少子高齢化に挑むタイDXの底力 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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少子高齢化に挑むタイDXの底力

タイの少子高齢化が深刻だ。2023年末現在の出生率は1.33。2年前に高齢化社会(総人口に占める65歳以上の割合が7%超の社会)に突入し、2029年には超高齢化社会(同20%)への移行が確実視されている。生産年齢人口の減少も始まった。新生児も減る一方で、社会は明らかに危機的な変革期にある。こうした中で政府が進めているのがDXを活用した社会構造の改革だ。教育、医療、暮らしなどさまざまな業界で進められている。中でも、工業国タイをけん引する産業界のDX改革に関心が集まっている。
(データ出典は但し書きがない限りタイ国家統計局)
 

労働人口が300万人も減

タイの国家政策などを立案する国家経済社会開発委員会(NESDC)は今年4月、国内の主要な企業やタイ工業連盟など業界団体に一通の書簡を送付した。内容は「早期の自動化導入について」。国内の製造業ではロボットの導入率が5%台にとどまるなど、自動化やデジタル化が遅れており、これを可能な限り早期に進めるよう求めるものだった。

背景にあったのが、急激に減少を続ける労働人口だった。23年末時点では約4070万人。総人口約6600万人に対する割合は61.7%。ピーク時よりも300万人も減る事態となっている。総人口そのものも減少傾向に転じており、昨年末の対前年比増減率はマイナス0.06%。実数で3万7860人も減った。

一方で、国内産業の成長や海外からの投資などで、国内で必要となる労働人口は37年時点で約4471万人に上るとNESDCは見積もる。ところが、国内で供給可能な労働力は同時期に最大で600万人程度も下回ることが確実視されており、不足分を近隣諸国の出稼ぎだけでまかなうことも不可能な情勢だ。ミャンマー、ラオス、カンボジアからの23年の出稼ぎ労働者は過去最高を記録したが、それでも総計230万人にとどまった。労働力の確保が喫緊の課題となっている。



 

少子高齢化がもたらす経済への悪影響

少子高齢化は国内総生産(GDP)の低下を引き起こすとも試算されている。世界銀行は今年2月、タイ労働市場の高齢化がもたらす国内経済への影響を発表した。それによると、60年までにタイの労働人口は現在から1440万人減ると予測。このまま何らかの対策も講じなかった場合は、産業の随所で人手不足が顕著となりGDPが0.86%も減少。最悪の場合1%減を超えると警鐘を鳴らした。

内需への影響も懸念されている。経済成長が続く東南アジアでは、輸出の拡大とともにGDPに対する内需の割合が低下する傾向が続いてきた。10年前と比べ、23年時点では、シンガポールでは37%から31%に、ベトナムとインドネシアでは57%から54%にそれぞれ低下している。ところがタイでは逆に53%から58%に上昇。タイ経済が内需に依存しているという特異な構図が、少子高齢化という今になって浮き彫りとなった。

このまま人口が減り続け内需の減退を引き起こせば、経済成長の足かせにもなりかねない。減少分を輸出に回そうとしても、激しい国際競争の荒波の中で今以上の積み増しが得られるとも限らない。このため、政府は当面の策として、購買意欲が旺盛な外国企業や外国人を誘致し内需を維持しようとするなど苦肉の対応を強いられている。

 

DX技術者の育成

将来のおける労働人口の確保のため、政府が抜本的に進める第一の対応策は少子化対策だ。タイの22年の新生児出生数は50万2107人。40年前には100万人を超えていたのが半数を超えるまでに減った。この長期減少傾向に歯止めをかけようと打ち出しているのが、第2子、第3子に対する子供手当の増額、そして大学卒業までの学費支援だ。このうち子供手当は、一人月額600バーツとあるのを一気に3000バーツに引き上げる計画でいる。安心して子供を育てられる環境を整える。

第二に挙げられているのが、DXなど先端技術産業における高度な技術力を持ったエンジニアの確保だ。産業の高度化政策「タイランド4.0」などを進めるタイでは、こうした技術者の育成は待ったなしの課題と位置付けられている。高度な技術力を持つ人材を育てることで、その周囲で仕事をする労働者の層も厚くなる。政府が育成を目指す先端分野における新規技術労働者は、向こう5年間で計28万人。電気自動車(EV)で15万人、人工知能(AI)で5万人、半導体の分野で8万人が内訳だ。

育成を急ぐための特別なプログラムコースもすでに多数提供している。EVで124コース、AIで313コース、半導体など先端エレクトロニクス分野で150のコースを開設。学ぶ意欲のある若者を中心に、DXなどの教育機会を与える施策が先陣を切って始まっている。修学期間は1年間で、それぞれ2万4000人、8000人、1万2500人を輩出させる計画だ。


 

外国企業誘致と輸出強化

外資を呼び込む一層の支援策とタイ企業の輸出を促進させる政策も続けている。タイ輸出入銀行はタイ投資委員会(BOI)と合同で、タイランド4.0の重点分野「Sカーブ産業」に関わるタイ国内下請企業が、設備投資や自動化を行う際に受けられる特別融資支援策「EXIM Extra Transformation」の実施を決定。タイ国内のサプライチェーン網を強化し、外国企業が安心して海外直接投資(FDI)を行いやすい環境の整備を進めている。海外からの優良企業が増えることで、タイ国内で働く労働者もまた増えていくという読みだ。

また、タイ国内企業が海外に出て事業を展開するための事業者育成プログラムも実施。これまでに1000人近い修了者を輩出し、このうち300人を超える若者が海外で新規事業に取り組んだり、新規輸出に乗り出したりしている。国境の垣根を超えた国内外の市場との連携を強化することで、巡り巡って優秀で豊富な労働力をタイ国内に呼び込むことが狙いだ。
 

産業界のDX

こうしたさまざまな政府の取り組みに対し、タイ国内の産業界もDXの力で応えようとしている。現地で受発注プログラムのクラウドサービスなどを提供している複数のタイ企業によれば、コロナ禍を経てタイローカル企業の間にもデジタルを活用した業務の見直しと省人化が進んでいるという。

それは、生産管理や品質管理、在庫管理といった生産現場に止まらず、経理や人事、購買といったバックオフィスにまで広がりを見せているのが特徴だ。少し前までであれば、目に見えにくい分野への投資に対して消極的だったタイの市場に明らかな変化が生じていると、タイ企業の関係者らは口をそろえる。

一方、接客を伴う小売りや飲食の業界でも、人手不足がすでに目に見える形で顕在化しており、多様な対策が講じられている。その変化は日進月歩で、とてもスピーディーだ。

このうち、流通大手セントラル・グループ傘下で外食チェーンを展開するセントラル・レストランツ・グループでは、接客などを行う従業員の不足が深刻な問題として急浮上している。このため、これまでは採用を見合わせていた高齢者の雇用や、教育機関と連携した学生アルバイトにまでウイングを広げるようになった。その人材ネットワークの維持にDXによる管理が使われているという。


 

セルフ型端末

また、対面の現場での人員削減を進めるため、セルフオーダー型の端末機器を置く飲食店なども拡大を見せている。米系ファストフード「ケンタッキー・フライド・チキン」のタイ店舗では客がタッチパネルで商品を注文できるシステムを今年導入した。こうした注文の自動化・デジタル化により、客の待ち時間を最小限度に抑えることに加え、店側としても従来の人員よりも少ないスタッフで店舗運営ができるようになった。

これらを可能にした背景の一つにあるのが、コロナ禍で広がったキャッシュレス化だ。これまで長らく見られたレジ前に長蛇の列を作って物品を買い求める姿はタイでもすっかりなくなった。人との接触を持たない消費スタイルも増えている。こうした仕組みの底流にあるのがDXの技術というわけだ。コロナ禍は新たな消費社会を作ったとも言えるだろう。

官民挙げて始まったタイの少子高齢化・労働人口対策。その鍵となるのは、ここでもDXの力だった。市場は今、貪欲にその流れを受け入れようとしている。




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