大手財閥から高専との提携まで―ニューラルグループ社が目指すタイでの共創 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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大手財閥から高専との提携まで―ニューラルグループ社が目指すタイでの共創

タイでビジネスをスタートして1年も経たないうちに、タイでのAIサービス・システムの展開で実績をあげ、注目を集めている企業があります。それが「ニューラルグループ社(Neural Group (Thailand) Co., Ltd.)」です。

ニューラルグループ社では、2022年11月に現地法人を立ち上げたばかりにもかかわらず、すでにタイの著名な財閥や企業との事業提携を実現。さらにタイで日本の高等専門学校(高専)の教育カリキュラムを取り入れたタイ高専(KOSEN-KMITL)と連携協定を締結しコンピュータ工学科の講師としてエンジニアを派遣するなど、タイに根差した取り組みにも力を入れています。海外展開にあたりなぜタイを選び、なぜこれだけの短期間で地元の財閥・企業・教育機関との連携を成し遂げられているのでしょうか。今回、ニューラルグループ社CEOの竹中 一真さんから話を伺いました。

 

AIで「待ちのない街」「情報に出逢える街」の実現を目指して 

ー 近年、AI技術を活用したスタートアップ企業が続々と登場しています。ニューラルグループ社はどのようなAI技術の特徴があるのでしょうか。
 
竹中さん: 
当社グループは人工知能(AI)領域のスタートアップです。「AIサービスをはじめとする最先端テクノロジーで心躍る未来を」とのビジョンのもと、主に街空間に設置したカメラ映像を、AIを用いて解析するスマートシティーサービスを展開しています。

画像解析AIというと、顔認証など「個人を特定した管理や監視」といったイメージを持たれることが多いかと思います。一方で、ニューラルグループ社の画像解析では、個人情報の特定というよりも、街空間での人の行動や車両の流れを可視化し、その情報を活用しながら、街の人々に便利でわくわくするようなサービスの提供に注力しています。

日本では、2018年の創業から、スマートシティと言われる先端技術を活用した先進的な街づくりを進めるエリアを中心に、実績を積み重ねてきました。


Neural Group (Thailand) Co., Ltd.最高経営責任者(CEO)兼マネージングディレクター 竹中 一真さん

ー 技術的には、他のAIによる画像解析とどのような違いや特長があるのでしょうか?

竹中さん:
自社で開発した最先端のAI技術を活用することで、エッジ機器と呼ばれるポケットサイズのデバイスで高精度なAI解析を実現している点に大きな特長があります。当社には、世界6か国から優秀なエンジニアが集まっており、申請中を含めて29件の特許技術を保有しています。例えば、カメラで捉えた3次元空間の映像から、オブジェクトの位置を正確に把握できる技術や、AIの学習用データとしてCG(コンピューターグラフィックス)で様々なパターンを生成する技術があり、環境変化が大きい屋外環境や、人や車が重なり合うように混みあった空間でも、極めて正確なAI解析を可能にしました。

例えば、大規模商業施設を取り囲むように点在する屋外駐車場の混雑状況を、限られた台数のカメラの映像を基にAI解析し、ホームページ上でリアルタイムに情報発信するサービスを提供しています。来場客は商業施設に到着する前に、スマートフォンから混雑状況を確認し、「いつも利用する駐車場は今混んでるから、今日は道路の反対側の駐車場に停めよう」といった選択肢を持つことができるようになります。また、例えば駐車場が混雑していない時間帯は、施設内のサイネージにクーポンを出して、来場客の買い回りを促すなど、データを使った効果的な施策に繋げることもできます。

こうしたAI解析を現地に設置したエッジ機器と呼ばれる小さな端末内で実現するのが、「エッジAI」技術です。「大量の映像やデータをネットワークで送受信して大規模なクラウドでAI解析する」という従来の「クラウドAI」とは異なり、「エッジ機器内でAI解析を完了させ、少量の処理後データのみをクラウドに送信する」というアプローチ方法です。

エッジAIは、クラウドAIに比べて、コストや遅延、環境負荷の観点でメリットがあることに加え、現地で撮影したカメラ映像をクラウドに送る必要がないことから、2022年6月から全面施行となったタイの個人情報保護法(PDPA: Personal Data Protection Act)にも配慮できているという点で、タイの現地企業からも大変好評をいただいております。



また当社では、エッジAIによる高精度な解析と、webページや現地に設置したLEDビジョンをはじめとする情報発信媒体との連携にも注力しています。待ち時間を楽しく安心して過ごせる時間へ変える「待ちのない街」、そして街の人々が欲しい情報をタイムリーに届ける「情報に出逢える街」という、二つの「当社が実現するスマートシティの姿」を掲げ、そのためのプラットフォームづくりをおこなっています。

 

欧米でも中国でもなくタイを選んだ理由 

ー すでに国内でも実績がある中、なぜ海外へのビジネス展開を考えたのでしょうか。また、ASEANの中でもタイを選んだ理由があれば教えてください。
 
竹中さん: 
人や車は国が違っても基本的に同じ形をしています。当社の主戦場である画像解析は、音声や言語等の他の領域に比べて国や文化による壁が少ないため、創業当初から海外展開を意識していました。コロナ禍の影響で海外進出に本格着手できない期間が続きましたが、昨年秋にようやく海外渡航制限も緩和され始め、今後の成長可能性を踏まえて、東南アジア市場への本格的な進出に着手しました。

欧米は個人の人権意識や法制度上、街空間の映像解析の促進は難しい部分があります。一方で中国はこの分野で成長している企業がいますが、まだプライバシー保護のルール作りは十分になされていません。日本では政府主導でカメラ映像の利活用についてルール作りを進めてきたことで、プライバシー保護とAIによる安全で便利なサービスの提供を両立させ、社会的な受容度を高めてきた経緯があります。東南アジアでのAIサービスは時期尚早と言われることもありますが、ゆくゆくは中国企業も東南アジアに本格参入してくる可能性を考えると、いち早く東南アジアに進出し、プライバシー保護と両立させた日本式のフォーマットを広めながら、礎を作ろうと考えました。

東南アジアの中でも、とりわけタイは、渋滞問題が経済成長の阻害要因として社会問題化しており(=「待ちのない街」へのニーズ)、屋外広告などから新しい情報を入手して取り入れたいという国民性があり(=「情報に出逢える街」へのニーズ)、当社サービスのコンセプトとの親和性が決め手となりました。



また、タイには「CPグループ」に代表される財閥企業(コングロマリット)があり、Tech企業への投資にも積極的であること、さらに日系のタイ進出企業6,000社の厚みとこれまでの先人の方々が築いてこられた日本ブランドへの安心感や信頼感もあります。これらの条件を踏まえて、最初の本格的な進出先としてタイを選びました。

 

「競争」ではなく「共創」のマインド

ー ニューラルグループ社といえば、タイ最大の財閥と言われるCPグループとの事業提携をしたスタートアップとしても注目を集めました。この事業提携はどのようにして実現したのでしょうか?
 
竹中さん: 
2022年11月に、在タイ日本国大使館とJETROが主催する、日本のスタートアップをタイ財閥にお披露目するというピッチイベント「Rock Thailand #4」に登壇させていただき、そこからのご縁がきっかけです。


ジェトロ、在タイ日本大使館が主催し、タイ通信大手トゥルー・グループが共催した、日本のスタートアップなどによるタイ財閥へのピッチイベント「Rock Thailand#4」


ー 実際にどのような事業提携を始められているのでしょうか?
 
竹中さん: 
CPグループのデジタルマーケティング機能を担うEgg Digital社と事業提携をしました。オンラインマーケティングでは、閲覧数や閲覧時間等のデータから効果分析を行うことが一般的ですが、オフライン空間では人々の行動を可視化できず、定量的な効果分析が難しいとされてきました。当社のエッジAI技術を活用することで、Egg Digital社が取り組むオンライン空間とオフライン空間でのデジタルマーケティングの融合や、屋外広告メディアでの更なる活性化に貢献したいと考えています。

今回の事業提携では、3つの新たな化学反応を楽しみにしています。1つ目は、デジタルマーケティング×リアル空間という新たなチャレンジができること。2つ目は、これまであまり事例がない、新興国の財閥企業×日系スタートアップという座組みで共創をしていくこと。最後はタイを始め東南アジアで事業をする上で重要だと考えているマス×AIでより大きなインパクトを生み出せる可能性があることです。

タイは日本や先進国に比べて、全国津々浦々での質の高いインフラ投資が進んでおらず、インフラ投資が首都や特定の街に偏りがちです。つまり、AIによる便利で快適なサービスを、一部の人々しか享受できずに分断されてしまう可能性があります。ただ、タイ全国に数千店規模の小売店舗チェーンを運営する企業に大規模導入してもらうことができれば、AIを社会インフラとして広く使って頂くことが可能となると考えています。テックの観点からも、こうしたインクルーシブな街づくりを目指したいと思っています。

最近では「リバースイノベーション」という概念が注目されています。先進国の技術を新興国で再現するのではなく、規制が緩く、インフラ整備が十分に進んでいない新興国で事業を一気に作り上げ、それを先進国に持ち込むイノベーションの形です。東南アジアでは、こうしたリバースイノベーションの可能性も感じています。


ー「リバースイノベーション」といえば、現地のタイの人々が求めているのは「モノ」ではなく「パートナーシップ」であるという声を聞くようになりました。タイ企業と日系企業とはどのようなパートナー関係でありたいとお考えですか?

竹中さん: 
「Co-Creation」、つまり「(価値の)共創」という考え方が定着してきました。モノや技術を一方的に売るのではなく、一緒にビジネスを育て創りあげていくといった姿勢が大切だと思っています。

タイの財閥企業は日本では想像ができないようなスケール感があります。創業ファミリーの経営者とお話しさせて頂いた際、最初に「中国とインド、ASEAN、日本の人口を合計すると、およそ世界人口の約半分になる。この世界の半分を相手に何ができるか」という話をして頂きました。「AIを入れるならば、すぐにタイ国内全店舗に。タイの次はあの国で。」という話になってきます。そうしたスケール感や高い視座を持つ企業とご一緒できることは、日本発のAIグローバル企業を目指す我々にとっては、とても貴重な機会だと感じています。


ー もう1つのパートナーシップの動きとして、タイ初の高専「KOSEN-KMITL」との連携協定の締結があります。なぜタイでビジネスを始めて一年足らずのタイミングで、タイの若手エンジニアを育成しようと考えられたのですか?

竹中さん: 
AI企業としてイノベーティブなサービスを作るには、まずそれができるエンジニア体制を整えることが重要ですが、タイにはAIエンジニアが非常に不足しており、採用活動をしてもなかなか見つかりません。タイの土地で事業をさせて頂くからには、事業展開に加えて、さらに何かタイ社会に貢献できることをしたいと思っていたこともあり、AIエンジニア人材の育成に取り組むことにしました。そのなかで、日本政府の支援のもと、日本型高等専門学校の教育制度を導入しているKOSEN-KMITLのコンピューター工学科の生徒を対象に、当社のCTO(最高技術責任者)が講演する機会を頂いたのですが、非常に優秀で意欲も高い生徒の皆さんに熱心に聴いて頂くことができました。


KOSEN-KMITLでの授業の様子

ちょうど一期生が3年生になり、専門的な授業がスタートするところでしたので、AIエンジニアやコンピューターサイエンティストの育成支援に向けたパートナーシップ協定を締結して、当社のエンジニアチームが定期的に授業に参加し、サポートをさせて頂くことになりました。
将来的には、例えばKOSEN-KMITLからエンジニアを採用し、そのエンジニアが高専や大学で教えることで、その学生が当社に入社してくれたり、同じAI領域で起業してもらって、共に市場を盛り上げていけるようなエコシステムを作りたいと考えています。

 

「AI」を売るのではなく、生活者の「体験価値」の創造へ 

ー タイの近年の発展によって今後のタイのビジネスのあり方はどのようになっていくとお考えですか?

竹中さん:
これまで「生産拠点」として捉えられることが多かったタイですが、経済発展に伴う人件費の上昇により、生産工場が周辺国にシフトしていると言われています。地理的な条件やこれまでのノウハウの蓄積もあり、東南アジアの製造業の中心はタイでありつづけるとしても、一部の生産工程は周辺国に移り、タイでは生産の効率化やテクノロジーのR&D(研究開発)の機能を担っていくという動きが出てくるのではないかと予想しています。そうした動きをチャンスと捉えて、現地のAIエンジニアやデータサイエンティスト人材と共に、タイの地に根ざした新たなAIビジネスを作り上げていきたいと思っています。


ー そのようなタイの変化と共に、ニューラルグループ社の将来への展望をお聞かせください。
 
竹中さん: 
当社はAIを売るのではなく、AIによって便利で安全でわくわくするような「体験価値」を売っています。タイに暮らす人々が当たり前のように当社のAIが解析した情報を使って、より快適な生活を実現して頂けるようにしたいです。そのためにも、タイ企業とプロトタイプとなるような大きなプロジェクトを一緒に作り上げていきたいです。中期的には、タイを起点に、東南アジアや中国、アメリカまでビジネス規模を広げていくことを目指しています。

 
ー 最後に、今後ASEANやタイ進出を目指す日本のスタートアップ企業へのメッセージをお願いします。

竹中さん:
タイに来て、タイの人々と日系企業の間に厚い信頼関係があることを実感します。これまでの先人の方々が築き上げて頂いた賜物で、タイにない技術を持った会社が日本から来た時の期待値はとても高く、ドアをノックすればみなさん扉を開いてくれるという印象です。

また、大使館のサポートも厚く、「日本のスタートアップをタイへ」という機運が今ものすごく高まっています。スタートアップは、どのタイミングにどの市場に出るかがすごく大事だと思いますが、タイ市場を意識するのであれば、今がとても良い時期だと思います。一緒に切磋琢磨しながら、マーケットを開拓していく仲間がもっと増えたら嬉しいです。
 

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