タイのDXキーパーソンが語る、「Thailand4.0」の現状と未来|JRIT ICHI Special Webinar | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
Thailand タイ

タイのDXキーパーソンが語る、「Thailand4.0」の現状と未来|JRIT ICHI Special Webinar

日本のITソリューションでタイ・ASEANのDXを加速させていくJRIT(Japan Recommend IT)プロジェクト。このプロジェクトの中心となる、タイのユーザーがDXに関する新鮮なコンテンツをいつでもでも見ることができるマーケットプレイス、JRIT ICHI(市)のプレオープンを記念して、5月19日に「JRIT ICHI Opening Event 2021」が開催された。

本イベントでは”タイのDX”をテーマに、タイ政府と日系企業のタイ現地法人の2つの視点で、合計3つのセッションが繰り広げられた。イベントの中でもポイントとなる箇所を抜き出し、まとめた形で本記事では紹介する。より詳細な内容は、本メディアを運営しております株式会社ビッグビートの現地法人Bigbeat Bangkokの公式ブログからご覧いただきたい。

タイは国を挙げてデジタル化に取り組んでいる


(左)Dr. Manoo Ordeedolchest Advisor to the Permanent Secretary of the Ministry of Digital Economy and Society
(右)Assoc. Prof. Dr. Thanachart Numnonda Executive Director IMC Institute

まず、前半で講演をしたのは、タイ王国のデジタル経済社会省(MDES)の事務次官顧問 マヌー・オラディドンラチェット氏と、タイにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)のエヴァンジェリストで、ビジネスアカデミー「IMC Institute」の事務局長でもあるタナチャート・ヌムノン氏の2人である。
マヌー氏は、タイ政府、および「タイランド4.0」の所管官庁MDESの立場から、タイが目指す経済社会発展の姿、タイ政府が掲げる20年間にわたる長期計画の概要、実現に向けて政府は何を準備するか、などを簡潔に述べた。
一方のタナチャート氏は、タイ企業に寄り添う形で、DXがなぜ重要か、デジタルディスラプション(創造的破壊)の変革期を勝ち抜くためにやるべきこと、必要なIT技術、予想される消費者行動の変化、などを具体的に列挙した。
タイはいま国を挙げてデジタル化に本気で取り組んでいる。20年後に、デジタル技術とイノベーションのリーダーとなり、先進国になるというのが「デジタル・タイランド」の長期ビジョンだ。大事なことは、このビジョンを実現するために前半の約10年間は、最も経済が発展し投資も促進される活性期になるということである。
 

「デジタル・タイランド」の鼓動・胎動が聞こえる

「デジタル・タイランド」の取り組みに、コロナ禍(COVID-19)は2つの方向から影響を与えている。ひとつは“破壊の速さ“。これまで個人利用が多かったインターネットを企業利用が進むなど、デジタルディスラプション(創造的破壊)が加速した。もうひとつの側面は、”破壊の大きさ”。デジタル化にCOVID-19が加わった「ダブルディスラプション」は、タイの幅広い業種や企業が生き残るために、従来と比較にならないほど大きな変化を求められる。生き残りを真剣に考えるからこそ、タイの企業は先端技術にも敏感だ。タナチャート氏は、これから必要となるIT技術として、IoT、クラウド、5G、ビッグデータ、AIにとどまらず、量子コンピューティング、音声インターフェース、AR/VRも列挙した。



さらにタナチャート氏は、デジタル経済の特徴として、「Social Economy」、「Purpose Economy」、「Authenticity Economy」、「Holistic Health Economy」の4つを挙げている。多くの人がソーシャルメディアを通じてつながる「Social Economy」と、信頼できる製品・サービス・企業を顧客主導で選ぶ「Authenticity Economy」は日本でもわかりやすい。「Purpose Economy」はパーパス・ドリブン・エコノミーのことであり、企業の存在意義を目的主導型にすること、つまり、日本ではまだあまり一般的ではない「パーパス・ドリブンなブランディングの重要性」を指摘している。そして、「Holistic Health Economy」は人間を丸ごと全体でとらえるホリスティック・ヘルスケアの重要性を意識した内容である。
これから市場参入しようというIT系企業は、日本およびグローバルで成功した実績あるソリューションを持ち込むだけでなく、タイおよびASEAN各国のニーズを的確に捉えて、場合によっては世界初の最先端ソリューションを新規開発して投入するというアプローチも必要になるだろう。
 

現地法人キーパーソンの本音から次のビジネスチャンスが見える

後半のパネルディスカッションでは、NTTデータ、日立、NSソリューションズ3社の日系企業のタイ法人から、代表取締役副社長をはじめ現地の責任者がパネラーとして参加。NTT Data Thailandのウィラポン・パイサンスップニミット氏、Hitachi Asia (Thailand)のソムサック・ガンチャナカーン氏、Thai NS Solutionsのパット・チラポン氏の3人が、ビジネスの実績やタイ市場の手応えについてかなり率直に語ってくれた。



前半のタイ政府とタイ企業を代表する講演者2人は、「デジタル・タイランドは、価値を上げる経済ではなく、価値を生み出す経済を目指す」(マヌー氏)、「DXとは、作業プロセスをデジタル化することではなく、新しいイノベーションを創造することだ」(タナチャート氏)としきりに強調した。一方で、NTT Data Thailandのウィラポン氏は、「顧客であるタイ企業はDXに対して、まず人数を減らす効果を期待している」と言い切った。まず人数、人的工数、経費を減らす効果が明確に出せてこそ、次のステップとして、人材の能力の最大活用、価値創造、イノベーションへと進んでいく提案を企業経営者に聞いてもらうことができるというわけだ。
もうひとつの本音。Hitachi Asia (Thailand)のソムサック氏は、「ASEANに対しては中国からの投資が圧倒的に多いが、日本の投資姿勢には根本的な違いがある」と言及した。日本は、タイおよびASEANが経済的に重要な地位を占める地域であり、十分なリソースと成長力があることを認めたうえで、数十年越しの長いつきあいを大事にしてきた。今後も長期的な視野で継続的な投資を続けていく姿勢である。
 

新規参入には2方向のアプローチか?

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査などで指摘されているとおり、タイでシステム構築、保守運用を行うITサービス企業は、地場企業の比率が圧倒的に高い。タイは、信頼できる企業を顧客主導で選ぶ傾向がもともと強く、IT業界でも「国産」が選ばれ続けてきたのだ。その「Authenticity Economy」の市場へ新規参入するならば、2つのアプローチが考えられる。
ひとつは、地場企業があまり得意としていない領域で、技術と経験を活かすことだ。


Thai NS Solutions:Phat Chiraphong氏

Thai NS Solutionsのパット氏は、自社の強みを次のように語る。「複雑化したインフラ環境を統合的かつ信頼性高く運用するノウハウ、ロールアウトモデルの構築と支援、そしてグローバル支援などが、当社の特長である」と。新・旧システムの混在によるインフラ複雑化、自社開発の独自システムから海外の親会社が運営するグローバル共通システムへ移行しなければならないなどの問題を抱えるタイ企業は、日系IT企業の提案を歓迎するということがわかる。
もうひとつは、タイの地場IT企業とも積極的に協力しながら、DXを「共創」していくことだ。「共創」ができるようにするには、提案からサービス提供、アフターケアに至るすべてのプロセスで誠実な対応を徹底し、相互信頼を獲得する必要がある。具体的には、最先端テクノロジーと、現地ニーズに沿ったビジネスコンサルティングの両輪を、誠実かつ信頼される形で継続的に提供していくことになろう。日本のシステム・サービスが高品質であることは、信頼を獲得するのに有利なポイントだ。タイ・ASEANと日本との間で、文化的な共通点があることもプラス要素として意識していきたい。
 

「JRIT ICHI」だからできる双方向コミュニケーション

「JRIT ICHI」のWebinerは、セミナーそのものが主目的ではなく、マーケットプレイスならではの双方向コミュニケーションの形成と広がりを目的としている。NTTデータ、日立、NSソリューションズのタイ法人は3社とも「JRIT ICHI」の出店企業である。「JRIT ICHI」に登録して各社の出店をたどっていけば、もっと詳しい情報を得ることができるし、質問や相談も可能だ。「JRIT ICHI」は今後も、9月の本格稼働に向けて、Webinerやイベントの開催を予定している。マーケットプレイスならではの情報提供、マーケットプレイスならではのコミュニティづくりがどのように進化していくかーー、日本のIT企業の皆さまにも積極的なアドバイス、提案をいただければと願っている。

 



―― 「JRIT ICHI Opening Event 2021」講演者・講演タイトル一覧 ――
*日本と現地で内容が異なることがあるため、役職名は非表記になります

■講演1
「タイのデジタル経済化の未来像」
タイ王国デジタル経済社会省(MDES) 事務次官顧問
マヌー・オラディドンラチェット氏

■講演2
「デジタルトランスフォーメーションがビジネスを変える」
IMC Institute 事務局長
准教授 タナチャート・ヌムノン氏

■パネルディスカッション
「日本のITサービス企業のデジタル・タイランドに向けた取り組み」
●パネラー1
NTT Data Thailand
Executive Vice President
ウィラポン・パイサンスップニミット氏
●パネラー2
Hitachi Asia (Thailand):
Director & Chief Marketing Officer 
General Manager, Account Development Center
ソムサック・ガンチャナカーン氏
●パネラー3 
Thai NS Solutions
Solution Technical Manager
パット・チラポン氏
●モデレータ
ウィチャイ・ワラタニ―ウォン氏


 

関連記事