タイのHealthtechスタートアップが描く「高齢化社会でも、誰でも健康に暮らせる社会」 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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タイのHealthtechスタートアップが描く「高齢化社会でも、誰でも健康に暮らせる社会」

東南アジアのBtoBマーケティング最前線をお届けする「ピリピリ」では、タイで活躍する現地スタートアップの今を特集する企画をスタートしました。第2回はHealthTech分野です。

日本よりも速いペースで高齢化が進むタイで在宅医療のニーズに応えるために設立された「Health at home
このサービスは、介護者と患者をマッチングし、家庭にいながら病院と同様の医療が受けられるというコンセプトで作られています。高齢化かつ労働力不足が叫ばれ始めているタイにおいて、Health at homeの担う役割、これからの社会貢献をどのように考えているかをお伺いいたしました。

*本記事は、Bigbeat Bangkokにて開催しているイベント「ICHI Talk」内で話された内容を意訳・再編集したものになります。
タイ語でのイベントレポートはこちら

 

急速な高齢化が進むタイの現状

タイはアジアの主要な新興国の中で、最も急速に高齢化が進んでいます。国連によると、タイの人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、2022年には総人口の14%となっており、2035年には超高齢化社会(21%)の仲間入りも予測されています。さらに、出生率も2010年の1.6人から2040年には1.3人に落ち込む予測のため、少子高齢化に拍車がかかり、労働力不足が容易に想像され、経済発展に影響を及ぼし始めている状況にあるといえます。

ArayZ 加速するタイの高齢化 外国企業の参入機会が拡大
参考:https://arayz.com/old/columns/features_201906/


そのため、タイでは社会保障制度の整備が急務となっており、高齢者の医療サービス事業についても国の一定の認可が必要になっており、政府としての動きも活発になっています。

日本貿易振興機構(ジェトロ) 2021年02月09日 ビジネス短信:高齢者介護事業、保健省のライセンスが必要に(タイ)
参考: https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/02/366027a99636adee.html


これはタイが高齢化社会に入ったため、サービス提供者が増えてきている事実を鑑みて、サービスレベルを安全・安心な状態を保つため一定の基準を設ける必要があるということでの措置であり、労働力不足を少しでも解消しようという動きに見て取れます。

マッチングだけではダメ!?患者にも介護従事者にも向き合いサービス開発

高齢化社会に突入し、注力分野となっているHealthTech領域において、スタートアップである「Health at home」を創設した最高経営責任者兼共同創設者Tumさん。どのような経験からこの事業を思い立ったのかをお聞きしました。

Tum:
元々、私は病院で医師として働いていました。その時に直面したのは、医療や介護を受けたくても、山間部に住んでいたり、遠方にいるため病院に通えない患者や、ベッドから移動がままならず、病院へ行くことができない患者が多くいて、病院のビジネスモデルだけでは解決できないということでした。

多くの患者や高齢者は必要でなければ、病院へはいきたくないし、入院することもしたくないでしょう。そんな時に在宅で病院のような医療・介護が受けられるサービスがあれば解決するのではないか”と思い立ちました。

そこで、マッチングできるプラットフォームを作り上げるためにスタートアップとして設立しました。元々、私自身がITのビジネスの経験もあり、2015年に在宅介護のサービス構想をして、とあるプロジェクトに売り込み多額の投資をいただきました。その後、すぐに医師の仕事をやめてビジネスに全力投球することにしました。



在宅で病院のような医療・介護が受けられるサービスを実現するために、医師としての経験とITの経験の両軸を生かしたプラットフォームを作り上げています。今までのプラットフォームの変遷はどのようなものだったのでしょうか?

Tum:
当初は、プラットフォーム事業として、介護従事者と患者の両方をマッチングさせることのみに注力しようとしました。GrabやUberのようなイメージで、双方がそれぞれ自身で登録してもらい、マッチングしやすくすることで仕組みがうまく回るのではないかと考えたのです。

しかし、うまくいきませんでした。結局、マッチングした後のサービス提供レベルがバラバラで問題が起きました。そのため、立派な知識やスキルを持っている介護従事者を確保する目的でスクリーニングを行ったところ、設定された基準を合格した人がほとんどいないという事実がわかりました。これは、由々しき事態です。

そのため、私たちはさらなるプラットフォーム向上と介護従事者の裾野を広げる目的で、介護従事者のトレーニングを行うサービスもスタートしました。スキルや知識を持った一定の介護従事者を増やし、この仕事につきたいと思う方々をもっと増やすことで患者や高齢者を助けられるはずです。そのためのトレーニングや、医師への相談窓口、状況に応じたサポートシステムを充実させています。

また、プラットフォーム開発という点では、アプリを作り上げるのに非常に工数をかけてしまい、時間とコストを無駄にしてしまいました。例えば、血圧や脈拍、そのほか医師として必要な詳細情報が入力でき、それが患者とその家族に見てもらう機能は必要なことだと思っていました。しかし使用率は高くなく、ユーザーの要望ではないとわかりました。

私たちが必要だと思っていたことが、ユーザーにとっては必要のないものだったということです。これはよくあることだと思います。それからは、実際にサービスを利用している患者からのフィードバックを大切に、意見やアドバイスとして取り入れています。
 

介護従事者のキャリアを築き、安心できる社会づくりを

高齢者の在宅介護というサービスは今、タイでも広がりを見せています。
競合サービスも多く出てきている中で「Health at home」はどのようなポジショニングを目指していくのかをお聞きしました。

Tum:
競合との差別化は2つあります。

1つは、介護従事者へのアプローチです。スキルを高めたり、勤怠のシフト管理を支援したり、医師や看護師からの相談を受けたりできるので介護従事者のサービスレベルを落とすことがなく患者に満足いただけております。

もう1つは、短期予約が可能な点です。高齢者介護となると、中期〜長期となるサービスを提供しがちですが、私たちは3日からのプランもご用意しています。そのため、手術の準備期間の利用や術後の患者、モニタリングのための利用が人気です。介護従事者の手配も、就業日の48時間前であれば予約が可能で、担当者を見つけることが可能です。

医師の経験から介護従事者へのサービスを充実させることで、患者へのサービスを向上させることに成功している「Health at home」。最後に今後の展開をお聞きしました。

Tum:
私たちが目指すところは、自宅でも病院のような医療・介護を受けられる社会です。
体に異変を感じた時に、まずは「Health at home」を思い浮かべてもらい、適切な対応をとり、自宅で管理ができるようにしていきたいと思います。本当に深刻でなければ、病院にいく必要がありませんので、病院の混雑緩和を実現し、医師のサービスも向上するでしょう。また、患者にとっても効率的に医療サービスを享受できます。

その社会を実現したいのですが、私たちのサービスはまだタイ全土に普及しているとはいえず、90%がバンコクとその周辺となっています。全国展開はしていますが必要性や有効性を伝えられていないと感じています。

もう1つの課題は、介護従事者が足りないことです。一緒に働く介護従事者を増やしていくためにも介護従事者の待遇改善を図っていかなければなりません。介護従事者は、大変な作業で誰でもできるわけではない、非常に尊い職業です。
タイの社会ではこの職業があまり確立されておらず、時々ネガティブな見方をされてしまうことがあります。

そのため、介護事業者を増やすためには、介護への偏見を改善することが必要です。他には、報酬を公正に支払うこと、介護従事者へのサポートです。何もサポートがないままで、マッチングをしても適切なサービス提供には繋がりません。繰り返しになりますが、私たちは常にアドバイスとサポートを実施します。

「これから高齢者の人口が増えるので、介護者のキャリアはケアの側面で非常に役に立ちます。AIでは置き換えられないであろうこのキャリアを確立していきたい」と話をしてたTumさんの介護従事者への思いは尽きることがなく、さらなるサービス向上の計画をお話しされていました。

高齢化社会への適応が始まっているタイの社会は近い将来、遠隔介護やオンライン医療などテクノロジーによる変革が進み、社会インフラや安い生活費、温暖な気候などの環境も相まって、タイだけでない様々な地域の高齢者を支える社会になるかもしれないという期待を伺える内容でした。

 

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