ミャンマー勢力などとの接触によって不測の事態を招かないようにするためだ。これにより通信施設や通信ケーブル等をキャンプ内に持ち込むことは法度とされ、一般固定電話の開設も認められていない。
無線通信も同様だ。3G、4Gといった移動通信システムの回線使用には、スマートフォンやパソコンといった端末機器とを結ぶ通信塔やアンテナが必要となる。だが、この設置についてもタイ政府は厳として同意を与えていない。少なくともキャンプ内にアンテナなどを置くことを固く禁じている。


メラ難民キャンプを上空から臨む。岩山の裾野に広がるのがよく分かる。
 

タイ側のアンテナを利用

そこで利用されているのが、難民キャンプの境界近くに立つタイ側の通信塔やアンテナだ。山間部であろうとも電波を遮る遮蔽物が存在しなければ、数キロ離れた先でも交信は可能。幸いに難民キャンプは岩山の裾野にへばりつくように配置されており、キャンプのすぐ外にあるタイ側の通信塔やアンテナとの交信状態はおおむね良好だという。
こうした外部の通信回線を使って、メラ難民キャンプではほぼ全域でスマホを使ったインターネットの閲覧やPC間のクラウド通信などが事実上公然と行われている。タイの通信各社もキャンプ内で3Gや4Gといった電波が受送信されていることを知りつつ、サービスの提供を続けている。

キャンプには、2013年まであった第三国定住制度を利用して、家族や親族が米国などの海外で暮らす難民一家も少なくない。そうした遠方にいる家族らと連絡を取り合うのにも、タイ側の通信塔やアンテナを経由したインターネット通信は極めて有効に機能している。最近はネット回線を利用した国際送金も行われるようになっており、キャンプ内での暮らしにインターネット通信はなくてはならない存在となっている。
NGO関係者によれば、このほかタイ側の回線を使ったストリーミング放送の受信やオンラインアプリを使った教育講座などを受講する人たちも少なからず増えているという。海外からの仕送りが豊かで比較的自由に使えるお金を持つ人たちの間では、ネットフリックスなどの有料インターネット放送を楽しむケースも見られるという。


メラ難民キャンプ内の様子。中央奥にタイ側の通信塔が見える。
 

自由で開かれた情報化社会が大切

難民キャンプは国境に近い辺境にあるため、都市部にある買い物ができるような小売店舗は近くにはない。こうした時に役に立つのがキャンプの玄関口にまで荷物を運んでくれる電子商取引(EC)だ。近ごろは、キャンプ内でもEC取引を楽しむ人も出始めているという、その注文の際にタイ側のインターネット回線が利用されている。
また、キャンプ内では衛星放送アンテナの設置が事実上黙認されており、海外を拠点とするビルマ語放送や独立放送局の番組も広く視聴されている。インターネットに衛星放送。キャンプを管轄するタイ内務省がいくら外部との情報遮断を画策しようとしても、住民たちはしたたかに情報を入手し、交信を行っている。

キャンプ内外で活動を続けるNGOなどの関係者は、外部との交信が域内で生活する人々の人権や暮らしを間接的に守っていると説明する。戦禍の続く故郷ミャンマーでは、ここ十数年歩んできた民主化の流れがすっかり失われ、国軍が支配する権威主義国家へと変わり果ててしまっている。
かつてのような未来ある民主的な政治を取り戻すためにも、自由で開かれた情報化社会が必要だと活動を続けるNGO団体などは指摘している。その試金石としても、難民キャンプ内のDX化の推進に関心と注目が集まっている。



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