クレジットカードのように厳しい審査が要らず、簡単な手続きで後払いができるようになる「BNPL(Buy Now Pay Later)決済サービス」。日本国内はもちろん、東南アジアでも支払いの選択肢として選ばれるようになっています。今回は、日本国内で「NP後払い」などの後払い決済サービスを提供する株式会社ネットプロテクションズにて、ベトナム進出を担当している責任者の西浦さんに話を聞きました。
Net Protections Vietnam Co., Ltd.
General Director
西浦 司 様
国内で7人に1人が利用している後払いサービスを展開
― 貴社の事業についてお聞かせください。
弊社は2000年に設立された後払い(BNPL)決済サービスを提供する会社です。2002年から日本で展開し、現在では東京、関西、九州に拠点を構えています。海外展開も進めており、現在は台湾とベトナムに進出しています。
後払い決済は、簡単に言えば商品を受け取ってから支払いをする仕組みです。昔のカタログ通販のように、商品と一緒に請求書が届き、後からコンビニなどで支払う、あのシステムのイメージです。この決済方法をさまざまな企業からアウトソーシングとして請け負っています。現在、国内では7人に1人が当社が提供する後払い決済を利用しています。
BtoCの「NP後払い」だけでなくBtoBの企業間取引の掛け売り(「NP掛け払い」)にも対応しています。どちらの場合も、弊社が間に入って請求に関わる業務を代行し、回収リスクを負担します。全額保証する代わりに、売上の数パーセントを手数料としていただくビジネスモデルです。
クレジットカードに似ていますが、面倒な申し込み手続きは不要で、携帯電話番号の認証だけですぐに利用できるというのが強みです。「銀行口座がない」、「法定年齢に達しない」といった理由でクレジットカードを持っていない方でも後払いができるようになります。
他の後払いサービスとの違いは、リスク管理の姿勢にあります。事業者の立場に立ち、売上やコンバージョンの向上に重きを置いており、多くの情報提出や面倒な手続きを極力排除することでユーザーの離脱を防いでいます。
また、他社が避けがちなグレーゾーンの取引も、「疑わしきは罰せず」の精神で、確証がない限りはまずご利用いただく方針を取っています。実際に未払いになるのは、全体の0.6%とかなり低く抑えられています。
eコマース市場の成長性など、ベトナムを選んだ3つの理由
― なぜ、東南アジアの中でもベトナムを選ばれましたか。
理由は主に3つあり、まず1つ目はeコマース市場の成長性です。主戦場であるeコマースの拡大が見込めています。2つ目は、競合環境で、似たサービスを提供する競合がいるか、どのくらい投資規模が必要かを考慮しました。3つ目は、法規制です。後払いサービスが金融事業とみなされると、多額の資本金が必要になったりするなどして、参入の障壁が高くなりますが、ベトナムは比較的柔軟に事業を始められています。
市場規模ではインドネシアの方が大きいですが、後払いサービスの競争が激しいです。投資体力を考えると、まずはベトナムで成功を収め、そこから他国へ展開するのが最適だと判断しました。
大きな目標は、アジア全域に後払い決済サービスを広げることです。売り手が買い手を心配せず商売でき、買い手も柔軟に決済できる滑らかな商習慣を広めたいと考えています。
ただ、これまでに海外での経験がなかったため、まず2018年に台湾で、海外向け後払いサービス「AFTEE(アフティー)」の提供を開始しました。台湾での成功を踏まえ、次のステップとして2022年からベトナムへ進出しました。
― ベトナムのeコマース市場はどのような特徴がありますか。
日本と比べてモールサイトへの集中度が高く、ブランドの自社サイトよりもモールでの購入が好まれる傾向があります。上位サイトの月間売上高は、1位のShopeeが約600万USドル、2位のTiktokShopが約200万USドル、3位のLazada(ラザダ)が約100万USドルに達しています。
大手ブランドも、自社サイトとモールサイトの両方で販売していますが、モールサイトでの販売が主流となっています。ブランド側としては手数料などのコストがかかるため自社サイトへの誘導を望んでいますが、消費者の「買うならモールサイト」という意識が根強いです。
徹底した顧客体験の追求
― ベトナムでのサービスの受け入れ状況はどうでしょうか。
ベトナムでも好評を得ており、ある大手eコマース事業者では、全決済の約18%が後払いを利用しています。
ベトナムは、オンラインショッピングに対する抵抗感が低く、特に20代、30代の若い世代を中心に利用が広がっています。お得に買い物を楽しむことを重視しており、次の給料日までの橋渡しとして利用されるケースも多いようです。
ただ、利用者は加盟店の顧客層に大きく依存する傾向にあります。例えば、コスメ系のショップでは20代、30代の女性が多くなります。つまり、後払いサービスがどの層に刺さるかというよりは、加盟店の顧客層がそのまま主な利用者となっています。
さまざまなブランドと提携
今後は、台湾ですでに行っているようにサービスのローカライズを進めていく予定です。東南アジアでよく見られる「Buy Three Get One Free (3つ買うと1つ無料)」などから、”お得さ”は、アジアでは強い魅力づけになります。台湾事業では購入後にルーレットゲームを提供し、追加割引のチャンスを設けるなど、買い物中にお得感を感じられる仕組みを導入しています。
― なぜ、AFTEEがベトナムで選ばれているのでしょうか。消費者や加盟店からはどのような声が寄せられていますか。
まず、消費者のプライバシーを重視している点が挙げられます。利用開始時に個人情報をほとんど提供する必要がありません。これは多くのお客様から喜んでいただいている部分です。
次に、商品確認後の支払いが可能という点です。特に初めて利用するような小規模なWebサイトでも、「商品が届いてから払えばいいから、詐欺や不良品の心配がない」という声をよく聞きます。
支払いの柔軟性も魅力の1つです。基本的にはSMSを通じて請求し、受け取った人はWebページを開いて好みの決済方法を選べます。購入時はもちろん、購入後でも3回払いに変更できるなど、柔軟性があります。
加盟店であるユーザー企業様に関しては、優れた購買体験が決め手になっていると考えています。AFTEEは、アプリに遷移することなく、ポップアップから簡単に決済ができます。そもそも弊社のアプリをダウンロードする必要すらありません。
他社だと、アプリのダウンロードやeKYC(電子本人確認)、SNSのチェック、年収情報の提出など、かなり複雑な手続きが必要で、利用開始までに15分から数時間かかることもあります。AFTEEは、電話番号を入力してSMS認証するだけで、わずか10秒ほどで決済が完了します。
オペレーターとして加盟店様の売上に貢献することを重視しているので、いかにコンバージョン率を高めるかを追求していますね。
アジア全域で羽ばたくグローバル企業に
―今後の展望についてお聞かせください。
先ほど触れたように、我々としてはベトナムのみではなく、他国にもより早く進出していきたいです。ベトナムでいち早くビジネスモデルを確立し、タイ、インドネシア、マレーシアといった、GDPの高い国にも進出していきたいと思っています。
また、我々の事業とはズレるかもしれませんが、海外で戦っていく日系企業がより増えると嬉しいですね。現地で実際に仕事をしていて、日本人の仕事のクオリティは高いと思います。言語の壁もある中でうまくいかないことが多々あると思いますし、私自身も多くの失敗をしています。それでも粘り強くやっていけば日系企業も海外のマーケットを開拓できると感じています。日本人の仕事に対する熱意が、東南アジアで羽ばたいていけると良いのではないでしょうか。