経済成長の続くベトナムでインフラ整備が盛んだ。首都ハノイと南部ホーチミン間では同国初となる南北高速鉄道の計画が、中部ダナンでは自由貿易区、そしてハノイでは世界でもトップレベルとなる総面積90ヘクタールの新しい展示会場の建設が始まっている。これらを契機に、国外からの人や資本が参入しやすいような国際鉄道や都市鉄道の整備、空港・港湾の開発や企業誘致策、さらには原子力発電所の建設計画も進む。豊かな労働力と政治の安定化を背景に、市場経済化を一気に進める考えだ。
世界トップレベルの展示会場
首都機能などが集積するハノイの「ドン・アン地区」。ここで
屋外展示会場の面積としてはアジア首位、世界でも第2位となるという新たな展示会場「the National Exhibition and Convention Center(仮称)」の建設が始まっている。屋外イベントも可能な展示スペースは約20ヘクタール。公園としての機能も合わせ持つ。大規模展示場は既設のものがいくつか存在するが、老朽化もあって実質的に建て替えられることになった。
同国最大の複合企業(コングロマリット)である「ビン・グループ」が建設主体となって、ベトナム政府が全面的に後押しする。新型コロナウイルスの蔓延でキックオフが若干遅れたが、満を持してのスタートとなった。投資総額は5億米ドル(約780億円)に達するという民間の試算もある。
ハノイ北東部、空の玄関口「ノイバイ空港」の至近という恵まれた立地。都心部へは新たに建設される都市鉄道路線が直結する。国際展示会場の成功によって国際都市へと成長を遂げたアラブ首長国連邦のドバイやドイツ・フランクフルトなどを成功事例として描く。
ビン・グループは、世界戦略として進める同社の電気自動車(EV)事業との相乗効果も狙う。
展示会場には、世界有数の5つ星基準のホテルチェーンや商業施設も誘致。国際的なイメージアップも図る。同社はこのほか、ハノイを流れるホン川(紅河)に7本目となる渡河橋の建設を市人民委員会に提言するなどインフラ建設全般にも積極的だ。
さまざまな鉄道建設計画
新展示会場などとを結ぶハノイの都市鉄道路線(一部地下鉄)は現在3計画路線がある。このうち、2本目の開業となった「都市鉄道3号線」は2024年11月初め、商業運転を記念する式典を開いた。開業したのは市中心部と西部を結ぶ高架区間の8.5キロ。総投資額は約14億ドル。フランスの重電大手アルストムが手がけた。当初計画から9年の遅れとなったが、大幅な渋滞の解消が見込まれる。
ホーチミンでも
都市鉄道「ホーチミンメトロ1号線」の試運転が11月半ばに始まった。地下駅3、高架駅11の全長約19キロ。年内の商業運転開始を見込む。投資総額は約18億ドル。利用料金は片道1回当たり6000~2万ドン(約36~120円)と安価を予定している。
一方、ハノイとホーチミン間を結ぶ全長1541キロのベトナム初となる南北高速鉄道建設計画は、今後の同国経済を占うビッグプロジェクトとして注目に値する。標準軌(1435ミリ)を採用し、最高速度は350キロ。メートル軌の在来線では1日半も要していた両都市間の輸送時間を5時間以内に大幅短縮する。総事業費は約675億ドルを見込む。建設開始は27年末、全線開通は35年を予定する。航空機輸送との競争も現実的となる。
南北高速鉄道計画が注目を集めるもう一つの理由に、その経済効果がある。
建設にあたりベトナム政府は可能な限りの現地調達化を指示。幹線鉄道の建設に加えて国内企業の育成や技術刷新、ノウハウの取得を同時に進めていく考えだ。真っ先に手を挙げたのが、国内鉄鋼大手のホアファット・グループ。鉄道レール用鉄鋼を600万トン供給する考えを示した。また、建設土木大手デオカー・グループも山岳地帯の土木工事やトンネル掘削の受注に意欲を示している。
隣国中国とを結ぶ国際鉄道の整備にも力を入れる。ハノイや港湾都市ハイフォンから中国国境に至る鉄道路線計画は現在、ラオカイ(北部ラオカイ省)~ハノイ~ハイフォン、ドンダン(同ランソン省)~ハノイ、モンカイ(同クアンニン省)~ハイフォンの計3路線がある。このうち、内陸部の雲南省河口瑶族自治県に至るラオカイ線のハイフォン東方ハロンまでの約450キロを優先させる。総事業費は約184兆ドン(約1兆1000億円)を見込む。
ベトナム政府が中国を結ぶ国際鉄道建設に意欲を示すのは、
巨大な市場に対する国境貿易の比率を高めたいからだ。中国国内では標準軌が採用されているのに対し、ベトナムでは依然としてメートル軌を使用。このため、軌道が異なる車両が行き来するために三線軌条が採り入れられている。しかし、その区間もハノイ・イエンビエン駅から中国・北京南駅までの一部区間だけ。これにより、輸送量は1日3編成までと限界がある。標準軌となる国際鉄道開業によってこの不便を取り除くのが狙いだ。
南部新空港と国際輸送港を開設
空路や港湾施設の新設・改良も進む。南部ドンナイ省では
現在、ホーチミン市・タンソンニャット国際空港に代わる新たな空の玄関口「ロンタイン国際空港」の新設工事が続けられている。4本の滑走路、4つのターミナルを兼ね備えた巨大空港の完成当初予定は25年末。ところが、政府は11月、これを1年程度延長するプランを示した。
2本目となる第2滑走路の建設を、当初計画の第2工期から第1工期内に前倒し変更するのに伴う措置。すでにタンソンニャット空港は年間の利用者が4100万人と飽和状態にあり、国際線発着空港のスムーズな変更のためには開港を1年遅らせてでも得策と判断した。この地域での利用者が今後も増えると見込んでの見解だ。
同様に南部のロンアン省にある河川港「ロンアン国際港」では、国際輸送コンテナの受け入れ作業が間もなく完了の見通しだ。同港ではこれまで国内輸送のみを扱ってきたが、ホーチミン市と郊外の港湾施設の混雑から国際輸送を取り扱うことになった。港湾施設料が免除される見通しで、同港を利用する荷主らは輸送コストが最大3割削減できるとして利用を呼びかけている。
自由貿易区と企業誘致
こうした国際輸送網の整備に伴って、自由貿易区(FTZ)の設置にも弾みがつくと見られている。中部ダナンでは
10月に工業団地の「ダナン・ソフトウエアパーク」の拡張が承認された。これを契機に、行政や投資手続きの大幅な優遇措置が受けられるFTZの開設を目指す。進出する外国企業には法人所得税や輸入関税、土地使用料の減免が恩典として保証される。世界市場では広く採用されているFTZモデルだが、ベトナムでは国内法の未整備があって適用が遅れていた。
国際通信拠点としての地位も狙う。ホーチミン市は市内にデータセンターの開設を行い、外国企業の受け入れを加速させたい考え。これを受け、国内通信大手サイゴン・インンベストメント・グループ傘下のサイゴン通信技術社などが市に建設計画を提出。タンフーチュン工業団地を候補地としている。投資ファンドなどと連携しながら資金調達を図る考えだ。
国内の4Gインフラのうち4割の市場占有率を誇る、ベトナム軍隊通信グループ(ベトテル)は海底光ファイバーケーブルの敷設に意欲を見せる。30年までに計4本のケーブルを新設することで国内の国際需要のうちの6割を賄えると試算する。同社もデータセンターの開設に力を入れている。
トランプ米政権の再登場により、さらなる中国離れと加速するベトナムシフトにも備える。既に、米アムコ・テクノロジーや韓国ハナマイクロンといった半導体関連各社はベトナムへの投資を進めている。中国からの生産移転を自国の経済成長に結びつかせる、またとないチャンスでもある。ハノイやホーチミン郊外では用地の選定作業が熱を帯び始めている。
原子力発電開発を加速
各種インフラ整備の一方で、懸案材料となっているのが電力の不足だ。最高指導者のトー・ラム共産党書記長は10月に開かれた国会審議に登壇し、「原子力発電は(必要とされる)電力供給を確かなものにするために欠かせない手段だ」と発言。
今後、ベトナムが初めてとなる原子力発電に大きく舵を切っていく可能性を示唆した。
国会審議によると、ベトナムの現在の電力供給能力は約8000万キロワット。発電所や送電線など既存設備の維持に年76億ドルの資金を要しているといい、電力需要もこのところ年10%以上の割合で増加しているという。このままのペースで推移すると、30年時点で1億5000万キロワット強、50年では現在の5倍の電力が必要になるうえ、巨額のランニングコスト負担が生じるという。
インドシナ半島には水力発電所が多いが、それも限界に近づいており、政府が50年までのカーボンニュートラル実現を掲げていることからも火力発電の増設は困難と判断。こうしたことから浮上したのが原子力だった。政府は電力法を早期に改正して、今後の電源の中心を電子力と水素に置く方針を固めている。
導入される発電炉は、日本や中国などで採用されている1基当たり100万キロワット程度の大型のものではなく、30万キロワット前後の「小型モジュール炉」が採用される見通し。今後、この分野での原子力産業が成長していく可能性が早くも取り沙汰されている。
参考情報:https://hanoitimes.vn/vingroup-to-carry-out-four-projects-worth-us343-billion-in-hanoi-313475.html
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