ベトナム進出に際して現地企業との初回打ち合わせは、自社の目的を達成するための重要な一歩です。日本では「販売代理店を見つけたい」「サプライヤーを見つけたい」等の目的が異なる場合でも、初回の打ち合わせを「顔合わせの場」と捉えていることが多くございます。しかし、商習慣の異なるベトナムでも同じ意識で臨んでよいのでしょうか。
そこで今回は、初回打ち合わせまでの流れを、ベトナムで弁護士事務所を開き、数多くの日本企業と現地企業とのマッチングを成功させてきた、TTP HOLDINGS & TTP BENGOSHI Founder & CEOのタオ様に話をお伺いしました。「販売代理店調査」「サプライヤー調査」「M&A等のビジネスパートナー調査」と3つの目的に分けて、それぞれの初回打ち合わせプロセスにおける、日系企業が注意すべきポイントをご紹介いただきます。
グエン・ティ・フォン・タオ
TTP HOLDINGS & TTP BENGOSHI Founder & CEO
企業法務、知的財産確立、紛争解決や市場調査、進出支援、ビジネスマッチングなどのサービスを日系企業に提供している。クライアントの95%が日系企業であり、これまでも10年間で100件以上の日本大手コンサル会社向けの市場調査実績、300件以上の日本投資家向けの進出支援実績など、多くの実績を持つ。
TTP HOLDINGS & TTP BENGOSHI
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−最初に「販売代理店を見つける」などの販売を目的にした場合についてお伺いします。この場合、初回の打ち合わせは「顔合わせの場」という認識でよろしいのでしょうか。
タオさん:
ベトナムの販売代理店探しを目的にした打ち合わせの場合、初回は必ず詳細な情報を準備すべきです。ベトナムはこれから市場の伸びが期待される市場です。そのため、日本以外からも中国や韓国など、様々な国の製品がベトナム市場に参入しています。日本企業の製品もこうした競争環境に晒されてしまうため、最初に詳細な情報を提供して代理店側の目に自社製品を留めておかないと、別の国の製品にすぐに意識が向いてしまいます。
−具体的に初回打ち合わせに向けて日本企業側はどのような情報を準備すべきでしょうか。
タオさん:
ベトナム側は日本企業の製品の品質に対して高い信頼をおきます。そのため、市場にすでに類似したものが存在する製品であれば、スペック等にはあまり注意を払いません。代理店として、売るために注視している点は「価格」です。日本での価格ではなく、ベトナムに輸入した際の仕入れ価格、小売価格などです。
特に、販売代理店側はベトナム市場のプロなので、仕入れ価格が分かれば市場でいくらで販売できるか、その場で計算して、市場で売れるかどうかも判断できます。このような判断をするためにも、詳細な価格情報は最初に提供されることを望む販売代理店は多いです。具体的な価格を伝えれば、競合製品の金額、販売予定の価格の実現可能性など、様々な情報を交換できるので、情報を準備して損はないと思います。
−日本企業で初回打ち合わせから、いきなり価格について話すことはあまり多くないと思います。情報を伝えることに躊躇してしまう場合もあることも思いますが、何かできることはありますか。
タオさん:
言い方を工夫すれば、問題ないと思います。 例えば、「日本側ではこのような金額で予定をしているのですが、ベトナムマーケットに合わせて、金額の調整をすることは可能です。この金額で市場に受け入れられるかどうか、教えていただけないでしょうか?」などです。
今までの経験からベトナム側は必ず「価格はいくらになるのか?」という質問が出てきます。事前に価格を伝えておかないと、商談を進めていく中で価格が原因で取引が中止になるということが多発します。そういった事態を避けるためにも、最初に価格を提示する、確認するということを、最初の段階で実施しておくべきなのです。
−価格以外にも販売代理店側が気にするべき項目はございますか。
タオさん:
価格以外では、基本的な会社情報と日本市場での製品の位置付け、海外での販売実績なども知りたがります。ベトナム人は海外で売れている商品は良い商品と言うイメージがつきますから。その手の情報は抑えたいところです。加えて、販売代理店としては販売独占権が欲しいと考えています。例えば、ベトナム北部、中部、南部などの地方ごとにそれぞれ販売独占権を与える形です。販売独占権については必須というわけではありませんが、気にしている項目ではあると思います。ベトナム側から質問があれば、対応ができるように準備しておきたいところです。
−販売独占権を積極的に与える企業は多くはないと思いますが、それでも提供した方が良いのでしょうか
タオさん:
日本側としては販売独占契約を結んで、そのパートナー企業から売り上げが立たない場合を不安に思っているのだと思います。そのような場合は、販売独占権を与える場合に条件を付け加えることが大事です。例えば、販売の目標値を設定するというパターンですね。
代理店側としても、特に新しい市場を開拓する必要がある場合は、かなりの労力を必要とします。様々な工夫をして市場を開拓したとしても、販売独占権がないと他の代理店に開拓した市場をとられてしまうのではないかと不安になってしまいます。そのため販売独占権を与えないと、代理店側は売りやすい他の商品に関心が向いてしまいます。そのような事態を避けるためにも、考慮していた方が良いです。
−お話いただいた事前情報を準備したうえで、初回の打ち合わせにはどのような体制で望めば良いのでしょうか。
タオさん:
ベトナム企業は基本的に従業員規模は大きくない場合が多いので、初回打ち合わせの代理店側の参加者は「担当者と決済者」「担当者のみ」とケースバイケースです。日本側はこのような肩書のAさん、Bさんが会議に参加しますということを伝えてもらえれば、ベトナム側もそれに相当する方が出席されるかと思います。ただ、出席する側の役職はあまり気にされなくても良いです。ポイントは役職ではなく、「提供される情報の内容」です。先ほど、お伝えした価格などの情報を持っているのか、この企業と契約を結ぶか否かで判断するに値する情報を知れるかどうかがポイントですから。
−事前にこうした情報を準備せず、自分の知りうる限りの情報提供で終わることが多いですね。初回打ち合わせで不足していた情報を次回のMTGで共有する形になるかと思います。
タオさん:
それでは、次回会うときにはベトナム側の関心がなくなっているかと思います笑
−次にサプライヤーを探す場合の初回打ち合わせに向けたポイントはございますか。
タオさん:
この場合は、日本企業側がお客さんになります。そのため、日本企業のペースに合わせた形で進行することができます。日本企業は支払いなども期日通りに行ってくれるので、ベトナム企業側としても契約を取りたいと考えています。ただし、打ち合わせ先の企業が日本企業との取引実績がない場合は、2回目、3回目で具体的な商談の話にならないと、興味を無くしてしまうかもしれません。基本的な企業情報と取引の金額、OEMの条件などを伝えることで、取引がスムーズになります。
−サプライヤー探しが目的の場合、日本企業はベトナム企業のどの点を見れば良いのでしょうか。
タオさん:
設備、人数、日本企業との取引実績、さらに製品のサンプルをもらえれば、より判断しやすくなります。相手企業からサンプルをもらえれば、取引に対して前向きな姿勢の表れです。サンプルの提供依頼は、初回打ち合わせで条件が合いそうであれば、ぜひお願いしてはいかがでしょうか。
−今までの目的とは、規模は異なりますが、合弁会社やM&Aなどを目的とした場合はどのような形で進行するのでしょうか。
タオさん:
この規模の話になると、他の目的とは事情が異なります。弊社も含めた様々な専門家と協力をしながら、プロジェクトを進めるので、丁寧な進行が求められます。プロセスとしては、日本企業側は最初に希望する分野の企業がベトナムに何社あり、それぞれどのような企業か調査をしてリスト化します。そのリストからプロジェクトチームで検討して、5社ほど選定。その後の複数回の打ち合わせ等で様々な情報を入手して最終決定します。ベトナム側も経営レベルの話ですので、ここはスピード最優先という訳ではございません。
−経営レベルになると、現地の企業情報を専門家と協力して得ることがポイントということですね。最後に、ベトナム市場の今後の展望についてお聞かせください。
タオさん:
日本からの投資でしたら、製造業で自動車やバイク、電子部品に関わるものが多く伸びています。もう一つは消費財に関するものですね。輸入すると関税等で高くなるので、値段を抑えることなどを目的に現地製造をする場合がございます。引き続き市場の成長が見込める状態ですので、ベトナムでのビジネス展開を検討していただければと思います。
−タオさん、ありがとうございました。