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成長続けるベトナム経済の今

ベトナム経済が好調だ。アジア開発銀行が9月に発表した経済見通しでは、2024年中の東南アジア全体の実質経済成長率予想は対前年比4.5%の増加。この中で、タイ経済がわずか2.7%増と足を引っ張る中、ベトナムとフィリピンが6.0%増と牽引役を担っている。25年予想でもこれを上回るとされ、日本や中国、欧米各国からの視線も熱い。政府は半導体市場における外資誘致を表明するほか、国際的な経済枠組みでも主要新興国会議BRICSへの参加を打ち出すなど存在感を高めている。
 

政治の安定が海外直接投資を後押し

「ベトナム経済の成長スピードを止めることは誰にもできない」。10月21日、ベトナムのファム・ミン・チン首相は開幕したばかりの第15期第8回国会の冒頭演説で国内経済の現状をこう表現し、自信を見せた。政府の試算による24年中の経済成長率は当初目標だった年6.0~6.5%増を上回り、6.8~7.0%となるとの見通し。「経済社会発展5カ年計画(21~25年)」の最終年である25年についても7.0~7.5%増を見通せると語った。国民一人当たりの国内総生産(GDP)目標も、上位中所得国の指標となる4900米ドル(約75万円)とした。

チン首相が力説する背景の一つに、演説と同じ日に選出されたルオン・クオン政治局員の国家主席就任がある。21年1月の党大会で選出された任期5年の第13期政治局は、異例の3期に渡ったグエン・フー・チョン書記長(当時)の下、24年5月までに18人いる局員のうち6人が辞任するという異常事態が発生。政府内の権力争いと腐敗撲滅運動との関連で混乱が続いていた。先が見通せないことから公共事業に遅れが生じるなど経済に与える影響も無視できない状況だった。

それが今年5月に現書記長のトー・ラム氏がナンバー2の国家主席に就いたあたりから、沈静化に向けた動きが顕著となった。ラム氏は16年4月から24年5月にわたって公安相のポストにあり、この間、ヴォー・ヴァン・トゥオン国家主席(24年3月辞任)やヴオン・ディン・フエ国会議長(24年5月辞任)らの事実上の更迭を指揮。7月にチョン書記長が病死すると、翌月には後任の書記長に就いている。政敵を次々と追放する中、後任の公安相には同郷のフンイエン省出身で次官だった腹心のルオン・タム・クアン氏を昇格させ、政権内基板も固めた。

その総仕上げが、10月21日のクオン政治局員の国家主席就任だった。ベトナム政治は、共産党書記長を最高指導者に、国家主席、首相、国会議長の4役が「四柱」として集団指導体制を敷き、個人に権力が集中し過ぎないよう仕組み作りが続けられてきた。ラム書記長もこれに倣ったわけだが、憲法上の国家元首である国家主席ポストに政敵を置くわけにはいかない。そこで白羽の矢を立てたのが軍総政治局長を経験したクオン人民軍大将だった。自らが一時兼務していた国家主席ポストを譲って書記長選任となった。

政治が安定化すれば、強力なリーダーシップの下、経済も安定に向かうというのが市場の大方の見方だ。政敵を粛清する手法の当否は措くとしても、四柱の顔ぶれが刷新されたことで権力争いはヤマ場を超えたものと見られた。結果、このところの海外直接投資(FDI)も堅調で、ベトナム計画投資省によれば、24年通年のそれは最大で対前年比9%増の400億ドル規模に達すると見られている。ラム書記長就任直後の9月だけでも、前年同期比2.1倍の42.6億ドルと今年最大の水準となった。


2050年に半導体先進国入りが目標

ベトナム政府が描く成長戦略は、輸出の拡大と国内経済の活性化だ。国会に提出された政府の報告書によると、24年通年の輸出総額は前年比7.9%増の3827億ドルと見積もられている。輸入額は12.4%増の3669億ドル。貿易収支は158億ドルの黒字となっている。25年もこのまま堅調に推移する見通しで、輸出額は低めに見積もっても6%増の4050億ドル、輸入額も6%増の3890億ドル。貿易収支は24年並みの160億ドルを見込んでいる。

輸出を伸長させる国内成長産業の目玉として、政府は半導体産業を挙げている。9月下旬にチン首相が署名した首相決定第1018号は「半導体産業発展戦略」を内容とし、2050年までの半導体先進国入りを狙う計画だ。まずは30年までの第1期として、半導体産業の研究開発(R&D)機関の設置や生産施設の設計・建設、生産管理、試験・計測などあらゆる工程における産業基盤を国内に整備するとしている。

第2期は30~40年を想定。外資の誘致と国内企業の育成を通じて、世界の半導体生産市場の一角を担うとする。そして、第3期として50年までの10年間に、世界の半導体エレクトロニクスの主要国入りを果たすとともに、さらなる研究開発を進めるとする。このうち中心になると見ているのが、人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)の分野。海外からの技術移転を積極的に展開することで実現に向けた推進力を確保するとしている。

そのための半導体関連企業(多国籍企業)への財政支援も進める。2021年10月に経済協力開発機構(OECD)を中心に約140ヵ国・地域が合意した課税ルール「グローバル・ミニマム課税」の負担を抑えるため、基金の創設と税法上の優遇措置の整備、さらにはFDIのためのインフラ整備も行っていく考えだ。供給する人材の育成も強力に推進していくとする。

合わせて、外国企業向けの不動産市場の整備も継続する。ベトナム統計局によると、今年1~8月までの不動産業におけるFDI認可額は対前年比3.7倍増の約26億米ドルを記録。うち、新規投資は24億ドルを占めた。投資の上位国は日本、中国、シンガポールなど。工業団地のほか住宅、商業地などにも関心が広がっている。8月には改正土地法など不動産3法を施行。法的な問題点もクリアし、さらなる誘致を見込んでいる。

伝統的な農業分野にも力を入れる。税関局によると、今年1~9月のコメの輸出量は対前年比8%増の696万トン。金額は23%増の約44億米ドルだった。フィリピンやインドネシア、マレーシアなどの東南アジア諸国への輸出のほか、戦争継続中のウクライナ向けが対前年比17倍となった。世界最大の輸出国インドが輸出規制を一部緩和したことで行方は混沌としているが、政府は通年で初めての輸出額50億ドル達成を狙っている。

このほか、ベトナム中央銀行は国内企業の支援策として大胆な金融政策を実施する見通しだ。年内の利上げは凍結し、追加利下げを検討している。国内では北部を中心に、9月の台風11号の影響から甚大な被害を受けた企業も少なくない。利下げによって企業活動を側面から支援する意向だ。


行政の無駄にも是正求める

こうした積極政策の一方で、懸案材料も残る。足元では食料品や日用品などの値上がりが続き、南部ホーチミン市内では野菜が前年同期比2倍と高騰している。豚肉や鶏肉、魚介類も値上げが続いているといい、豚肉は前年から3割近くも高騰して1キロ20万ドン(約1200円)の値札も。台風や長雨の影響によるものだが、対応を見誤ると国民感情を悪化させることから政府は慎重な対応が求められている。

11月上旬に行われる米大統領選も、少なからずベトナム経済に影響を与えると見られている。大手格付各社によると、共和党のトランプ候補が当選した場合、ベトナムの経済成長率は25年が最大で0.3%減、26年が0.9%減という具合に、任期最終年の28年には1.2%減となるという試算が市場関係者に衝撃を与えている。ベトナムはもともと輸出で米国との結びつきが強い。米国内で保護主義が台頭すれば、さらなる影響も懸念されている。

社会主義国や権威主義国に特有の行政の無駄も懸念材料としてなお残る。新たに就任したラム書記長は10月下旬、国会内の討議に出席し、こうした無駄への懸念を表明。10年以上も病院建設が進まなかったり、洪水対策が手つかずで放置されたりする地域を名指しして是正を求めた。こうした課題がどこまで解決できるかが今後のカギにもなる。

一方、政府は新たな国際経済の枠組みであるBRICSへの参加姿勢も鮮明とする。10月下旬にロシアで開催された首脳会議には、タイ、マレーシア、インドネシアとともにも参加。加盟国に次ぐ「パートナー国」に認定されたことで、より関係が深まった。従来からの米国や日本といった国々に加えた新たな交易網を拡大していく意向だ。



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