インドネシアのSaaS事業で失敗しない!現地事業を複数手掛けた足立さんに聞く必見ポイントとは? | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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インドネシアのSaaS事業で失敗しない!現地事業を複数手掛けた足立さんに聞く必見ポイントとは?

ソフトウエアをインターネット経由で提供する「SaaS(Software as a Service)」サービスは、国内外を問わず成長を続け、その動きは東南アジアへも広がっています。インドネシアにおいてもSaaSなどのクラウド市場は年平均25%増と成長し、2023年には8億USドル規模と予測されるなど、今後の拡大が期待されています。

本記事では、インドネシアでHR(人材)領域などの新規SaaS事業立ち上げにかかわり、現在も海外進出中の日系企業支援を手がける足立健太郎さんに取材した内容を紹介します。足立さんが現地体験から学んだ留意事項や進出時のアドバイス、インドネシアで伸びているSaaSの分野や企業などについて語っていただきます。

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<足立健太郎氏プロフィール>
Wellsprin Japan合同会社 カスタマーサクセス責任者
2015年から2019年にかけて、ジョブプラットフォーム企業やHR分野のSaaS 企業にて、インドネシア拠点長として立ち上げやサポートを手がける。帰国後は、東南アジアへの進出を目指すSaaS関連会社の立ち上げ支援やデジタルマーケティング支援にかかわっている。
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現地で好まれるのはシンプルで安価なプロダクト

―足立さんがインドネシアでSaaS立ち上げをしていた頃と現在では、どのような市場変化を感じていますか。

足立さん:
現地在住者からの情報によると、私がいた2019年ごろと現在でSaaSを取り巻く事業環境にそれほど大きな変化はありません。インドネシアでBtoBのSaaSはいまひとつ盛り上がりに欠けるのが実情です。その理由としては、日本や欧米と違い、インドネシアでは労働力を効率化してソフトウエアで代替させようという考え方が浸透していないことが挙げられます。

現地では人件費が安いこともあり、SaaSを導入するうえでのメリットがまだ見いだしにくい状況が続いています。そのような背景があるため、導入しようという動きはなかなか加速しにくいようです。


―現地での立ち上げ時の実体験から、苦労したことや学んだことなどを教えてください。

足立さん:
当時、BtoB型のSaaSを浸透させきれなかった理由を振り返ってみると、まず現地人材のスキルの課題が挙げられます。SaaS自体が黎明期の中、例えば営業スキルを持つ人材を探そうとすると、ソリューション営業の経験者や素養がある方を見つけるのは至難の業です。自動車のディーラーなど売り切り型の営業で活躍している人たちがIT業界に転職することも、ままありました。しかしそのような方々は、ソリューション営業に特有の「継続して利用してもらう」ことを目指す営業スタイルに頭を切り替えることが難しいのです。

もう1つは、そもそもSaaSとは何らかの課題解決のために導入するというケースが多いですが、現地ではSaaSを用いて解決できる課題の優先順位が高くなかったことが挙げられます。例えば、人材採用に関して採用費の予算は潤沢に確保されていても、採用を効率化するためのソフトウエアには予算が取れないとのお返事をいただくことも多くありました。

結果として、まずは先方に予算がない状態で、無償で試してからということになりましたが、解決できる課題自体の優先順位が高くないため、有償での利用に踏み切ってもらえませんでした。PoC(試作開発の前段階における検証やデモンストレーションの提案)も有償では難しく、顧客獲得コストがすごくかかるという状態でした。今まで何らかの取引実績があるお客さんだと商談自体は進むのですが、それでも最後の契約までの一歩が難しかったです。

また、コンペが発生した場合、現地でプラットフォームを運営しているローカル企業と競合するということもありました。サービス自体は特に洗練されたものではなくとも価格がとても安いため、機能や得られる結果が同程度のこういった企業とどう戦うかは考えなければならないと思います。

例えば求人掲載のサービスの場合、1ポスティング数千円で利用でき、さらにパッケージなどで10本でも同等の価格であることも多く、毎月1社から徴収できる料金が大きくは見込めないということもあります。もし同じサービスを日本で提供したとすれば、毎月10~20万円はかかります。



日本を含め外資企業は、こういった現地の企業と戦っていかなくてはなりません。この事例にみられるように、インドネシアでSaaS業界が広がっていくためには、企業がそのプロダクトにきちんとお金を払うという文化を築いていく必要があります。

重要なポイントは、現地では工夫を凝らした高スペックのプロダクトは求められていないということです。「安くてシンプルなものが好まれる」という傾向は今もそう変わっていないので、参入する際には注意が必要といえるでしょう。

 

成長が見込めるのはHRやMAの領域

―SaaS業界で伸びている分野や企業はありますか?

足立さん:
店舗向けに効率化を支援するPOSシステム領域のSaaSはもともと一定の需要があり、現地でもいくつかの企業が展開しています。コロナにより新規店舗からのサービス導入に関する問い合わせは減ったようですが、一度利用すると解約しにくいサービスなので、引き続きそれなりの需要は見込めるのではないでしょうか。

また、クラウド会計・人事労務・CRMなどの分野では、主に中小企業に向けてSaaSを提供する地元のSleekr(現:Mekari)という企業が突出した成果を挙げています。日本SaaS企業のマネーフォワードが出資していますが、インドネシア内製で比較的安価なプロダクトを作り、営業のネットワークも上手に構築されていると感じます。

同社の営業手法は比較的年齢の若いスタッフを抱え、コールドコールをたくさんかけるというもの。インドネシアの人はコールドコールへの警戒心が低いという特徴もあり、数をこなせばそれなりにアポイントも獲得できて面談までこぎつけることができるのです。

このようにさまざまな企業にまずはアプローチをかけ、新規客をつかんで機が熟したところでお金を取りに行くという正攻法を地道に進め、シェアを拡大しています。

また、地方のIT需要の拡大を見込んでアプローチするという流れも起きています。例えばRuangguruという地元の教育系スタートアップなどが伸びているようです。


―今後はどういった分野が伸びていくと思いますか?

足立さん:
すでに導入されていて認知度も高い勤怠や労務管理などのHR分野は、堅実に市場を伸ばしていくと思われます。また、新しい分野で予算を確保するためには、ある程度名が知れた大企業の客を見つけることが重要であり、その意味ではMAツールやMarTechに注目すべきだと思います。

というのは、現在インドネシアでもECを中心とした動きがとても活発であり、その関連業務の裾野としてフィンテックも伸びているためです。そういった成長企業に使ってもらえるサービスは何かといえば、メールやSNS、WEB接客など消費者に対するマーケティング領域であり、導入に対する理解も得やすいと言えます。

MAツールについては現地のSaaS企業はあまり進んでおらず、HubSpotのようなグローバル企業がシェアを占めています。ただ、インド人がCEOを務めるMoengageというSaaSなどが比較的安価に高機能なMAツールを提供していて、大手EC企業でも導入が進んでいます。日本でもそうでしたが、まずは外資企業が参入し、今後どこかのタイミングで国産のスタートアップが出てくるのではないかと思います。

 

進出時の留意点は人材選びと現地での拠点や体制の構築

―進出の際に注意すべきことを教えてください。

足立さん:
注意しなくてはならないのは人材です。立ち上げ時に人件費が高い日本人を雇って現地に送っても、かえってその方の人件費が足かせとなり、長期的な事業成長に向けた投資をしづらくなるということも聞きます。それよりも、進出する分野に長けた現地の人材をマネージャーや所長のような形で雇用し、日本から後方支援できるような体制を整えるべきでしょう。



信頼できる現地人のパートナーがいることは大きな強みで、実際にそのような人材がいるスタートアップは伸びています。ただ、ヘッドハンティングで人材を採用する場合は注意が必要です。他の分野ではそれなりの実績があってもITやSaaSの事業モデルはよく知らないという場合もあります。

プロダクトについて必ず踏まえておきたいのは、現地で必要とされるプロダクトは日本で必要とされるものとまったく別だということ。まずはプロダクトの開発サイクルをきちんと回すことにコミットできるチーム体制を整えてからでないと、実際に展開するのは難しくなります。

というのは、多くの場合、営業が現地のお客さまにヒアリングした結果、膨大な要求が出て、まったく違うプロダクトを求めているという事実に立ち向かわなくてはならなくなるためです。改善点などを本社にフィードバックしても日本ではすぐに解決できないため、現地は混乱してしまいます。

そのため、あらかじめチーム体制を組んでおくだけでなく、できれば開発拠点を初めから現地に作っておくことが望ましいと思います。まずは、現地の客から要望が出そうな内容を先に見極めることができ、開発チームとコミュニケーションがとれる人材を置くこと。さらに、現地にトップがいて、開発拠点や各部署の状況も見るということが不可欠です。現地にどっぷり入り込んだ体制や拠点を設けておくと、プロダクトの改善サイクルも早くなるという感触があります。

例えば現地では「WhatsApp(ワッツアップ)」というSNSのメッセージアプリが盛んです。マーケティング機能をプロダクトに持たせようとすると「WhatsApp」でエンドユーザーとコミュニケーションできるように設計する必要があります。立ち上げるのはとても大変で、現地の状況をよく知る人が本社と密にコミュニケ―ションをとりながら進めていくことが重要といえます。

重要なのは、「現地の市場ニーズがあるところにプロダクトをフィットさせていく」という考え方です。先ほど求人募集プラットフォームの例を挙げましたが、ジョブマーケットではオフラインで求職者のマッチングを行うジョブフェアが開かれています。ジョブフェアでの求職者募集に対してお金が動いている、つまりお金が払う企業があるという事実を踏まえると、必ずしもオンラインで初めから勝負する必要はないのではないかと思います。

お金が動く市場に対し、ニーズが確実にわかるところから進出し、ユーザーがついてきた後で関連するプロダクトを提案していくというイメージです。場合によっては、現地用に1からプロダクトを設計することも必要となります。


―最後に、インドネシアでのSaaSの将来性についてお願いします。

足立さん:
現状を見ても、人件費が上がりはじめていて、ビジネスモデルも変化していかざるを得ない中で、多くの領域において従来型システムでは対応しきれなくなりつつあります。サブスク型SaaSの契約は必要性が増し、導入が進んでいくはずです。

日本企業がSaaSで現地に進出するには確かにハードルもありますが、実際に成功しているローカルや外資のSaaS企業があるのも事実です。そのため、失敗につながりそうなタネを1つ1つ潰していくことができれば、日本企業でも十分成長が見込める市場だと思います。

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