現地で人材を採用しても、入社後すぐに辞めてしまったり、期待するパフォーマンスを発揮してもらえないことがあります。また、口頭面接のみでは言語力や個別スキルは判断できても組織への適性を見極めることは難しいでしょう。
こうしたミスマッチを防ぐために適性検査を利用する日系企業も増えています。そこで今回は、言語や文化の壁を越え、組織への適性などをスコアリングするオンライン適性検査の「PandaTest」を、ベトナムや、タイなど東南アジアや東アジア圏向けに提供するPandaTest代表の安濟彰氏にお話を伺いました。
Viecoi Co.,Ltd
Director.
安濟 彰 さん
現地での経験を生かしたベトナム発の適性検査サービス
― どのようなサービスを東南アジアで展開されているのでしょうか。
東南アジアと東アジアで「PandaTest」というオンライン適性検査を展開しています。日本で馴染みのあるSPIなどの東南アジア版とイメージすると分かりやすいと思います。
2023年3月に正式リリースし、2024年6月時点でベトナム、タイ、インドネシア、日本、マレーシア、台湾などで70社以上が有料で活用しています。受験者のネイティブ言語に合わせられるよう、インドネシア語、ビルマ語、ラオ語など9カ国語に対応しており、主に東南アジアに進出する日系企業向けにサービスを展開しています。
PandaTestを立ち上げた背景としては、ベトナムにおける現地人材の離職率や、入社後のパフォーマンスに課題を感じたからです。当社はもともと2015年からベトナムで人材紹介を手がけてきましたが、入社後すぐに辞めてしまう方の割合が日本よりも高く、続いても期待するパフォーマンスに達しないことが多くありました。これは単純にスキルが不足しているだけではなく、日系企業の多くが採用するピラミッド型組織の中で、フラットな関係性や不明確な責任権限・命令系統に慣れてきたベトナム人が初めは順応しづらいことが一因と考えています。
人材を紹介しているという立場上、お客様からお叱りの言葉をいただいたり、私自身がスタッフを採用するときに似た経験をしたこともあり、このような課題を解決するために開発したのが「PandaTest」です。転職が多いがゆえに人材紹介の依頼をいただけるという側面も大きいのが東南アジアの労働マーケットですので、元々の自身の食い扶持を壊しにいくようなサービスを自ら作っています。
日系でもグローバルでも適性検査はほかにもありますが、ほとんどは日本国内や海外で作ったものをそのまま翻訳して提供しています。その点、PandaTestはベトナム発のサービスです。現地でマネジメントを9年間した経験と知見をもとに、テストの内容もソフトウェアも自分たちでゼロから開発している点も特徴です。
まるで10年前のタイ?中間層向けの需要が高まるベトナム
― なぜ、東南アジアの中でもベトナムを選んだのでしょうか。
もともと大学時代のインターン先の上司がベトナムに移住していたことがきっかけで、ベトナムに興味を持ちました。その上司がベトナムで人材紹介のサービスを始めたいと話しており、自分も会社を立ち上げたいと考えていたので、ベトナムに訪れてみたところ、肌に合うと感じました。
ベトナムとは違い、日本国内では課題が取り尽くされている印象があり、新しい課題を見つけてサービスを作っていくのが難しくなりつつありますし、少なくとも私の実力ではできませんでした。一方で、ベトナムを含む東南アジアでは、課題がゴロゴロ転がっており、本気でコミットすれば勝負できる領域があると考えました。
また、今のベトナムは10年前のタイのように中間層が増えるフェーズにあります。所得が上がることで、教育や海外旅行、不動産などの需要が高まっていくでしょう。IT分野では、エンジニアが多く存在し、日本よりもまだ人件費が安いため、日本国内向けのITプロダクトの開発拠点を作っていくチャンスはまだまだあると思います。
ベトナムでは転職が盛んなため、特に20代後半までは積極的に転職活動をしています。ただし、日本人とは感覚が異なり、キャリアアップのために転職するというよりは、給与を上げるために転職するケースが多いようです。ITエンジニアも、社会に影響を与えるプロダクトを作るより、給与アップを優先する傾向にあります。
組織適正の白黒をハッキリさせ、入社後の定着や活躍までサポート
― PandaTestの特徴について詳しくお聞かせください。
PandaTestで測定する能力やマインドは、どの国でも組織の人間として働くならば共通して求められる基礎的なものです。サッカー選手で例えるなら、スペインやイタリアのどのリーグでプレーしても、基礎的な体力や走力は共通して求められるのと同じです。つまり、組織で働く上で求められる能力やマインドは、国や職種に関わらず共通しています。
適性検査の結果は、30個ほどの評価項目から100点満点でスコアリングされます。一般的な適性検査のように、「内向的」や「外交的」といったあいまいな表現ではなく、はっきりとした数値がレポートに出ます。
とはいえ、人材分析に慣れていない方が多いかと思いますので、レポートを見ながら弊社スタッフと一緒に強みや弱み、リスクを分析できるようサポートしています。レポートには面接時に人材の見極めに役立つ質問のサジェストや育成案が含まれています。
― PandaTest以外にもサービスがあるのでしょうか。
PandaSurveyやPandaTrainingといったサービスがあり、これは入社後にハイパフォーマンスを発揮できるよう支援しているものです。
適性検査で人物像を理解できるようになったものの、「その後どうすればいいのか」という問い合わせが数多く寄せられました。能力やマインドが高いことを把握しても、それをどのように伸ばしていけばいいのかを、多くの企業が悩んでいました。
そこで私たちは、入社後の支援にも力を入れるようになりました。最終的な目標は、入社した従業員がハイパフォーマンスを発揮できるようになることです。そのために、入社後のエンゲージメントを測定するテストを実施したり(PandaSurvey)、適性検査の結果をもとに強みを伸ばし、弱みを克服するためのオンライントレーニング動画を提供したり(PandaTraining)しています。これらを全て入社時の適性検査で取得する行動特性データを起点に回していきます。
トレーニング動画は、組織で働く上で必要なマインドセットについて多言語で解説しており、理解度を確認するためのテストも用意されています。
単なる採用ツールではなく、育成や面談時の土台に
― 適性検査に対して懐疑的な見方をする企業も少なくないと思います。どのように理解いただけているのでしょうか。
PandaTestを導入する前は、8割以上の企業が「適性検査は意味がない」、「役に立たないデータしか出てこない」と懐疑的なお気持ちをお持ちの企業様がほとんどです。ただ、従業員をよく把握している方で試してもらうと、普段感じている印象とレポートがかなり一致することに気付いていただけます。
一例として、タイでグループウェアを販売している
NEO THAI ASIA様での導入があります。社員が10名ほどの会社で、1人でも合わない人材を採用してしまうと社内でのネガティブな影響度が大きいため、会社に合う方を面接で見極めるために導入いただきました。
現在は、PandaTestを単なる面接見極めツールとしてではなく、育成トレーニングや人事評価面談でのディスカッションの土台として活用してもらっています。経営者は日本の方で、現地社員とは言語や文化、世代も異なるため、マネジメントに苦労されており、「ここを改善してほしい」と指導してもなかなか受け入れられない、理解されないことがあったそうです。しかし、適性検査のデータを共通認識とすることで、建設的な議論がスムーズに進むようになったとのことです。
https://info.pandatest.asia/ja/neothai/
日本国内の外国人実習生向けにもサービスを展開
― 今後の展望についてお聞かせください。
今後は、「縦軸」と「横軸」の両面から事業を展開していきます。
縦軸では人の見極めの深掘りです。現在は適性検査という手法を用いていますが、実はさまざまな手法が考えられ奥の深い分野です。
横軸では隣接する人事管理分野への展開で、適性検査データを基点とした人事評価支援や人材育成支援です。
この2軸を東南アジアを中心に、将来的にはインドや中国、さらにはヨーロッパやアメリカなどの多国展開という斜めの軸で面積を増やしていくのが基本戦略です。
2024年4月からは、日本国内における外国人実習生の採用サポートも始めました。日本国内で外国人労働者が増えている一方で、企業側の採用、評価のノウハウが不足しているのが現状です。そこで、PandaTestで日本での就業に適応しやすい人材の見極めや育成をサポートしています。
実際に、インドネシアとラオスから日本に実習生として送り出す4,000名にPandaTestを受けてもらう予定です。すでに日本で働いている2,000人と、これから渡航する2,000人のデータを分析することで、日本での定着率やパフォーマンスに関する知見を得ることができます。このような取り組みを通じて、外国人労働者の活躍をバックアップし、人手不足の解消と外国人の皆さんの日本での成功に貢献していきたいと考えています。
https://info.pandatest.asia/ja/neothai/