ベトナムにおけるスタートアップの新潮流とは?現地アクセラレーターに聞く課題とトレンド【前編】 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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ベトナムにおけるスタートアップの新潮流とは?現地アクセラレーターに聞く課題とトレンド【前編】

ベトナム政府の支援もあって、スタートアップエコシステムの構築が活発なベトナムでは、スタートアップは有望な投資先として注目されています。ベトナムへの海外スタートアップの進出も目立ち、現地ではアクセラレータープログラムなどを提供する企業も増えています。
スタートアップを取り巻くビジネス環境や進出を検討する際の課題、主要分野やトレンドなど最新の潮流について、現地のアクセラレーター ゾーン・スタートアップズ・ベトナムのプログラムディレクターであるクイン・ヴォーさんに話を聞きました。

<クイン・ヴォーさんプロフィール>



ホーチミン市出身。ラッフルハイエデュケーションカレッジでマーケティングの学士号を取得後、シンガポールのチャッツワースメディアアートアカデミーでコミュニケーションデザインの学位を取得。フォーブスベトナムのマーケティングマネージャーを務めた後、ベトナムのイスラエル大使館の経済貿易ミッションに南部事業開発マネージャーとして参加し、イスラエルとベトナムの間の持続可能な経済貿易と金融連携を担当。
多くの異なる多国籍企業で豊富な経験を持つ。5年前よりゾーン・スタートアップズ・ベトナムのプログラムディレクター職にある。


 

BtoBのソフトウェア関連スタートアップに特化したアクセラレーションプログラムを提供

― はじめにクインさんの自己紹介をお願いします。

クインさん:
私はホーチミン市の出身で、複数の企業などでマーケティングマネージャーや事業開発マネージャーなどに従事。5年前からゾーン・スタートアップズ・ベトナムでプログラムディレクターの仕事をしています。

ゾーン・スタートアップズはカナダのトロントを拠点とするアクセラレーターであるRyerson Futuresが運営しています。企業が最先端のスタートアップと一緒に新しいアイデアを共有し、テクノロジーを活用できるようなイノベーションコンサルティングを提供しています。2018年に、ホーチミンでゾーン・スタートアップズ・ベトナムを立ち上げました。

もともと、Ryerson Futuresはカナダのライアソン大学から生まれたアクセラレーターです。今はライアソン大学ではなくトロント・メトロポリタン大学という名前に変わりましたが、当時はたくさんの学生がテクノロジーを学んでいました。そこでインキュベーターの1つを、大学内に開設することにしたのです。現在、大学の中にあるインキュベーターとしては、屈指の機関になっていると思います。

ゾーン・スタートアップズは日本も含めて約11か国に展開しており、ベトナム、日本、韓国を含む9カ国に拠点があります。それぞれの国で、その国の状況に応じて異なるプログラムを用意しています。中でもベトナムでは、政府の主導のプログラムも含めて多くのスタートアップのための機会がたくさんあります。ベトナムはこういった環境が整っているため、アクセラレーションセンターを現地に設置しようと考えたのです。


―  ベトナムでは具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

クインさん:
ベトナムではBtoBのソフトウェア技術にフォーカスし、同分野のスタートアップを支援するアクセラレーションプログラムを用意しています。実際に利益を生み出すことができるスタートアップかどうかを確認するために、何度か面接を実施して選定し、その後は1対1でコーチングやサポートを行います。

例えば、すでに130万ドル(約1,700万円)の売上があるスタートアップ企業が相談に来たことがありました。海外進出を希望していたため、一定期間、彼らの資金調達をサポートすることにフォーカスして支援しました。

さらに資金を得た後、創業者のニーズに合わせて、チームを育成したり、企業文化を作る方法をコーチングしたりします。それぞれのスタートアップに特化したカスタムメイド式で支援するのが当社の特徴で、BtoBのソフトウェア技術に限定したプログラムを運営しているのは私たちだけだと思います。大企業と連携しながら、スタートアップとも一緒に仕事をしているため、両者のニーズを同時に満たすことが可能です。

それ以外にも、女性のためだけのプログラムもあります。ベトナム語で「女性」という意味の「Em」を付けた「Empower」という名称で、女性起業家の支援に特化した非営利の無料アクセラレータープログラムです。ワークショップやメンターシップ、投資家や企業パートナーのネットワークへのアクセスなど、さまざまなリソースやサービスを提供します。そのほか、ビジネススクールなどの協力を得て、大学生のためのプログラムも昨年立ち上げました。


―  実際にはどのようなBtoBソフトウェアを扱っていますか?

クインさん:
マーケティングのMarTechや金融のFinTechをはじめ、ブロックチェーン技術を活かして作品・作者・取引情報などを追跡し、アート投資の信頼性を高めるArtTechなど、あらゆる種類のBtoBソフトウェアを扱っています。例えば、順調に成長して資金ラウンドでシリーズBに進んでいるFundiinという会社があります。現在、ベトナムのBuy Now Pay Later(ECなどの後払い決済)市場をリードしています。

また、銀行とも連携していて「ゲーミフィケーション(ゲームのデザイン要素やゲームの原則をゲーム以外の物事に応用する)をやっている会社を探しているんだけど」というような要望をもらったりします。つながっているスタートアップがなければ、スタートアップをスカウトしに調査したりすることもあります。
 

ベトナムのスタートアップを取り巻くビジネス環境

―  過去10年間のベトナム・スタートアップ市場の傾向は?

クインさん:
ベトナムには約4,000社のスタートアップがあります。ベトナムの国内情報センター(NIC)やニューベンチャーの調査によると、スタートアップ市場でベトナムはインドネシアとシンガポールに次いで第3位となっています。4つのユニコーンが誕生し、すでに何十億ドルものビジネスチャンスを獲得しています。

ニューベンチャーはベトナムで有名なベンチャーキャピタルで、国家イノベーションセンター(国家機関)と連携しています。コロナウイルス禍以前は8億ドル程度でしたが、2021年には14億ドルもの資金調達を記録しました。ベンチャーキャピタルからの資金と海外からの資金が多くを占めています。ベトナムには約120のファンドがあり、そのうちの20%が国内、80%が海外からの資金ということになります。


―  具体的にはどの国からの資金でしょうか?

クインさん:
シンガポールが多いですが、日本や韓国、アメリカやカナダからもたくさん来ています。特に韓国は現在、ベトナム投資に非常に積極的です。

14億ドルにまで回復したことは新しい節目といえ、私たちは2023年に5G(第5世代通信)サービスに本格進出することが目標です。政府は2023年の目標として、5Gを大幅に拡大し、Tech Indexの「世界電子政府ランキング」で上位50か国に入ることを掲げています。現在も100位以内には入っていますが、私たちはトップ50に入りたいと考えています。


表●国連電子政府ランキングの上位20カ国の変遷
出所:UNDESA。2014年と2016年の国名の横はスコア(EGDI:e-government development index)。2016年は対2014年の順位変動も記載

画像引用:https://xtech.nikkei.com/it/atcl/news/16/080102296/(国連の電子政府ランキングで日本は11位に後退)

また、ベトナムの2022年の国家GDPに対するデジタル経済の貢献度は約14.26%で、そのうち7.18%はICTを含むデジタル経済が寄与しています。政府はデジタル経済のGDPへの貢献度を、30%程度まで引き上げたいと考えています。


― スタートアップに対する政府の優遇政策についてはどうでしょう。

クインさん:
振り返ってみると、2015年頃に政府はベトナムにおけるスタートアップの急成長に着目し始めていました。ました。そこで、ベトナムのスタートアップエコシステムを変革するなど、サポートを強化するために多くの労力を払ってきました。例えば税金対策などで、イノベーションとテクノロジーのカテゴリーに属するスタートアップの場合、税金が20%であれば10%で済むといった優遇措置を受けられます。ただ、申請は簡単ではなく、科学技術省に申請した後も多くのプロセスを経る必要があります。

 

デジタル決済などのフィンテック分野がトレンド

―  ここ10年間で特定のスタートアップ分野が急速に発展しているような動きはありますか。

クインさん:
ここ10年間、市場はIoT分野に焦点を当てています。私たちも以前はヘルステックなどのIoT分野に注目していましたが、この3年間はデジタルマネーやブロックチェーン、Web3などフィンテック分野が重要だと感じています。


― IoT関連はトレンドでなくなったのでしょうか。

クインさん:
そういうことではありませんが、かなり落ち着いてきました。IoTは10年ほど前に注目され、5年くらい前にトレンドになりましたが、今はもうすべてがIoTといえるくらい一般的になっているのです。例えば現在、私たちはIoTを農業に応用し、農場にあるすべてのものを直接コントロールすることができます。工業地帯でもそこで起きていることをコントロールし、都市部ではスマートパーキングをコントロールするなど、さまざまなことに応用できるようになりました。


―  現在、フィンテック分野が非常に重要と感じている理由を教えてください。

クインさん:
いくつかの要因があると思います。まずは人口の50%以上が20歳から35歳の若者で、彼らはみなスマートフォンを持ち、デジタル化がかなり進んでいるという点です。

コロナ禍の影響が大きかった頃は、すべての人がデジタル・プラットフォームを利用することを余儀なくされていました。食料品や衣料品など低価格のものを購入していた人たちも次第に家具や大きな機械などまで買うようになり、Eコマースの概念が大きく変わりました。結果的にキャッシュレス決済も広がり、誰もがフィンテックを利用するようになりました。そのため社会は一層デジタルに移行し、ますますフィンテックの普及が進んでユーザーの利用率も高くなっています。


― フィンテック業界の競争も激しいのでしょうか?

クインさん:
今はとても競争が激しく、多くの企業が凌ぎを削っています。ベトナムの人口は現在約9,900万人で、2021年時点のインターネット利用率は75%程度まで上がりました。スマートフォンの普及率は65%で若年層の利用者がとても多いため、デジタル決済などのフィンテックはまさにベトナムのトレンドの中心といえます。さらに今後5年から10年の間、ベトナムで成長し続けるでしょう。


後編は5/24公開予定
 

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