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【ベトナム製造業進出事例】 シンテックス株式会社 八木澤社長 ~現地専門家との協業で、進出を大きく前進させる~

企業が海外進出する際に、大きな役割を果たすのが、現地の専門家や自社製品の活用を想定される方とのコネクション。専門家でしか知り得ない情報やニーズを把握するためには、こうした現地とのコネクションが大きな力となります。特に現地視察が難しい、コロナ禍の今だからこそ、「現地の生の情報」は今まで以上に重要になります。
椅子式階段昇降機、段差解消機で国内シェアの約25%を誇るシンテックス株式会社では、昨年からベトナム進出のため、現地の専門家、関係省庁の役人など様々なコネクションを活用し、進出の段取りを進めてきました。どのような方に話を伺ったのか?どの段階で、何を協力して進めたのか?同社でベトナム進出を推進してきたシンテックス株式会社 代表取締役社長 八木澤 穰氏にお話しをお聞きしました。




●八木澤 穣氏プロフィール
シンテックス株式会社 代表取締役社長。大学時代は機械工学を学ぶ。椅子式階段昇降機など福祉機器の事業化に尽力。階段昇降機と段差解消機の販売台数は累計で約1万9800台に上る。その後、2009年代表取締役社長に就任。

 

生産拠点から、市場としてのベトナムへ

−御社の事業内容について、お知らせください。

八木澤氏:
弊社は2つの部門で成り立っています。医療機器や送変電機器を中心とした板金部品製造を手がける「製造部門」。自社ブランド製品の階段昇降機、段差解消機といった福祉機器の開発・設計・製造・販売を手がける「テクノセンター」の2部門です。

階段昇降機というのは、階段に取り付けることで身体の不自由な方でも階段の移動をすることができる機械。段差解消機は、床が垂直にリフトのように動くことで、車椅子の方が乗ったまま段差を超えることが可能になります。

−そもそも、ベトナムにはどのようなきっかけで進出を考えられたのでしょうか。

八木澤氏:
ベトナムは当初、生産拠点として考えておりました。当時は一部をOEM生産で階段昇降機や段差解消機を国内で生産していましたが、中国への輸出を考えた時に、海外に生産拠点を持つ方が有効だと考えました。実は、生産拠点を当初はタイで想定していたのですが、ベトナムの都市ハノイをプライベートで訪れた際に、ベトナム人の勤勉さや真面目さに惹かれ、ベトナム ハノイを生産拠点として決めました。

その後、国際協力機構(以下、JICA)さんから、「ベトナムは大きなインフラは整えられてはいるが、バリアフリー化にはまだ手が届いていない状況。生産拠点としてだけでなく、階段昇降機や段差解消機の販売も目指してみては」と勧められました事もあり、2019年のお盆明けごろに、ベトナムに生産拠点置くだけでなく、現地での販売も決めました。

−生産拠点に加えて、マーケットとしての可能性を見出されたのですね。




八木澤氏:
長い目で見ても、階段昇降機や段差解消機の需要は伸びると感じましたね。

決断後に、ベトナムの厚生労働省にあたる労働傷病兵社会省に話を伺いに行って判明したことがあります。ベトナムは国際連合の障害者権利条約を批准しており、公共空間のバリアフリー化を2025年までに義務付けられていました。新築の建物はエスカレーターやエレベーターが設置されていますが、既存の建物にはない場合が多い。既存の建物のバリアフリー化を進めるには、後から設置できるような製品が必要になるので、そこで自社製品が貢献できると感じました。

 

利用者との対話で見えた、本当の課題

−進出を決めてからは、どのようなステップを踏まれたのでしょうか?

八木澤氏:
現地のニーズに関する調査と、生産拠点に関する調査の2つを平行して実施しました。

実際に、どこに階段昇降機や段差解消機を設置する事で、顧客ニーズを満たせるのか把握できていなかったので、現地専門家の方々に協力を頂きながら、調査を進めました。

−デモンストレーション用製品の設置場所は、どのようにして決められたのでしょうか。

八木澤氏:
ベトナム現地で、実際に車椅子を利用されている方々の生の声を聞き、どこにあると一番便利かを整理した上で、デモンストレーション用製品の設置場所を決めました。

具体的には、ベトナムで障害者の自立支援を行っている非営利団体に足を運び、車椅子を実際に利用されている当事者の方々が、公共空間のどこに階段昇降機や段差解消機の設置を望んでいるのかを聞きました。専門家の方々と話を進めていく上で、オペラハウスなど、いくつか候補をいただきましたが、最終的には病院と駅に製品設置を決めました。そして、2019年の秋頃に、ハノイ整形リハビリ病院に階段昇降機を、ハノイ駅に段差解消機をそれぞれ設置して、現地の反応を確かめていきました。

上記以外の課題として上がったのは、「建物内部のバリアフリー化だけではなく、建物に行くまでの道も含めた、障害者の方々がアクセスしやすい環境整備の必要性」です。例えば、建物の屋外駐車場から建物に行くまでの道路が舗装されておらず、車椅子では通行するのが困難な方々もいらっしゃいます。このように、調査を進めるうちに、課題に対して弊社製品だけで解決できるケースと、弊社製品に加えて道路や内装の改修も組み合わせる必要があるケースがあることが分かりました。

そのため、ベトナム建設省の方に建築基準の改善を提言するなど、課題に対して総合的に対処するような動きを同時並行して進めました。

ー車椅子ユーザーの声を聞く事で、自社製品だけでは解決できない課題が浮き彫りになったという事ですね。実際に設置された階段昇降機、段差解消機の評判は如何でしょうか?


写真左:ハノイ整形リハビリ病院に設置された階段昇降機 写真右:ハノイ駅に設置された段差解消機

八木澤氏:
ハノイ駅に関しては、残念ながら世界的なコロナウィルス流行から、ハノイ駅自体の利用者数が減少してしまい、段差解消機を利用していただく機会はあまりなかったようです。
一方で、ハノイ整形リハビリ病院に設置した階段昇降機に対する評判は上々でしたね。「1億ドンなら、購入する」(日本円で50万ほど)という声をいただけるなど、額面的な課題はありますが、クライアントからは製品設置に向けて前向きなコメントを頂きました。

−現地調査で判明した金額面の課題ですが、どのような解決策をお考えでしょうか

八木澤氏:
現地生産によってコストを削減し、販売価格を抑えることを目指しています。加えて、リース契約の実施や、バリアフリー化に対する公的な補助金制度の創設を提言するなど、建物の所有者が利用しやすい仕組みを積極的に提案していくことを考えています。

 

コロナ禍でも、ベトナム専門家のネットワークを通じて、生の現地情報を得る

−ベトナムでもコロナの影響はございましたか

八木澤氏:
当初、6回の現地調査を予定していたのですが、コロナ禍の影響で現地に行くことが難しくなり、調査回数を5回に変更しました。ハノイ駅の利用者の減少など、利用者を取り巻く環境も変わったことも大きいです。

コミュニケーションもオンラインで行っています。暑い現地で汗水垂らしながら話をするのと、快適な事務所では全く異なりますからね。画面越しだけで、現地の様子を生で感じることは本当に難しいです。

一方で、経費の見直しも行う事ができました。コロナの影響で良かった点かもしれません。現地での食事ができなくなったのは、残念ですが(笑)

−オンラインでのコミュニケーションの中で、現地の情報を得るために工夫していることはございますか


コロナ禍以前の製造工場、現地視察の様子

八木澤氏:
やはり、現地の専門家や現地の方との協力ですね。例えば、製造工場の建設に際して、コロナ禍では、現地への視察ができません。そのため、建設予定地の写真を撮影していただいたり、現地の専門家のアレンジによる関係者へのヒアリングをオンラインで実施したりと、視察に近い情報を極力入手できるように協力しています。

 

ベトナムに置いた生産拠点からアジアへ

― ベトナム市場における今後の展開はどのような事を予定されているのでしょうか?

まずは現在進めている公共施設への製品導入に集中したいと思っています。これはベトナムに限りませんが、個人向けに階段昇降機や段差解消機を導入するのは難しいと考えています。日本でも、近年やっと階段昇降機や段差解消機の設置が進んできたと感じています。ベトナムでも個人向けに普及するのは、しばらく先になるだろうと予想しています。

― ベトナム進出後も、他の国でも展開を考えられていますか

アジア・東南アジアの生産拠点はベトナムに置いた上で、市場展開の順番としては、
まずは日本、次に中国、そしてベトナムという順番です。

正直、コロナウィルスがどのタイミングで終息するかは、分かりません。ワクチンができたというニュースもありますし、必ずいつかは落ち着くと思っています。その時まで、焦らず、腰を据えてじっくりと取り組んでいきたいです。

― 八木澤社長、ありがとうございました。




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