【タイDX特集】Manufacturing Expo 2024に見るタイの製造業DXの可能性 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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【タイDX特集】Manufacturing Expo 2024に見るタイの製造業DXの可能性

東南アジア最大級の製造業の展示会「Manufacturing Expo 2024」が6月19日から22日の日程で、タイ・バンコク東郊のイベント施設BITECで開催された。主催者集計の速報値ではのべ9万人以上が来場。出展者は30カ国以上から2000ブランド超に達し、いずれも過去最高レベルの盛況だったという。中でも目を引いたのが、自動化や省力化、効率化をキーワードとしたデジタルトランスフォーメーション(DX)の展示だった。


大手自動車部品メーカー・タイ法人とのコラボレーション

「人間ドックのように工場全体を検証し、不具合や問題点を見つけ提案する。長期にわたる総合支援を図りたい」と話すのは、同エキスポに出店したDENTSU SOKEN (Thailand) LIMITEDの玉井啓介General Manager。昨年に続いての出展で、コロナ明けのタイ製造業界の貪欲さを肌で感じているという。

今回、同社が出展の目玉の一つと位置付けたのが、大手自動車部品メーカーのタイ法人とのコラボレーションによるソリューションの提案だ。同社のタイ工場が改善に改善を重ねて独創した製造システム。それを他社あるいは異業種においても活用してもらおうと製品化されたものだ。

柱となるのは生産性を向上させるために活用がされたDXの技術。工場内にIoTセンサーを張り巡らせ、24時間の常時監視。時間当たりの進捗や計画に対する実績比を瞬時に割り出し、全てを可視化する。スタッフは今何が起こっているかをモニター越しに把握ができ、異常時においても対応に遅れがない。生産におけるロスを極限にまで抑えることができる。

それだけではない。集められたデータは電通グループ持つ豊富な知見とノウハウによって解析が進められ、さらなる改善の必要性や問題点、それらにかかるコストまでもが比較対照される形で提示される。足りないもの、改善すべきは何なのか。現在の生産体制を維持しながら、今以上の生産性向上を図ることができる。

同社は大手広告会社電通と米GE社が合弁設立した株式会社電通総研のタイ法人。設立は2005年、間もなく満20年を迎える。今年1月、親会社の名称変更とともに現社名となったが、「変革はそれだけにとどまらない」と8年前から現地で指揮を執る玉井GM。「単なるシステムインテグレーターには終わらない、工場ドッグのプロとして責任ある地位を目指したい」と意欲を示す。


タイにDXのニーズありと実感

設計図やデザインなど自社内に存在する膨大な図面をデータベース化し、クラウド検索を可能とするデジタル化パッケージプラン「CADDi DRAWER」を出展したのは、2017年に創業したキャディ株式会社(本社・東京)。22年4月にベトナムに進出。同年末にはタイにも現地法人を設立するなど積極的に海外展開を進めている。満を持してのマニュファクチャリングエキスポ出展となった。

4月からASEAN事業に配属となったASEAN Growth Marketing & Inside Sales Mangerの脇本啓太郎氏。来場者の反応は予想以上だったといい、用意した名刺が初日で〝完売〟となる嬉しい誤算にも見舞われた。「タイにDXのニーズありと実感した」と同氏。日系企業にとどまらず、タイローカル企業の経営者たちがデモ画面をのぞき込む姿が印象的だったと話す。

同社が提供するCADDi DRAWERは、紙ベースやスキャンデータなどとして大量にしかも無秩序のまま保管されている図面情報をデータベース化。人工知能(AI)を使って形状解析するというものだ。精度は高く、天地が逆になったものや横置きされたもの、さらには手書きの図面、解像度の異なるものについても読み込みが可能。AIが一致不一致を瞬時に読み解いてくれる。

これにより、従前では人の記憶のみでアプローチしていたデータ検索が容易となり、過去のあらゆる取り引きが眼前につまびらかに。重複する受発注を見抜くのはもとより、これまでの取り引き実績を比較してコスト削減につなげることもできるという。また、個々のデータが持つ受発注にかかるさまざまな情報の紐付けが改めて行われ、事業の効率化とスピードアップも進むことになる。

「日本でもタイでも、現場の悩みは同じなんだということを会場に来て改めて痛感した」と脇本氏。コロナ明けのタイ製造業界で、低コスト・自動化・省人化に向けた新たな投資のうねりが始まっていることを体感したタイ出張となったと熱く語っていた。
 

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外部システムとの接続にも関心

製造現場における紙ベースの帳票をペーパレス化し、さまざまな業務課題の解決を目指すのが、株式会社シムトップス(本社・東京)が提供する電子帳票システム「i-Reporter」だ。米Apple社のiPadが広く業務利用され始めた時期に製品化。昨年のマニュファクチャリングエキスポへは代理店を通じての製品単独の出展だったが、手応えを感じて今年はスタッフともどもの参加となった。

i-Reporter最大の特徴は、年齢などに関わらず、特別なIT知識がなくても入力ができる高い操作性だ。文字入力のほか、カメラによる写真入力、音声入力もできる多彩な入力機能を合わせ持つ。誤入力や作業遅れの原因となる人の介在を極力少なくすることで、スピーディーかつ正確に帳票管理を進めることができる。自由にカスタマイズできる点も高評価を得ている。

人件費が上昇し、年内にも1日当たりの最低賃金が400バーツ(約1720円)にまで引き上げられる見通しのタイ労働市場。2001年当時の137バーツと比べた伸び率は200%以上にも。急激な労務コストの上昇がこのところの企業経営を圧迫し、待ったなしの状態が続いている。

こうした労務管理費のあり方をめぐって「帳票の電子化は避けて通れない」と語るのは、日本本社から会場に派遣されたi-Reporter事業部グローバルセールス&マーケティンググループの藤堂由佳氏。ブースを訪れる来場者の意識の高さを感じたと話す。「データの電子管理だけでなく、さらにその先の外部システムとの接続にまで関心が広がっていることには驚いた」とも語っていた。
 



求められる提案力

異なる企業間で開発されたソフトウエア同士の連携は、DX化のもう一つの流れでもある。その一つにウイングアーク1st株式会社(本社・東京)の集計データ可視化ソフトウエア「MotionBoard」がある。例えば、i-Reporterを使って集約されたデータを解析。それを瞬時に見える化して提案する。単純な数値情報にとどまらず、製造現場からバックオフィスの管理業務まで多彩な情報を取り扱うのが特徴だ。

ウイングアーク1st株式会社からMotionBoardのタイにおける総販売代理店のToyo Business Engineering (Thailand) Co., Ltd.に出向しているASEAN Regional Managerの湯原圭亮氏は、ブースでも接客に忙しかった。「ローカル企業も含めタイ企業の関心は、もはやデータの管理に止まらない。それをどう活用していくかに移っている」と分析する。「そのための提案とその力が我々に求められている」とも語った。

今回、ICHI mediaが主宰した「ICHIパビリオン」に出展したのは、DENTSU SOKEN (Thailand)、CADDI (Thailand)、CIMTOPS、Kintone (Thailand)、WingArc1stの5社である。

また、それ以外にもDX化に向けた関心やニーズは同ブースだけに留まらず広く展示会場で目にすることができた。「タイの製造業DX元年」を強く感じることができたManufacturing Expo 2024だった。

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