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【イベントレポート】引き合いに頼れないグローバルでのマーケティング戦略|Bigbeat LIVE ASEAN vol.03

あなたがマーケターあるいはスタートアップの経営者で、自社のグローバル進出を任されたとしたら、まずどのようなアクションをとるでしょうか。進出先のデータを買う? あるいはインサイドセールスを日本におくか検討する? 
もし答えに詰まるのならば、真っ先に取り組むべきはグローバル・スタンダードのBtoBマーケティングへ投資することかもしれません。

Bigbeat LIVE ASEAN vol.03の基調講演では、シンフォニーマーケティング株式会社代表取締役の庭山一郎さんをお招きし、日本のBtoB企業がASEANで戦うために必須である、グローバル・スタンダードのマーケティング戦略について解説いただきました。
後半では当社代表の濱口との対談を実施。コロナ禍で世界のビジネスモデルが急速に変化する中、ますます高まっているマーケティングの重要性についてお話をいただきました。
 

日本の弱点は「マーケティング偏差値の低さ」


庭山一郎さんは、40年近くBtoBマーケティングに携わり、31年前にシンフォニーマーケティング株式会社を創設。BtoB企業のマーケティングコンサルと運営支援をおこなっています。
創業以来、外資系ITハイテク企業のコンサルを通じて、世界最先端のBtoBマーケティングを実務で身につけて来られた庭山さん。
その経験と知見をいかし、ここ10年ほどはグローバル展開をする製造メーカーを中心にマーケティングをおこない、特にASEANで売上を伸ばしているそうです。

このようなバックグラウンドの庭山さんがまず強調したのは「グローバル・ビジネスは『戦略』と『戦術』、『マーケティング』と『販売代理店施策』でできている」ということ、「日本企業はマーケティングの偏差値がとにかく低い」という2点でした。

「よくあるのは、外資系企業からマーケティングマネージャーを雇ったが、社内にマーケティングナレッジがないためコミュニケーションがとれずに短期間でやめてしまうケース。やめる人間にも非があるかもしれませんが、迎え入れた日本企業のマーケティング偏差値の低さにも原因があります。」(庭山さん)

「外国の現地法人が指示に従わない」「現地の販売代理店のマネジメントがうまくできない」などのケースも、同様の原因が考えられると庭山さんは分析します。
 

マーケティングのグローバル・スタンダード「PRM」とは?


それでは、マーケティング偏差値を高めるべく、日本企業は何からはじめれば良いのでしょうか。庭山さんは、世界レベルのマーケティングでも特に重要だという「PRM」を紹介します。

「PRM」とは「パートナー・リレーションシップ・マネジメント」のこと。「PRM」において何より重要なのが、「Target Defintion(ターゲット市場)」だと言います。これは、ターゲット対象について、業種や規模はもちろん部署や担当レベルまで明確に定義することを意味します。

つづいて庭山さんは、「ターゲット市場」を定義するために、フィリップ・コトラーが定義した「STP-MD(※)」というBtoBマーケティングの基本フレームについて解説をしました(下図参照)。
※「STP-MD」とは「STP」「Marketing Mix」「Demand Generation」をまとめた総称。


 
※「STP」とは「Segmentation」「Targeting」「Positioning」を指し、まずセグメンテーションで市場を細分化し、その中から自社の製品や技術で勝てる土俵を定めます(=ターゲティング)。そのターゲットに自社の製品・サービスをどのようにあてていくかを決めるのが「ポジションニング」です。
※「Marketing Mix」は「Product(製品)」「Place(流通)」「Price(価格)」「Promotion(促進)」の4Pのこと。
※最後の「Demand Generation」とは、定義したターゲット市場の個人情報をあつめ、データを整理整頓し、使える状態にすること。


ここで「ターゲットがすべての基準であることを忘れてはならない」と庭山さんは強調します。展示会もデータの収集先から、ウェブデザイン・パンフレットのワーディング、インサイドセールスのスクリプトまで、全てをターゲット起点にする。そうすることで整合性の取れたマーケティングにつながっていくのだそうです。
 

生産性を高めるため必須の「役割分担」


ところで、マーケティングと営業と販売代理店によってつくられる「販売の生産性」において、残念ながら日本は先進国で最低レベルなのだそうです。
その最たる原因が「役割分担ができないこと」だと庭山さんは分析します。
例えば、あなたの会社で、以下のような営業への丸投げ状態に陥っていないでしょうか。

・新製品・サービス登場すると「来年までに海外の現地法人に〇〇億売ること」などと営業に指示だけが飛ぶ。
・「どのような製品で、どこに売るのか」を尋ねると、「それを考えるのが営業だ」と突き返される。
・商談のクロージングや納品、代品回収、その後の顧客サポートまで全てを営業が背負っている。


このような状態では、生産性をあげられるわけはありません。

それでは世界で戦うためにはどのような役割分担が望ましいのでしょうか。「海外では最低でも二つの役割に分かれている」と庭山さんは言います。セールスは狩猟型、マーケティングは農耕型、という分担です。
営業は数百万の案件を3ヶ月以内、数千万〜数億の大型案件も6ヶ月〜最長12ヶ月でクロージングさせる。そのためにマーケティングは、展示会やセミナー、ブログやメルマガなどのウェブコンテンツからデータを収集し、整理整頓をします。

「このフォーメーションが生産性の向上のために最低限必要です。」(庭山)

更に、近年ではさらに4つに細分化されており、それぞれ以下のようなKPIでリレーをする体制づくりがグローバル展開の上で必須だと言います。


※デマンドセンター:ROMI (Return of Marketing Investiment)/インサイドセールス:SAL (Sales Accepted Lead)/セールス:受注金額/カスタマーサービス:LTV (Life Time Value)
 

「連携」で収益成長と収益性の向上を


庭山さんによると、日本のもう一つの問題は、成長加速のキーとなるマーケティングと営業とプロダクト(ものづくり)との「連携(Alignment)」がうまくできないことだといいます。
ある調査では、連携がグローバルで実現できたときには20%近くも早い収益成長が得られるなどの成果が出たこともありました。
「きちんとした経営戦略がまずあって、その上で連携がしっかり取れている。これがグローバルスタンダードの強さ」と庭山さんは断言します。

「ASEANがこれから伸びることは欧米も知っていて、マーケティングに予算投入し、マーケティングと営業とものづくりとが連携して市場を取りにきています。日本がこのまま『ものづくりもバラバラ、マーケティングも機能せず、営業も現地法人におまかせ』という状態ならば、勝ち目はありません」。

基調講演の最後に、より深くマーケティングを学びたい方向けに、庭山さんの著書の紹介がありました。
今回の話の内容に最も近い『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP)の他、書籍タイトルは以下の通りです。ご興味のある方はぜひ参考にしてみてください。

・『サラサラ読めるのにジワッとしみる「マーケティング」のきほん』(翔泳社)
『ノヤン先生のマーケティング学』(翔泳社)
『BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方』(翔泳社)
『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング) 』(日経BP)
 

ASEAN進出をめぐる欧米と日本の相違点


後半の当社代表濱口との対談セッションでは、ASEANや日本企業の最近の変化についてまず濱口が尋ねると、庭山さんは次の2点を挙げました。

「一つは、これまでアジアの中で日本は別格な位置づけだったのが、中国や韓国らの伸張により日本もAPAC(アジア太平洋)の一部とみなされるようになってきたこと。もう一つは、中国一辺倒でのリスクを避けるため、ベトナムやインドネシアなどASEANへ展開したいという日本企業からの具体的な案件が増えてきたことです。」(庭山さん)

次に話題になったのが、ASEAN進出における欧米企業の特徴でした。

「欧米企業は、アジアのヘッドクォーターをシンガポールに置きたがる傾向にあります。標準語が英語ということもわかりますが、シンガポールにはインダストリーがなく、あまり意味があるとは思えません。本気で売ろうと思ったらベトナムならベトナム、タイならタイと軸をおくことをおすすめします。日本にインダストリーがあるので、本当は日本にこそ欧米企業は来ていただきたいですね。」(庭山さん)

濱口自身も、タイのバンコクに現地法人を設立した際も「シンガポールは税金面などで会社設立のハードルが低く、候補の一つだった」を当時を振り返ります。

つづいて、欧米と日本でのビジネススタンスの違いに話題はうつります。

庭山さんによると、外資系IT企業は、自社でエンジニアの教育機関をつくり、自社の製品ユーザーを育てるためにお金をとってまでトレーニングや試験を受けさせるのだそうです。「自社はいい製品をつくり、いいマーケティングをしている。製品を売らせるからトレーニングにお金を出すのも当たり前」という欧米企業のスタンスがうかがえます。

「欧米には、マーケティングファンドなどの仕組みもあります。このようなことは日本企業にはできないと思いますが、何かしらの意識転換は必要でしょう」と庭山さん。濱口も「欧米と同じでなくても、日本も独自の体制をつくらないといけない」と意識や体制の大幅な転換の必要性を共有しました。
 

コロナ禍でますます高まるマーケティングの重要性


対談の後半では、昨今欠かすことのできない、新型コロナウイルスパンデミックの影響が話題になりました。

「明治維新や終戦くらいの変化が、このコロナ禍で起こっているのでは」という濱口の投げかけに、庭山氏は「会社のDXを最もあげたのはCEOでもCIOでもCMOでもなく『Covid-19』だというジョークもあるほど、コロナによってウェブ会議やウェビナーが普及しました。一方で忘れてはいけないのが、オンライン化の普及とともにマーケティングナレッジの差が大きな影響を及ぼすようになっています」と指摘します。

コロナ前は、たとえマーケティングが弱くても、製品の質の高さや、ゴルフや麻雀をしながら商談をする営業力で勝負できていたかもしれません。しかし、オンラインの空中戦となるとそうはいきません。つまり「これまでマーケティングにどれだけ投資してきたか、ナレッジやデータを持っているか、データがどういう状態になっているかの差が、この一年半で顕在化したのです。」(庭山さん)

かつては神のように崇拝されていたマスコミ四媒体が完全にウェブのサブ媒体となっている現在、勝負すべき本当のヴィークルはインターネットとなっています。

「マーケティングなしでビジネスをするのは、GPSのないスポーツカーで道もわからず走りつづけるようなものですね。」(濱口)
 

今投資すべきは「BtoBマーケティング」と「語学」


最後に、庭山さんから、若いマーケターやスタートアップ企業の経営者に向けてメッセージが贈られました。

「会社の数は、BtoCよりBtoBが完全に多いにもかかわらず、世の中の大学やマーケティングを教える講座はBtoCが圧倒的多数です。また、BtoB企業の多くが、これからASEANや欧米といった世界を舞台に勝負していくこととなります。つまり、BtoBのノウハウをしっかりもち、さらに英語や中国語、フランス語などができるマーケターは仕事に困ることはない。そう言い切っていいほど価値が高まっています。

 日本企業の欠点はマーケティングだけで、イノベーションも生産技術も人も世界ナンバーワンです。マーケティング偏差値を高め、これから世界で戦えるマーケターが育って活躍してほしいと本気で願っています。」(庭山さん)



 

 

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