*本記事は「日本のITソリューションをタイのビジネスマンに紹介するメディアICHIで掲載された記事を翻訳して転載しております
タイ経済は新型コロナウイルスにより甚大な損害を被ってきており、更にその長引く影響により多くの事業主が、新型コロナウイルス終息後の新たな成長戦略を模索しています。こうした新たな成長戦略を考えるにあたり、デジタルトランスフォーメーション(DX)が継続的なビジネスの成長に不可欠です。今回のテーマは「J-Startup」であり、これは日本のスタートアップ企業と海外の現地企業間の共創を促進する目的で日本の経済産業省(METI)、日本貿易振興機構(JETRO)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主導したプロジェクトです。
タイのDXを推進するにあたり、日本のスタートアップが貢献するにはどのようなポイントがあるのでしょうか。今回は、異なる業種から
タイのトップ5企業(Synphaet Hospital Group、BANPU-Indonesia(ITM)、SCG Chemicals、Thai Wah Public Company、SCB 10X)に連絡を取り、社内外の人や組織とのコラボレーションを促進するために必要なポイントについて伺ったアンケートに基づき記事を作成しました。
(画像左から:Synphaet Hospital Group ディティ・チャナパイ氏、BANPU ジラカン・ウォントゥンシ氏、SCG Chemicals ジルット・ワットーン氏、Thai Wah Public Company パット・スパアサ氏、SCB 10X ディティ・チャナパイ氏)
ビジネス戦略の再考
コロナ禍でマーケットが劇的に変化したことにより、Synphaet Hospital Groupのダイレクターアシスタントのディティ・チャナパイ氏によると、ビジネス戦略は、複雑な病気の治療から新型コロナウイルス終息後の対応及び健康の促進への焦点にシフトします。
戦略は調整されなければならず、また目標を達成するために、我々は入院した新型コロナウイルス感染患者のデータを収集しコミュニケーションと追跡調査を行い新たな施設への投資を行わなければなりません。その結果、病院は取引とビジネスの成長を保持するため新たな顧客ではなく既存顧客に焦点を合わせることにより速やかに戦略を変更することができました。ビジネス戦略は状況に応じ変えていかなくてはならず、パンデミックの長期的な影響に対する戦いにおける新たな顧客の行動の理解及び新たな価値の創出によってのみ達成できるのです。
組織の団結への焦点を明確にする
ビジネス戦略に加え、組織内の明確なビジョンと団結力が重要でした。我々の参加者の中には2022年のビジネス戦略に合わせる焦点とその達成手段がかなり明確な方もいらっしゃいました。SCG Chemicalsの戦略パートナーシップマネージャーのジルット・ワットーン氏は「我々は、循環経済(プラスチックのリサイクル)再生可能原料、バイオ原料を含む持続可能な化学製品への転換に対し明確に焦点を合わせています。脱炭素化もまた焦点となるところです。我々は新たな画期的な炭素回収と二酸化炭素の利用方法の開発と協力にとりかかっています。」と言及しました。更にクリス・スパワタナクン氏は、「ブロックチェーン、デジタル資産、Web 3.0、分散型金融等の投資案件に焦点を合わせています。」と述べました。両者は自らの業界トレンドとこれらのグローバル事項への取り組みに関する重要性を認識しています。クリス・スパワタナクン氏は次のように続けます。「我々の案件を取りまとめる速さは増し続けており、目標とするペースに追いけるよう特定の分野での我々の調査能力は向上しています。」効率的且つ効果的に業務を遂行できるようにチームメンバーに明確な役割を与えつつ、適切な量の資源を分配できるように組織が明確な焦点と団結力を持つことが重要です。
俊敏性のある発想力の構築
一方で参加者5名中2名は、ビジネスはコロナ禍でわずかながらの影響を受けたと感じており、新型コロナウイルスから立ち直るための従業員の俊敏性のある発想力の構築の重要性について言及しています。Thai Wah Public Companyのシニアコーポレートストラテジーマネージャーのパット・スパアサ氏によると、「我々は主な課題や混乱に取り組み自らの戦略を用いて自らのやり方でより俊敏に行動できるようになりました。」更にBANPUのデジタルコーチマネージャーのジラカン・ウォントゥンシ氏は、BANPUはパンデミック後の将来を見据えて社内で従業員の俊敏性のある発想力を構築し、デジタルタレントを育成するために2018年からデジタルトランスフォーメーション・プログラムを実施してきていると言います。俊敏性のある革新的文化の構築は会社の将来の事業成長にとって不可欠なのです。
全ての参加者が新たなビジネスを推進するための共創やコラボレーションできるデジタル/テクニカル・ソリューションパートナーを探しています。
アンケート調査によると、全ての会社が自社にとっての他社とのコラボレーションの実施と重要性を理解しています。ジルット・ワットーン氏は次のように述べています。「SCGCは様々な方法による外部のパートナーとの協業にとてもオープンです。例えば共同調査のコラボレーション、ベンチャーキャピタルでの投資、M&Aです。またSCGCは、テクノロジーを持ちタイや東南アジアにその製品やサービスを広げる目的を持っているパートナーの構築にも興味があります。」また農業分野に関してパット・スパアサ氏は次のように述べています。「我々は今日の農業や食品産業の課題に取り組むため、独自のソリューションとプラットフォームの構築に関し我々に協力できる見込みのあるテクノロジー企業の開拓とコラボレーションに強い意欲を示しています。」
戦略計画の達成を図りつつも、開かれた技術改革はパンデミックへの対応に必須です。また彼ら全員が自らの組織が他社とのコラボレーションの準備ができており、それに必要なものを認識していると考えています。クリス・スパワタナクン氏は、「SCBとのソリューションの構築を希望するのであれば我々は後発組のテクノロジー企業とコンスタントにコラボレーションします。」と語り、マネージャーのジラカン・ウォントゥンシ氏は、過去に「スタートアップ企業を含めてPOCとMVPに対し既に多くの取り組みを行ってきました。」と述べています。
全ての参加企業にとって大事なのは、業界のリーディングカンパニーとしての地位を保持しながらも、他社との差別化が図れるよう既存の製品やサービスに付加価値を追加できるよう努力することです。そのような新しい革新的技術を見つけ出すために、タイの企業は、「実行可能且つ持続的なソリューションを見つけ出すためのコラボレーションが頻繁に必要となる業界全体の課題に取り組むため、コーポレートパートナーをその業界の同業者や対応企業と結びつけるためのプラグ・アンド・プレイをパートナーとし、」BANPU-Indonesia(ITM)等のエコシステムを得意とする外部のスタートアップ企業を見つけ出します(ジラカン・ウォントゥンシ氏)、またThai Wahは、「AgTech/FoodTechスペース内の多くのイベントやフォーラムに参加し、先駆者のスカウトや情報収集に関して我々に協力してくれているパートナーに加え有望なスタートアップ企業と知り合えました」(パット・スパアサ氏)。SCGCの場合、「新たに設立された企業と接触するために世界中でローカル企業やグローバル企業と業務を行うことによりスタートアップ企業のコミュニティとつながりが持てました。我々は自社ベンチャーキャピタルを有しており、世界中の有益なスタートアップ企業を特定あるいは紹介するために他のベンチャーキャピタルと業務を行っています。」ジルット・ワットーン氏は次のように続けます「我々は、我々のニーズや顧客のニーズを解決できるスタートアップ企業のスカウトや技術革新の専門チームを有しています。」
開かれた技術改革への関心について参加者に聞いたところ彼らは次のように回答しました。
自社の業種に関する彼らの関心事項に加え、全ての業種の中でHRと社内研修が最も重要且つ関心のあることです。会社にとって急速に変化するビジネス環境に対応するために従業員を確保し、継続的に研修や教育をすることが重要です。
タイの企業にとって日本のスタートアップ企業とのコラボレーションにおいて言葉の壁や文化の違いは大きな課題です。参加者はJ-Startupが現地の企業に適合できるグローバルカルチャーを備えていることを期待しています。
我々のテーマが「J-Startup」であるので、参加者も一般的な日本のスタートアップ企業に関する見解と率直な意見を共有しました。クリス・スパワタナクン氏によると、「言葉の壁は大きな問題です。他のスタートアップ企業と比べて日本のスタートアップ企業がより良いソリューションを持っていたとしても理解するのは難しいと思います。またその顧客は通常日本企業に限定されます。」ディティ・チャナパイ氏も続けて次のように述べます。「言葉の壁と特異な文化の壁が原因で日本のスタートアップ企業は他国と比べるとあまり人気がありません。」ただし彼ら全員が日本製品の品質とハイテク性能に関して認識しワクワクしています。ジラカン・ウォントゥンシ氏は次のように述べています。「ニュースで私が見る限り、日本のスタートアップ企業はロボット工学とAIソリューションにおいて強さを持っています。日本のスタートアップ企業は多様なAIソリューションを成功させています。これらのソリューションは都市を安全かつスマートにするAIや深層学習等の都市経営にも適用できます。」ディティ・チャナパイ氏も次のように述べています。「日本のソフトウェアやハードウェアの専門性は世界最高レベルであり言及した通り壁を取り払うことができればほとんどの企業が日本のスタートアップ企業に加わることを考えるでしょう」。
日本のスタートアップ企業からの要望や期待について質問した際、クリス・スパワタナクン氏は次のように返答しています。「我々は最初のデューデリジェンス(SCB 10X)を実行するとき、よりグローバルなパートナーシップや顧客を好みます。」グローバルな労働力や文化について、社内での国際的な習慣があることを伝達することができれば選択の余地はあります。チーム内での多様性は重要です。」ディティ・チャナパイ氏は、「我々は、日本のスタートアップ企業が我々の企業文化を理解し、全ての関係者に利益をもたらすオプションを提供することを期待しています。よって我々は、日本から成功したビジネスケースを単に再現することなく、現地企業を理解し支援する偏見のない考え方を持ったスタートアップ企業であることを期待します。」と述べており、現地企業の理解もまた重要です。
企業の理想的なコラボレーションと日本のスタートアップ企業へのメッセージ
「合弁事業が最良の方法です。相互利益とターゲット調整が成功の鍵です。」同氏は日本のスタートアップ企業に対し次のように提案しています。「現地の文化と異なる業種においてビジネスがどのように異なった形で行われているのかを理解すること。特にヘルスケア事業においてタイには他国と異なるかなり特別なヘルスケアモデルがあります。タイの病院は、コストを抑え且つ利益を維持しながら、全ての関係者に患者体験のみならず我々が患者のより良いケアをできるよう協力することができる様々なビジネス案件の支援に対して、オープンな姿勢のパートナーを探しています。診療と支援にかかわる革新が改善すべき分野です。もし何かアイデアやソリューションで我々を支援できるのなら、全てのヘルスケアシステムを共に改善できるよう我々に協力してください。」(Synphaet Hospital Group ディティ・チャナパイ氏)
Banpuは「我々の使用事例やなかなか解決しない問題をスタートアップ企業とのコラボレーションによりテクノロジーやソリューションとマッチさせられる」エコシステムあるいはプラットフォーマーを継続的に探しています。
我々は、関係者による報告及び目標の開示を可能にするBanpu Groupの炭素排出管理ダッシュボードアプリケーション(Carbon Emission Management Dashboard Application)の構築及びサポート情報の提供に関するスタートアップ企業やテクノロジーソリューション企業を探しています。もしあなたが、ソリューションや二酸化炭素排出量のデータを集計でき、炭素クレジット市場のブロックチェーンに関するソリューションを提供できるプラットフォームを兼ね備えたスタートアップ企業であるならば、共によりスマートに、且つより良い我々のパートナーになれると確信します。(BANPU デジタルコーチマネージャー ジラカン・ウォントゥンシ氏)
「理想的なコラボレーションは、共にビジネスを成長させるために共通の利益を共有でき互いの長所を利用できるところではないかと思います。」同氏はさらに続けます。「我々の見解では、スタートアップ企業も問題の解決に対し興味深い手法を兼ね備えています。スタートアップ企業は制限や境界がほとんどないのです。スタートアップ企業と協力することで同じ問題に対する代替の選択肢や画期的なソリューションが得られうるのです。我々はスタートアップ企業や新たなスピンオフ企業と協力して業務を行った経験があり、SCGのような産業パートナーが提供したりスタートアップ企業が大規模に業務を遂行できるよう支援するスキルがあることを自覚しています。」同氏は日本のスタートアップ企業に対し次のように願っています。「オープンであり意見を言うこと。日本には優れた科学や技術が多くあります。ただそれを提示するだけなのです。」(SCG Chemicals ジルット・ワットーン氏)
「我々は農業技術や技術革新、B2Bサプライチェーン、新規原料、アップサイクリング、バイオプラスチックの分野の次世代のスタートアップ企業や成長企業を見つけ出して成長のお手伝いをすることを目的としています。」更にパット氏によると、Thai Wahは最近、「B2Bの食品や農業技術分野の環境保全技術のスペースに焦点を合わせている初期段階のスタートアップ企業への投資を目的とした「Thai Wah Venture」というベンチャーキャピタル企業を立ち上げました。我々は、農業と食品の未来に力を与える志を同じくする起業家、創立者、チームに継続して目を光らせていました。もしあなたが東南アジアでB2Bの食品や農業技術の革新を起こせるソリューションやプラットフォームを有するスタートアップ企業ならば、全ての人にとってより良い明日を創り始めるために今日から我々のパートナーになることに間違いはありません。」(Thai Wah Public Company シニアコーポレートストラテジーマネージャー パット・スパアサ氏)
理想的なコラボレーションは、「投資機会に溢れており、且つデジタル資産管理やブロックチェーンにおける普通の銀行かあるいは我々の新たな事業部署とのコラボレーションをする目的がある壮年期の会社(ユニコーン企業になる前)」と一緒になることです。SCB 10Xは常に「フィンテックやブロックチェーン、デジタル資産、分散型金融への転換に対しオープン」なのです。(SCB 10X ディティ・チャナパイ氏)
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現在これまで以上に、企業とスタートアップ企業の両者がコラボレーションをするのに完璧なタイミングです。これは着実で新たなビジネスモデルを創造しながらも、独特な付加価値製品の創造等の目標を達成しながら企業が外部の知識やR&Dを活用し、更に組織内に革新的文化やチームを構築する機会を得るゲートウェイです。開かれた技術革新により企業はより早く低コストでこれらの目的に到達することができます。
その一方で、スタートアップ企業にとっては急激に増加する重要且つ巨大なインフラ、技術、その他の資源にアクセスする大きな機会です。更にスタートアップ企業は、MVPやPoCを介してより早く低コストで関係を構築し市場に製品を投入することができるのです。
突き詰めていくと、開かれた技術革新は、企業とスタートアップ企業の両者が次第に利益を認識できるようになるため標準的環境となるでしょう。しかしながら、タイの企業が継続してグローバルにスタートアップ企業に接触する一方で、日本のスタートアップ企業の存在感は依然としてとても低いのです。アンケート調査によると、参加者は日本のスタートアップ企業にはビジネスを行う上での積極性、語学力、現地に関する知識が欠けていると考えています。日本のスタートアップ企業がグローバルな舞台で活躍するためには、積極的に企業に接触することにより企業ニーズを満たす自らの明確なビジョンやソリューションを確立させることが重要です。
企業とのコラボレーションに成功したか否かは問題ではありません。重要なのは、企業と接点を持ちユニークな提案を共有するために努力する行動を起こすことです。その瞬間は今始まり、特定の業種の企業やスタートアップ企業と接触したいと考えるのなら、ぜひお気軽にご連絡ください。 nmiyata@gmail.com ご質問やアドバイスにお答えいたします。
EN Innovation Co., Ltd.
CEO 宮田直栄氏
特に拡大戦略、ベンチャーの構築、開かれた技術革新のサポートにおけるデジタルトランスフォーメーションの分野で、技術革新に関するビジネスコンサルタントとして、スタートアップ企業、SME、大企業を含めた幅広い業種で活動しています。