タイ企業固有のビジネス課題を「サステナブル×AI」で解決するRecursiveの強みとは? | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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タイ企業固有のビジネス課題を「サステナブル×AI」で解決するRecursiveの強みとは?

長期ビジョンの「タイランド4.0」で、2036年までに高所得国入りを目標に掲げているタイ。先端テクノロジーやサーキュラーエコノミーにも強い興味を持つ経営者が多く、日本とは違う熱量が渦巻いています。株式会社Recursive(日本語社名:リカーシブ、以下:Recursive)はサステナブルとAIを組み合わせ、東南アジアの課題を解決してきました。今回は、Recursiveの事業概要やタイ進出の背景、展望について代表取締役兼COO の山田勝俊氏に話を伺いました。


株式会社Recursive 代表取締役兼COO 山田勝俊氏

 

カスタムメイドで「サステナブル×AI」ソリューションを提供

― まず貴社の事業概要についてお聞かせください。

主にはAI開発、ソフトウェア開発、事業開発・運用を手掛けています。一番の強みは各社固有のビジネス課題に、AIを用いたカスタムメイドのソリューションを提供できる点です。既存のAPIやオープンソースの活用ではなく、Recursiveのようにオリジナルのアルゴリズムを開発できる企業は少ないでしょう。それをプロジェクトベースの開発やテクノロジー兼プロダクトとして提供させていただいています。

カスタムメイドにこだわる理由は、「ソフトウェアを導入したが現場で使われない」「結果、オペレーションも変わらない」などテクノロジー導入後に起こりがちな問題を避けるためです。

当社が掲げる「AI for sustainable innovation」では、次の4つの柱を設けています。Accelerate Innovation(イノベーションの加速)、Increase Productivity(生産性の向上)、Prepare for future risks(未来のリスクへの備え)、Deliver better work and education(より良い教育と仕事)です。これら4つの柱に沿ってクライアントとビジネスを進めています。


出典:https://recursiveai.co.jp/ja/solutions/

代表的な事例が、住友林業様やIHI様と共同で取り組んだインドネシアのプロジェクトです。インドネシア熱帯泥炭地は、無秩序な伐採や焼畑によって干ばつや洪水が生じていました。地下水位が下がると乾燥し、森林火災の原因になります。そこで当社のAI技術を使い、地下水位を7日後まで予測可能になりました。他社が1年半かけて実現できなかったことを、当社はわずか約2カ月で実現しました。現在は、シミュレーションを用いた水路やダムの適切な運用で、自然災害を防げるようプロジェクトを継続しています。

 

AI開発から事業開発まで“丸投げ”できるプロ人材が在籍

― Recursiveにはどのようなメンバーがいらっしゃるのでしょうか。

「アジアで唯一」の人材がいることも、私たちの強みです。例えば共同創業者で、代表取締役CEOのティアゴは、ポルトガル出身でドイツにてPh.D.(博士号)を取得後、Google DeepMindで働いていました。彼はシニアリサーチエンジニアを務め、ネイチャーに論文を掲載したり、囲碁の世界チャンピオンを倒したAlphaGoを開発したメンバーをマネジメントしたりといった経験があります。


株式会社Recursive 代表取締役兼CEO Tiago Ramalho氏

私自身は連続起業家で、サステナブル領域に16歳の頃から情熱を持ち続けてきました。エシカルファッションのブランドを日本市場で立ち上げて責任者を務めていましたが、社会課題の解決におけるテクノロジーの重要性を感じて2016年からAI業界に入りました。その後、2018年から3社ほど連続起業していましたが、ティアゴとの出会いからRecursiveの共同創業を決めました。

他にも、Googleの顧客開発部門を統括し、大企業とDXプロジェクトを進めていたものや、Appleでシニアバックエンドエンジニアとして活躍していたものもいます。

こうした人材の存在で、事業開発を目指したコンサルティングからソフトウェア開発まで一気通貫にソリューションを作れるのが、私たちの強みです。クライアントから「Recursiveに一任ができる」という声をよくいただきます。AI開発のみを担うスタートアップは他にもいますが、AIやソフトウェア、事業開発のプロが在籍し、かつ、サステナビリティという文脈で整理できるので、「どうすれば先端テクノロジーでサステナビリティを解決できるのか、分かりやすく説明してもらえ、また迅速に実行してくれる」という点を評価いただいています。

 

タイに渦巻く熱量に魅せられて進出を決意

― なぜ、タイに進出しようと考えられたのですか。

タイ進出に動き始めたのは2023年3月頃です。進出の理由は、第一に「日本のため」です。コロナ禍ということもあり、ここ3年ほど日本で活動していて、日本に対する危機感を感じていました。日本は素晴らしい国ですが、DXやSX(サステナビリティトランスフォーメーション)に対する受け入れやスピード感について疑問や怖さを感じたのが正直なところです。

経済産業省やJETROを含め、いろんな方々と協力させていただきながら話していたのが、私たちのようなスタートアップが海外に出て事例を作り、それを日本に持ち帰ろうと。少し生意気を言うようですが、事例を作ることで日本企業のお尻を叩くではありませんが、危機感をいだくきっかけになればと考えています。

2つ目は、18カ国43名のメンバー(※2024年1月時点)がいますから、どんどんビジネスチャンスを狙うべきだと思っています。東南アジアは経済成長が進んでおり、日本の立地を生かせる点でも魅力的です。

私自身がシンガポールで会社役員を経験していたり、ベトナムにも会社を持っていたりしたので、東南アジア事情を多少は理解しています。その上で、当社と相性が良いクライアントとなると、中長期で投資できる大企業や財閥が対象です。タイにはCP(チャロン・ポカパン)グループをはじめ、大企業がいくつもあるので、そこに魅力を感じたのは事実です。


― 現地視察などをされて、タイにどのような印象を持たれていますか。

CPグループやBANPUグループも含め財閥系の方とはお話をさせてもらっていますが、環境面に対する懸念を彼らは強く抱いています。私たちはAIのテクノロジーを駆使して、社員レベルを上げながら一緒に社会課題を解決していくことができるので、相性は良いと思っています。


― ビジネス文化の違いを何か感じられましたか。

彼らからは「新しいものを吸収してやろう」「絶対に実現しよう」という熱をメンバーの方に限らず、役員クラスからも感じました。2023年8月のTechsauce Global Summit 2023”に、ティアゴがメインスピーカーとして登壇したので私も現地に訪問しましたが、私たちに会うために名だたる財閥の役員たちが来てくれたんです。


Techsauce Global Summit 2023 での登壇の様子

創業期に、ある方がCPグループのトップCTO、通称ドクターJJを紹介してくれましたが、わざわざご本人が当社とのミーティングに参加してくれました。創業数カ月のスタートアップとのミーティングに、財閥のトップCTOが参加するのは日本で滅多にありません。しかし、タイではそれが実現するという点に熱量を感じました。

また、彼らが頻繁に語っているキーワードは、「サーキュラーエコノミー」です。日本企業で聞く機会は少ないかもしれませんが、タイでは「サーキュラーエコノミーを実現したい」と真剣に考える企業が多くあります。社会的な影響力の大きい財閥がそれを実現できたら国に対してもインパクトを与えるのではないでしょうか。

 

4つのAIテクノロジーで、東南アジアや中東進出を目指す

― 具体的にはどのような先端テクノロジーを提供されるのでしょうか。

テキスト生成AI、画像生成AI、科学的AI、埋込AIという4つの柱を設けています。

テキスト生成AIでは、企業のナレッジデータベースとして活用できる「Find Flow」を開発しました。会社の情報をFind Flowに預けることで、企業固有の質問に答えられます。社員教育の面でも、コンテンツの作成や自動採点、パーソナライズ化により、人材の傾向に応じたカリキュラムを組むことが可能です。

画像生成AIに関して、既存のソリューションでは企業のイメージに沿う画像を生成できず、現場では使いづらいという問題が起きています。例えば、きれいな自然の画像を作るにも、広告バナーに使う場合は、ブランドや経験から使用したい画像が決まってくるでしょう。それを個社ごとにカスタマイズして作れるようにしています。

科学的AIでは、規定の気象観測地から離れた場所で高精度なシミュレーションができる「Borealis(ボレアリス)」を開発しています。再生可能エネルギーの発電量算出やハザードマップ作成、生物多様性の影響度チェックのための気象シミュレーションを実現可能です。特に東南アジアや中東の企業が興味を持ってくれています。


― 今後の展望をお聞かせください。

2024年度中にタイにオフィスを設置する予定です。現地の財閥企業からチャンスをいただいているので、まずはPoC(Proof of Concept)から始まるかもしれませんが、成功事例を作り、他国にも展開していきたいですね。他の東南アジア諸国、加えて中東でも当社に関心を持っていただているので、引き続きチャンスを探りながら、今はタイにフォーカスしたいと思っています。

 

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