【RevComm流】”伸びしろ”だらけのインドネシア市場での戦い方 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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【RevComm流】”伸びしろ”だらけのインドネシア市場での戦い方

​日本国内では、デジタル領域のスタートアップ企業がいくつも登場している一方で、海外への事業展開を果たしている企業は多くありません。そうした状況の中で、いち早く東南アジアのインドネシアで事業を展開して注目を集めている企業があります。それが「株式会社RevComm」です。 

RevComm社は、2017年7月の創業以来、AI×Voice×Cloudのソフトウェア/データベースを開発・提供し、日本国内で実績をあげています。2022年には、インドネシアでサービスの一部の本格的な展開をはじめ、9月時点でインドネシア現地企業45社を含む約50社に導入されるなど、サービス展開を加速させています。

なぜ、インドネシアを選び、どのようなプロセスで海外事業を実施してきたのでしょうか。今回、2021年7月からRevComm社にジョインし、現在インドネシアでの事業展開に携わっている佐々木結一郎さんからお話を伺いました。 


株式会社RevComm VP Global Dept  佐々木結一郎さん

 

電話情報を見える化するサービス「MiiTel」でインドネシアへ

RevComm社では、自社サービスの一つであるAI搭載のIP電話「MiiTel」の、インドネシアでの提供を2022年から本格的にスタートしています。


MiiTel インドネシア版のサービスサイト

「MiiTel」は、従来ブラックボックス状態のままとなっていた営業や、カスタマーサポート担当と顧客との会話を「見える化」するサービスです。すでに日本国内では多くの企業の利用実績があります。「MiiTel」を活用することで、社内のハイパフォーマーが「何を話しているか」「どうやって話しているか」を可視化することができます。そのため、そのノウハウを他の社員に共有することで教育コストを減らし、個々のパフォーマンスの最大化をすることができます。

現在、この「MiiTel」のインドネシア展開を担当している佐々木さんは、2016年に住友商事株式会社へ入社します。

住友商事社時代に、ベトナムやインドネシアで不動産系のファイナンス業務や、PT MONOTARO INDONESIAへ出向し、インドネシアでの新規事業展開に従事したのちに、2021年7月にRevComm社にジョイン。「MiiTel」のインドネシアのローンチ、チームアップ、オペレーションの構築を担当しています。なぜ、RevComm社への入社を決められたのでしょうか。

『成功事例を作って日本企業の海外でのプレゼンス向上に貢献したい』という思いが一番にありました。日本企業がアジアで成功した事例はトヨタやパナソニック以来はおそらくありません。前職でインドネシアに駐在している期間も、東南アジアで日本企業のプレゼンスが低下していることを日々感じていました」(佐々木さん)

大企業では、定期的な部署転換のため一つのエリアや事業に長く関わることが難しいケースが少なくありません。佐々木さんは、自身の強みである「インターネットサービス×BtoB×東南アジア」の領域で日本企業の海外展開の成功例を目指したいと考えていた頃に、RevComm社代表の會田武史さんと出会います。そこでインドネシアでの新規事業の話を聞き、商社での経験が活かせる RevComm社への転職を決意されたそうです。

 

インドネシアの魅力は「人口・経済規模・法規制緩和」

そもそもRevComm社はなぜ日本のテック業界が認知されていない東南アジア、しかもインドネシアへの展開を決めたのでしょうか。

「代表の會田は、RevComm社創業前の三菱商事時代に『人口は力なり』と強く感じたといいます。人口が大きければ経済規模やマーケットの成長可能性もおのずと高まります」(佐々木さん)

そこでRevComm社が「人口の伸びしろがあり、経済規模が一定規模で将来性がある国」を検討したところ、中国やインドとともにインドネシアが候補にあがりました。しかし、ビッグデータを扱うRevComm社にとっては、当局によるデータ規制がいつ起こるかわからない中国はリスクが高く、インドは一人あたりのGDPが一定レベルに満たしていないという理由から、現時点での海外展開を見送ったそうです。

「インドネシアはジャカルタに絞ればGDPは一人あたりおよそ2万ドル、つまり平均年収は約200万円以上の経済規模があり、平均年齢が28歳ということで成長性も見込めることがわかりました。さらに2020年には『オムニバス法』によって法規制が緩和され、外資参入がよりしやすい環境になったことも後押しとなり、インドネシアを海外展開の1カ国目とすることに決めました」(佐々木さん) 

 

インドネシアと日本のビジネスの相違点と共通点

インドネシアは一定レベルの人口と経済規模があり、成長性を秘めている一方で、日本のベンチャー企業の成功実績は限られています。その意味でインドネシアでの成功は、前例のない挑戦であるといえます。

RevComm社では、東南アジア市場でのPMF(Product Market Fit)を直近のゴールとして掲げ、一定の顧客数と月間契約金額の達成を目標に事業展開に取り組んでいます。2021年からの本格的な「MiiTel」の提供に先立ち、RevComm社では2021年の段階から、インドネシア現地でのPoC(Proof of Concept:概念実証)を積み重ねていました。並行して現地のテレコムプロバイダと交渉し電話番号を入手するなど、サービス開始の準備を進め、2021年10月にローカルサービスとして「MiiTel」を有償提供できるようになりました。

そこから3ヶ月にわたり複数名採用した現地スタッフと、インドネシアではどの業種のどのワークフローにニーズがあるのか、日本との違いはあるのかなど、複数の視点からPoCを重ね、2022年から本格的にサービス拡大をスタートしました。



日本でいかにサービスのPMFが実現できていたとしても、インドネシアに同じ課題があるのか、そして、そのサービスで課題を解決できるかを確かめる必要があります。そこで、RevComm社ではインドネシアでのPMFのために、「MiiTelのアナリティクスの利用による改善」を特に重視していたといいます。
 
「『MiiTel』が他社サービスと差別化される点は、ブラックボックス状態だった電話情報の見える化によって、可視化された情報を有効に活用していく『アナリティクス』の機能にあります。アナリティクス機能を使いこなすことによって、顧客が業務やオペレーションの改善を顧客が実感できるかがPMFの鍵になります。そこでPoCにあたっては、『MiiTel』の導入前後で各種KPIを設定し、改善がなされたかどうか、その改善がアナリティクス情報の活用によるものかを、とりわけ注視していました。そのために週1回はお客さんのもとでミーティングを実施し、ダッシュボードをみながら顧客と二人三脚で取り組んできました」(佐々木さん)

このような現地企業との対話を重ねながらPoCを実施する中で、佐々木さんは、日本とインドネシアとの相違点と共通点について、それぞれ次のような発見があったといいます。


1.相違点:ビジネスツール
日本のようにビジネスにおいてメールがコミュニケーションの中心となっている国は、世界的に見ても珍しい。インドネシアをはじめ世界中の多くの国では、メールはあくまでも確認の際に用いられるものであり、「WhatsApp」のようなチャットが主にビジネスシーンでは用いられている。

2.共通点:業務フロー
ビジネスの業務フローは概ね世界共通である。例えば「人材企業は候補者からヒアリングしてクライアントとマッチングをする」「不動産会社は購入希望者を見つけて販売する」といった業務フローは、基本的に日本でもインドネシアでも共通している。


インドネシアをはじめ、世界で主流となっている「WhatsApp」には、無料通話機能はありますが録音はできません。つまり、ツールは異なりますが、日本に限らずインドネシアを含めた海外においても、多くの企業が電話情報のブラックボックス化という共通の課題を抱えているといえます。

佐々木さんは、インドネシアのとある人材企業とPoCを重ねるうちに、候補者と多くの面談を達成しているハイパフォーマーと、そうでない人との違いがわからないというペインポイントがあることを発見します。そこで「MiiTel」を導入して通話情報を見える化してノウハウを共有したところ、結果的に一人あたり50%近く売上アップに貢献できたといいます。

「『MiiTel』が日本だけでなく海外でも貢献できる価値のあることは、PoCをする以前から予想はしていましたが、確証がありませんでした。この事例によって、日本と同様の価値提供ができることが明らかになり、今後インドネシアの市場でもやっていけると確信しました」(佐々木さん)

 

インドネシア市場で勝つ鉄則は「日本で当たり前のことを当たり前にやる」

これまでの海外での駐在や事業経験を踏まえ、佐々木さんは「インドネシアは日本と比べて、まだまだ伸びしろだらけな市場」であるといいます。

定量的に見た場合、 RevComm社のウェブサイトに流入するGoogle検索のメインキーワードに『IP電話』『インサイドセールス』があります。しかし、日本で当たり前に検索されて     いるこれらのキーワードは、インドネシアでは検索トラフィックがないとのこと。また、ローカル企業と話をすると、多くの場合は『IP電話とは何か』というところから始まるなど、インドネシア市場では、IT領域の概念や言葉がまだまだ認知されていない状況だそうです。

「このような理由から、インドネシアでまだITが日本ほど浸透しておらず、感覚的には5年〜10年前の日本市場のようであるという印象を持っています」(佐々木さん)

そもそもの概念を知らないのであれば、検索のしようもありません。インドネシアの抱えるこの課題解決のために、佐々木さんは「週一回のウェビナー」を実施しています。



「トライ&エラーを重ねた結果、市場自体が立ち上がったばかりなインドネシアでは、製品はもちろんですが、まずはマーケットにまだ入ってきていないITの概念を認知させるところから始めようという結論に至りました。ウェビナーはマーケット開拓にもとてもフィットする方法です。インドネシアの競合はウェビナーにおいても未成熟な部分が多く、毎週ウェビナーを開催するなど、『日本で当たり前のことを当たり前にやれば成果が出る』状況にあります。

また、コンテンツ内容も現地のニーズに合わせることが必要です。インドネシアでは、企業で経験を積んでから数年でキャリアアップ目的の転職を繰り返すことが当たり前となっています。そのため、スキルアップへの意識が非常に高く、スキルアップ系やマネジメントメソッドなどのコンテンツが特に好評をいただいており、毎回数百名の方がウェビナーに参加されています」(佐々木さん)

一方で、佐々木さんが取り組んでいる課題の一つに「現地メンバーの育成」があります。佐々木さんによると、日本の経営者にとっては当たり前の考え方であるROIも、インドネシアではまだまだ浸透していないそうです。その結果インドネシアには、ROIをベースにした「MiiTel」のような付加価値の高い製品が市場にでまわっていないとのこと。したがって、採用する現地スタッフたちも、高付加価値の商品を販売したことのない方がほとんどで、佐々木さんは着任当初から、現地スタッフの人材育成にも力を注いでいます。

 

日本初のスタートアップの成功モデルへ

2022年7月、RevComm社は法人向けにCRMやオムニチャネルカンバセーションプラットフォームを提供するインドネシア有数のSaaS企業であるQiscus社との業務提携を発表。パートナーリングなどの新しい取り組みもインドネシアで展開しています。こうしたアクションにはどのような背景があるのでしょうか。

「インドネシアでは、ビジネスパーソンの多くが『WhatsApp』のチャットを自分の携帯電話で使っています。そのため、その人の退職とともにチャットデータも失われてしまうという課題がありました。Qiscus社はその課題を改善するサービスを提供しています。RevComm社の『電話情報の見える化』とQiscus社の『チャットの見える化』を組み合わせることで、より多くの課題解決と価値創造ができると考えました。今後も、我々にできないところは、Qiscus社に限らず積極的にパートナーリングしていこうと考えています」(佐々木さん)

佐々木さんに今後の抱負をうかがいました。

「インドネシアで事業をやっていくにあたって、まずは強いセールスチームとCSチームを現地でつくっていくことが重要になります。その上でも、高付加価値商品の販売経験がない現地スタッフの育成は非常に大切です。RevCommには、MiiTel for ZoomというZoom面談を文字に起こし、解析する製品があります。その機能を活用し、文字起こしされた商談の様子をひとつずつ私がチェックをして「ここで、もうひとつ質問をいれてヒアリングを」などのフィードバックをしたり、ロールプレイをするといった地道なトレーニングを続けています。

よくスタッフに話しているのは『大衆車を売っているのではない、高級車を売っている』ということです。従来の販売手法では高付加価値の商品を買ってくれる人はいません。お客様とのヒアリングで課題を見つけ、製品によってどんな課題解決や価値創造ができるのかを、対話から発見していくこと大切です。事業をはじめて半年ほどは、このような売り方がスタッフになかなか浸透せず、ずっと頭が痛かったのですが、トレーニングを積み重ねるうちにみんな成長をしてきて、最近はようやく強いチームになりつつあります。

一方で、強い組織になれば引き抜きも当然あります。先日、ずっと鍛えていた優秀なスタッフが転職してしまい非常に残念でした。ただ、彼女はセールスアドバイザーとして選ばれたということで、企業は違えども当社で経験したトレーニングが活かされていくことでしょう。このような優秀な人材の育成が、成長途上にあるインドネシア市場の成熟につながるものと考えています。

このように、製品のPMFと強い組織づくりが実現できれば、日本初のスタートアップの成功例として、インドネシアでもプレゼンスを得ることができます。このような取り組みによって『RevCommでできたなら私もやってみよう』という日本のスタートアップ企業が一社でも増えれば、日本への貢献も果たせると思います」(佐々木さん)

最後に、これから海外展開を検討している日本のスタートアップ企業の方々へ向けて、メッセージをお寄せいただきました。

「インドネシアや東南アジアは大きなポテンシャルのある市場であり、かつローカルの競合がまだ未成熟の段階にあります。また、将来的に競合となりうるアメリカやヨーロッパ勢は現時点でASEANを市場として見ておらず、大きな脅威ではありません。ただし、欧米勢は5年以内のうちにおそらくASEANにやってくるものと思われます。

いいかえると、既にプロダクトが洗練されている日本企業にとっては、今が東南アジアへ事業拡大をする最高のチャンスです。もちろん、ナレッジシェアの観点から社内ドキュメントを英語化するなどの地道な対応も必要ですが、なるべく早く、少しずつ着手して東南アジア進出をすれば、競合が少ない中でチャレンジしていくことができます。インドネシアを始めとした東南アジアのマーケットは、不完全さへの耐性も強いのも特徴です。どうか失敗を恐れず、どんどん挑戦していってください」(佐々木さん)
 

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