ベトナム各地の工業都市や工業団地を会場にリレー方式で開催している
ベトナム工業製造業見本市「Vietnam Industrial & Manufacturing Fair(VIMF)」。過去19回にわたって開かれてきたそれは、2024年は3都市(年3回)で、25年には4都市(年4回)で予定をしている。
自動化やデジタル化などとは縁遠かった現地の中小零細企業などを主要なターゲットに、効率化の提案とビジネスマッチングの機会を提供するのが主要な目的だ。若く成長著しいベトナムの豊富な労働力。それでいて賃金は未だ安価で、海外展開を模索する外国企業にとってもうってつけの投資市場と言えるだろう。見どころ満載のVIMFを紹介する。
VIMFの開催都市は、24年がベトナム南東部ビンズオン、中部ダナン、北部バクニンの3都市。
25年が北東部バクザン、ビンズオン、南部カントー、バクニンの4都市を予定している。このうち連続開催となるビンズオンは、南部最大の都市ホーチミン市の北東に位置し、この地方の経済圏を構成する主要な省の一つ。もう一つバクニンも北部紅河デルタにある重点省で、もともとは稲作が盛んな行政・商業の中心地。
いずれも近年、急速に工業化が進んでいる。
開催事務局によると、海外からの進出企業や工業団地が多いビンズオン、バクニンといった両都市では原則として毎年、それ以外のダナンやバクザンなどの都市では2~3年毎の開催となる見通しだという。開催都市については今後の経済情勢や政府の指針も考慮に入れ、見直しや新たな選定・追加も行っていくとしている。
【VIMF 2024~25年の開催計画】※出展企業数、来場者数は事務局見込み
1.地域:
北東部
都市名:
バクザン市
開催期間:
2025年4月16日~18日
会場:バクザン・スポーツスタジアム
出展企業数:約15か国250社
来場者数:1万5000人
2.地域:
南東部
都市名:
ビンズオン市
開催期間:
2025年6月18日~20日
会場:ビンズオン新都市ワールドトレードセンター
出展企業数:約20カ国450社
来場者数:2万人
3.地域:
南部
都市名:
カントー市
開催期間:
2025年9月17日~19日
会場:VIMTカントー
出展企業数:約15カ国200社
来場者数:1万2000人
4.地域:
北部
都市名:
バクニン省
開催期間:
2025年11月5日~7日
会場:キンバック・カルチャーセンター
出展企業数: 約20カ国400社
来場者数:2万人
複数の都市や工業団地を会場にリレー方式で開催していることについて、事務局では「ベトナムは南北に国土が長く、見本市(展示会)への来場や出展を希望する各地の中小零細企業の利便性や地域の事情を考慮に入れる必要があるから」と説明する。首都ハノイや南部最大都市のホーチミンで開かれる国際的な大型展示会に比べて一つ一つの開催規模は小さくはあるが、「その地その地で、実効力のあるビジネスマッチングを目指している」としている。
そのための工夫は内容を見れば一目瞭然とも言える。ブースの開設可能な対象は、工作機械、金属・板金加工、溶接、金型・工具、ダイカスト、プラスチック成形、コーティング・表面処理、計測・測定機器、3Dプリンター、製造用ソフトウェア、物流・在庫管理などあらゆるモノづくりを網羅する。そして、仔細に内容も多彩だ。
この中から、地域の特性や産業の発展状況に合わせ、複数の組み合わせを取捨選択。開催都市ごとに特色ある展示会づくりを心がけているという。「
サプライチェーンを構成する下請け企業の業種や分布は地域によってさまざま。ワンパターン化せず、それぞれの地域性に則した内容にしている」と事務局は解説する。
こうした地域特性により、進出外国企業と現地のローカル企業などとのマッチングも効果的効率的に進むというのが主催者側の見方だ。
例えば、24年と25年のともに6月にVIMFを開催する南東部の都市ビンズオン。海外企業誘致に積極的な地域で、日系企業も数多く進出するなど製造業が盛ん。24年第1四半期(1~3月)の工業生産指数は、前年同期比3.9%と前年の伸びを上回った。運営中や建設中の工業団地も多く、VIMFのほか著名な国際会議や自動化、エネルギーをテーマにした展示会も数多く開催されている。
国際的なメーカーの進出も盛んで、
24年6月のVIMFでは独シーメンス社が現地のOEM(相手先ブランド生産)企業Idea Tech社と共同開発したロボットソリューションシステム「ROBITSI-Delta Picker」が注目を集めた。ベトナム全土ではまだ十分に浸透しているとは言い難い自動化や省人化だが、このエリアでは先駆けとなりうる。開催事務局も「この地域の自動化・省人化はまだ第一段階だが、他に比べて先行している。今後は、下請け企業も含めてサプライチェーン化が急速に進んでいくだろう」と分析している。
一方、24年と25年の11月にVIMFを予定する北部の都市バクニンは、首都ハノイや港湾都市ハイフォンなどとともに北部の重点経済区を形成する。
域内総生産(GRDP)は約7%と国内では第5位に位置する成長エリア。政府が承認する工業団地は省内に計16カ所もあり、ここで導入が顕著に進んでいるのがデジタル化だ。政府が進める産業の高度化策「インダストリー4.0」の先端地域で、過去5年間でデジタル化率は30%台から70%台に進んだという民間の試算もある。
現在、推進されているのはIoT(モノのインターネット)の普及や人工知能(AI)などを活用した新しいモノづくりのあり方だ。事業活動によって得られた収益を新たにこの分野に投資する企業も増えているといい、生産効率の向上やコスト削減、収益の増加が見込まれるという。
VIMF会場では、デジタル化のためのプラットフォームが多数展示され、これまでベトナムではあまり見られなかったデジタルソリューションの提供も行われる。
もう一つ、24年9月にVIMFを予定する中部ダナンも紹介しておこう。インドシナ半島を横断する東西経済回廊の起点でもあり、ベトナム第3の巨大都市。産業の集積密度も高く、域内総生産は8%台に迫る勢い。ベトナムではまだ途上とされる環境ビジネスやハイテク産業の躍動も始まっており、将来性においてハノイやホーチミンにも引けを取らないエリアだ。
ここ
で今回展示され注目を集めているのが、産業の自動化ソリューションや産業用IT、3Dプリンターといった先端技術だ。スマート・ファクトリーやマイクロテクノロジーといったキーワードが大会を盛況に導くと事務局では期待している。
VIMFはまた、テーマごとに特化した専門の小規模展示会もそれぞれの大会で同時開催する。24年はビンズオン、ダナン、バクニンの3会場で、いずれも次の4つの専門展示会を予定している。
① マテリアルハンドリングや倉庫・物流、ロジスティックシステムに特化した「VIETNAM MATERIAL HANDLING FESTA(
VMAT)」
② 新しいモノづくりとして注目を集める3D印刷術を扱った「3D PRINT FIESTA(
3DF)」
③ 産業用ロボットと自動化をテーマとした「ROBOTICS & AUTOMATION VIETNAM(
RAV)」
④ 先端工業国シンガポールの今を伝える「SINGAPORE PAVILION(
シンガポール・パビリオン)」
このうち、
①のVMATは近年ベトナムでも導入の始まった自動化の要請に、どう応えていくのかをテーマとした専門展示会。さまざまなマテハン機器を組み合わせることで、エンドユーザーに対し具体的で効果的なソリューションの提供を行うことを目的としている。一方、
②の3DFは最新の積層技術を使った3Dデザインの今を紹介。ベトナム科学技術省やベトナム工科大学などから一線の研究者も参加して、ベトナム3D界が持つ将来性についても紹介していく予定だ。
③のRAVは、政府が推進するインダストリー4.0やベトナム経済の今後を占う鍵としてロボットに着目した専門展示会。政府の試算によると、インダストリー4.0の推進によってベトナムの国民総生産(GDP)は285億米ドル~最大で621億ドルも上昇する。これは率に直すと、年7%から最大16%増にも相当する高い数値だ。国のボルテージも上昇する一方だ。
そして、④のシンガポール・パビリオン。ここには、
シンガポールの融資機関「エンタープライズ・シンガポール」を紹介するブースが設置される。最大70%にも上る補助金を助成するエンタープライズ・シンガポールは、シンガポール国際企業庁などが2008年に設立した国際的な支援機関。ベトナム政府としても国内産業育成の牽引役として期待を寄せている。
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