政府が「2025年までの国家DXプログラム及び2030年までの方針」を掲げ、高度なデジタル国家を目指すベトナムでは、企業においてもさまざまな形でDXが推進されています。また、新型コロナの影響による外出制限下において、特にオンライン系やクラウド系のサービスが急速に浸透してきており、今後さらなる伸びが期待されます。
そこで今回は、主に日本企業を顧客に持ち、ハノイ、ダナン、ホーチミンを拠点にシステム開発を手がける(株)ハイブリッドテクノロジーズの創業者チャン・バン・ミン氏への取材をもとに、ベトナム企業が取り組むDXの動向や今後の見通しなどをリポートします。
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは「デジタル技術の浸透により、人々の生活をより良いものに変革すること」ですが、ベトナムの現状としては、まだ「デジタイゼーション(Digitization)」、つまり局所的なデジタル化を進めている段階にある企業が大半です。
たとえば、以前はBtoB企業の情報収集手段としては、各企業が開催するセミナーや展示会に参加するといったアナログな方法が主体でしたが、近年ようやく、企業のHPにアクセスして情報収集するといったやり方が主流になってきています。日本人にしてみれば当たり前かもしれませんが、そもそもベトナムの現地企業はコーポレートサイトを作っていないことも多く、インターネットで検索して情報を集めようと思っても、当該企業の基本情報や公式データが引っかかってこないといった状況でした。
ここ数年でようやく現地の企業も自社サイトの制作に力を入れるようになってきて、ビジネスに必要な情報を集めるのが随分と楽になりました。このように、まずは基本的な部分のデジタル化を急ピッチで進めているというのがベトナムの現状です。
では、ベトナムではどのようなデジタルツールが使われているのでしょうか。
大手ではERP(総合基幹業務システム)を導入し、財務、生産、販売、物流、人事といった基幹業務を一元管理することで、経営の効率化を図る企業が多くなっています。中小ではビジネス管理プラットフォームのBase.vnを活用する企業も増えています。Base.vnでは会計ソフト、勤怠管理ソフト、社内掲示板などがパッケージ化されており、手軽に利用できる点が魅力となっています。
オンラインマーケティングとしては、Web広告が主流です。ベトナムでは検索エンジンはGoogleが90%のシェアを占め、SNSではインターネットユーザーの約9割がFacebookを利用しているので、Googleのリスティング広告やFacebook広告が重要なマーケティングツールとなっています。また、SEO対策も積極的に行っており、SEO代行サービスを利用する企業も増えています。
一方で、宣伝ツールとしてはいまだにラジオが有力で、テレビCMの広告効果も絶大です。展示会などもオフラインでの開催がほとんどで、コロナの影響により世界的にオンライン化が進んでいる現状を鑑みると、ベトナムは少し遅れをとっているようです。
また近年、先進国で普及してきているマルケト、HubSpotなどのMA(マーケティング・オートメーション)ツールは、ベトナムではまだほとんど使われていません。依然として電話や対面による営業活動が主流となっており、今後のDX推進による効率化が期待される分野といえるでしょう。
現地でのビジネスを有利に進めるには、ベトナム企業が新たなデジタルツールやIoTデバイスなどを導入する際にどのような決裁ルートをたどるかを知っておくことも大切です。もちろん企業規模にもよりますが、基本的には縦割り組織が多く、部下が決裁権を持つ上司に承認を得るというのが一般的です。零細企業の場合は、決裁権を持つ社員が直接交渉にあたり、スピード優先で決断するというケースも見受けられます。総じて、各部門の部長職以上への営業アプローチがマストと心得ておくとよいでしょう。
また、ベトナムではいわゆる「飲みニケーション」も重要な営業手段となっており、会食などの接待が良好な関係づくりのきっかけになることもよくあります。特に役職が上になるほど「飲みニケーション」を重視する傾向があり、ここでうまく関係を築けると、トップダウンで一気に話が進むといったことも考えられます。もちろん、現場スタッフとの協力体制をつくっていく上でも、会食などを通じて互いを熟知し、腹を割って話せる関係づくりを目指すことが求められます。
以上のように、ベトナムではさまざまな側面でデジタル化が進んでいます。今後もDXを推進していく企業、ECサービスを提供する企業、AIを使ったソリューションを手がける企業などが伸びていくでしょう。
また、ベトナムの人口は約1億人で、特に若年層が多いのが特徴です。出生率も2.0と高水準で推移しており、政府も教育政策に力を入れているので、今後は教育産業の発展が期待されます。特に、教育にITやテクノロジーを導入したエドテック産業が注目されており、オンライン教育事業やAIによる先生と生徒の相性診断など、さまざまな取り組みが始められています。
子どもの教育だけでなく、ベトナムではコーポレートトレーニングも近年、盛んになってきていますが、現状ではオンラインで学ぶという習慣が国民に浸透しておらず、対面でのトレーニングが主流となっています。ただ、コロナの影響に加え、洪水が多いといった気候の問題、渋滞などの交通問題もあるため、今後はDXの推進が期待されます。
現地でのビジネスをスムーズに進めるためには、こうしたベトナム特有の社会的背景や文化も理解しておくとよいでしょう。