ベトナム政府の支援もあって、スタートアップエコシステムの構築が活発なベトナムでは、スタートアップは有望な投資先として注目されています。ベトナムへの海外スタートアップの進出も目立ち、現地ではアクセラレータープログラムなどを提供する企業も増えています。
スタートアップを取り巻くビジネス環境や進出を検討する際の課題、主要分野やトレンドなど最新の潮流について、現地のアクセラレーター
ゾーン・スタートアップズ・ベトナムのプログラムディレクターであるクイン・ヴォーさんに話を聞きました。
前編はこちら
<クイン・ヴォーさんプロフィール>
ホーチミン市出身。ラッフルハイエデュケーションカレッジでマーケティングの学士号を取得後、シンガポールのチャッツワースメディアアートアカデミーでコミュニケーションデザインの学位を取得。フォーブスベトナムのマーケティングマネージャーを務めた後、ベトナムのイスラエル大使館の経済貿易ミッションに南部事業開発マネージャーとして参加し、イスラエルとベトナムの間の持続可能な経済貿易と金融連携を担当。
多くの異なる多国籍企業で豊富な経験を持つ。5年前よりゾーン・スタートアップズ・ベトナムのプログラムディレクター職にある。
有望なスタートアップは?決済アプリが人気
― フィンテック分野で有望なスタートアップはありますか。
クインさん:
ベトナムではデジタル決済が大人気で、ユニコーンの1つである国内最⼤⼿のモバイル決済サービス「
MoMo」が有名です。「MoMo」同士の口座でのデジタル決済ならば、3秒もかからずに送金できるなどとても便利です。実は、Momoが登場する前は銀行を通した送金にはかなり時間がかかりました。しかし、Momoが登場すると市場競争が激しくなり、銀行も考え方やプロセスを変えざるを得なくなったのです。そのため、今は銀行でも送金がとても早くなっています。
― 他にもMoMoのようなスタートアップはありますか?
クインさん:
はい、最も人気があるチャットプラットフォーム「ZALO」のモバイル決済アプリ「Zalo Pay」や、同じく決済アプリの「VNPAY」などがあります。
― Eコマースでメジャーなスタートアップがあれば教えてください。
クインさん:
現在ベトナムでとても有名なECプラットフォームは「Shopee」「Lazada」「Tiki」「Sendo」などで、Amazonのようなイメージです。これらプラットフォームは、海外から多くの投資を受けています。
さらに、Eコマースプラットフォームをサポートする「Eコマースイネーブラー」と呼ばれるサービスプロバイダー分野があります。商品を迅速に流通させるために、製品管理やロジスティクス、コンサルティングなどEコマースに関するあらゆるサポートを行います。Eコマースイネーブラーは、Eコマースの成長に伴いとてもメジャーな存在になっています。
― その他の分野ではどうでしょうか。
クインさん:
新しいものとしては、
オンラインエンターテインメント系も登場しています。オンラインエンターテインメント系にはEスポーツや、B2Bをサポートするためのゲーミフィケーションも含まれます。ゲーミフィケーションは一般的にユーザーエンゲージメントや組織の生産性などを向上させるのに用いられますが、ユニコーンの1つである「Sky Mavis」もゲームと関連しながらビジネスにつなげており、ベトナムでは現在こういったゲーミフィケーションがトレンドです。
SKY MAVIC HP ( https://skymavis.com/ )
そして最近のベトナムの新たな投資トレンドといえば、やはり暗号通貨といえるでしょう。2020年頃から多くの人がデジタルコインについて注目するようになり、2021年にはベトナムは暗号通貨の投資に向けたホットな地域の1つになっています。
進出する際の課題や留意事項は?
― 海外企業がベトナムにスタートアップ企業を設立する前のステップについて教えてください。
クインさん:
まずはビジネス条件や投資資本の確認、会社所在地の登録、企業構造・体制や現地に滞在する法定代理人の選択、会社登記簿謄本など必要書類の作成・提出などを行います。場合によっては、ライセンス許可の申請や取得も必要です。あまり時間をかけずにすべての文書や要件を滞りなくクリアするには、現地にある法律事務所や現地パートナーの手を借りるのが早いと思います。
― 海外からベトナム市場への進出を考えているスタートアップ課題について教えてください。
クインさん:
カナダやインドからベトナムに進出してくるスタートアップ企業もいますが、正直なところ、日本も含め外国企業がベトナムに進出するためには、多くの課題があると言わざるを得ません。例えば、ベトナムで会社を立ち上げるには、手続きが非常に複雑なのです。
ただ、2020年以前は2か月かかるといわれていましたが、その後改善されて、現在はスタートアップをサポートできる事務所などを利用すれば16日間という短期間で設立できます。そうはいっても、その前の2か月間で約20のステップを踏む必要があるなど、いろいろな対応が必要になりますが。
また、以前は皆無でしたが、
今は外資100%の企業が認められています。ただ、提出する書類が多くて時間がかかったりするので、ベトナム人と一緒に設立する方が簡単だと思います。ベトナム人であればスタートアップを支援する政府系ファンドに応募できるのに加え、政府が各省に設置したローカルインキュベーションセンターを無料で利用できます。
ベトナムでは
ホーチミン、ハノイ、ダナンという3大都市でスタートアップエコシステムを強化促進しています。ハノイは首都であり、ホーチミンは投資に関して非常に活発で、多くのベンチャーキャピタルや国際的スタートアップの関心を集めています。
― ベトナム進出するならば、やはり3大スタートアップエコシステム都市に行くのがよいのでしょうか?
クインさん:
はい。なぜなら、これら都市は、すでに外国の投資家や外国のスタートアップと仕事をした経験を持っているからです。そのため、すべての手続きが早く済み、政府からの支援も非常に手厚く充実しています。地方に行くとそうはいきません。
― 例えば日本のフィンテック企業がベトナムにも会社を設立したいと思ったら、どのようなリサーチをすればよいですか?
クインさん:
ベトナムを訪問していろいろな人に会い、エコシステムを理解することができれば、それが一番です。そうすれば、インキュベーションセンターやアクセラレーターと直接仕事をすることができます。
私たちのようなアクセラレーターは市場における大手企業や競合他社を把握していますし、ベトナムで一緒に仕事ができる潜在的な顧客やパートナーも把握しています。
また、Facebookのグループをベースにリサーチすることもおすすめします。
Facebookとビジネス向けSNSのLinkedinはベトナムでは今大きな話題になっていて、Facebookにはスタートアップをサポートするフォーラムがいくつかあります。質問があったり、パートナーやサービスを提供している会社を探していたりしたら、そのフォーラムが役立ちます。Linkedinはどちらかといえばプロフェッショナルな仕事を探している人、チャンスを探している人向けです。
何よりも、現地のコミュニティとつながっておくことが重要です。ホーチミン市では、毎晩のようにさまざまなスタートアップ・グループの集まりがオフラインやオンラインで開催されています。この前も、“オンラインビアナイト”というZOOMでの集まりがあり、自宅でビールを飲みながら100人くらいが参加しました。
コロナ禍の収束に伴い、オフラインでもフィンテックなどのイベントが目白押しです。Facebookで入力するとたくさんのイベントが表示され、そこに行けば同業者と交流することができ、いろいろなサポートもしてもらえます。
― どのようにすればスタートアップとの協業に興味のある代理店や営業マンを見つけることができますか?
クインさん:
そうですね、現在はLinkedinで検索するのがおススメの方法だと思います。ベトナムの代理店や共同出資者を募り、共同出資者としてベトナムに進出することも可能です。良い代理店を見つけることができれば、彼らはベトナム語を話し、流通チャネルを持ち、パートナーを持ち、そして経験豊富で、さまざまな人々とビジネスをする方法を知っています。ベトナムでの会社設立もサポートすることができます。
また、ベトナムにパートナーを持っているならばより効率的です。例えば私は以前、在ベトナムのイスラエル大使館経済部で働いていたので、イスラエル人コミュニティがベトナムに進出するのをサポートしています。
なので、ベトナム進出を検討するならば、ベトナムの日本大使館と接触して質問などを送ることも1つの案だと思います。そうすれば大使館の担当部署が競合他社は誰か、潜在的なパートナーは誰か、といった短いレポートを送り返してくれるでしょう。これはとても簡単で、お金もコストもかからない方法です。そうすれば、ベトナムの市場について少しは知ることができます。
そして、そこから先は、ベトナムを訪問すればよいのです。この国の環境を理解するためにも、現地を訪れることは重要だと思います。そして、周囲の人たちと交流することです。
事前にベトナム人パートナーを持つことが成功ポイント
― 最後に、ベトナム進出において失敗しないための注意事項について教えてください。
クインさん:
現在ベトナムのスタートアップ市場はかなり競争が激しく、ベトナム企業も含めて毎年800から1,000社近い新しいスタートアップが誕生しています。正直なところ、アーリーステージの投資は多いものの、どのスタートアップにとっても後期段階の投資はかなり難しいといえます。
先ほど説明したように、ベトナムでは現地の資金が入っているファンドは少なく、ベトナムにある80%のファンドは海外資金が中心の国際的なファンドです。従って日本の会社が進出したいと思ったら、ベトナムではなく自分の国で資金を調達するのがベストだと思います。私の知り合いの日本人もベトナムでスタートアップを立ち上げて市場を開拓しましたが、資金調達は日本で行いました。
スタートアップにとって、自分たちの製品が現地市場に適合していることを証明するのはかなり難しいことだといわれています。そのため、資金調達に関しては自分の国で自国の言葉で話し、そこで調達に結び付ける方が簡単なのです。
また、
外国企業がベトナムに来る前には、やはりベトナム人パートナーやベトナム人代表を持つ必要があると思います。インキュベーションセンターやアクセラレーターセンターを利用しても構いません。政府関係者のすべてが英語を話せるわけではないため、ベトナムではどうしてもベトナム語ができる人が必要なのです。さらに、何かを売り込みたいとしたら、そのソリューションを保有しているベトナムの営業担当者がやはり必要になります。