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マーケティングとプロダクトの両輪でASEANを見据えるSansanの取り組み|Sansan Global Pte. Ltd. 池西 亮 さん

「それ早く言ってよ」というテレビCMでのフレーズや「名刺管理」という新たな市場を作り上げ、日本の中でも非常に有名な名刺管理ツール「Sansan」。
そのSansanも、2016年に Sansan Global Pte,Ltd を設立してからグローバル市場で選ばれるための展開を数多く行っています。

本メディアを運営する株式会社ビッグビートが主催・運営するオンラインイベント「Bigbeat LIVE ASEAN Vol.03」にて登壇いただきましたSansan Global Pte ,Ltdの池西亮さんに、講演の中だけでは伝えきれなかったASEANでのデジタルマーケティングの変遷やプロダクトのローカライズについてインタビューをいたしました。
シンガポールやASEANへの進出を検討している企業や担当者の皆様にとって参考になる情報をお届けいたします。

▼イベント当日の内容はこちら
Bigbeat LIVE ASEAN イベントレポート

 

日本の成功体験は通用しない?!ASEAN式デジタルマーケティングとは

ー 池西さんは2019年からシンガポールでデジタルマーケティングに取り組まれてきました。Sansan Global Pte,Ltdの抜本的な改革を推し進めた池西さんのマーケティング変遷についてお聞かせください

池西さん:
現地での最初の取り組みについては「日系」と「ローカル」、大きく2つに分けて話したいと思います。
まず、シンガポールで事業を展開している日系企業に関しては、Sansanの日本の既存クライアント7,000社から、シンガポールに拠点のある企業をリサーチして現地での地盤を固めるべくアプローチしました。例えば、シンガポールで展開している日本の商工会議所のメーリングリストを活用して、多くのウェビナーを実施しました。Sansanは、日本でもDXを題材とするような著名人によるオンラインイベントを開催してきましたが、シンガポールを中心にASEANの日系企業にも案内して、視聴してもらえるようにしました。


ローカル企業へは、どのようにアプローチしたのでしょうか?

池西さん:
ローカル企業に対しては、デジタルマーケティングの前に、アウェアネスの向上が優先でした。そこで、現地のPR会社と連携して、テレビやラジオに取り上げてもらう機会を作りました。そこから、広告も強化していきました。GoogleやFacebookはもちろんですが、金額が高く日本ではあまり活用されていないが海外では非常に注目度の高いLinkedInも利用しました。精度を担保して名刺をデータ化していくというサービス自体がグローバルではあまり馴染みのないものだったので、サービスを細分化することで、理解を深めてもらうといったことが先決でした。

池西さんは、“そもそも名刺に対しての位置づけが日本とは異なる”と言います。
日本では名刺は企業に帰属するものですが、ASEANでは個人に帰属するものであると考えられています。
そのため、「自分の名刺情報はシェアしたくない」という考えを持つ個人が多いそうです。
そのようなASEAN社会の考え方の中で、以下の様にサービスを細分化し、サービスの価値を示していくことに注力されていました。

 名刺をスキャン・データ化 → データを共有 → 共有でビジネスの可能性がより広がる


戦略的に現地でのマーケティング活動をはじめていった池西さんでしたが、そこにはローカライズならではの難しさもあったようです。直面したギャップや失敗談についてもお聞きしました。


ー ローカルの企業に対してのギャップや失敗談はありましたでしょうか?

池西さん:
日系企業に対しては、唯一ハードルとなったのは、“個人情報保護法”という法律の壁でした。現地のローカル企業からはほとんどない保護法に関する問い合わせが日系企業からは数多く寄せられ、法務上のジャッジが難しいので契約はできない・・・そういった日系企業の慎重さがひとつの大きなギャップでした。
そうした法律的なハードルが出てきた際にはシンガポールで活動している法律事務所に依頼して、中立的な立場から日系企業の疑問や不安に答えてもらっています。
また、同じ日系企業で導入した事例があれば、そのモデルケースを紹介することで、採用されるケースもあります。シンガポールやASEANなどでは、「他社がやっていない」という先進性が評価されるのですが、それに比べると、日系企業は慎重だと感じています。

シンガポールのローカル企業に対しては、「今よりも良くなる」だけではダメで、未来像や将来性など先を見越した提案や成果を求めてきます。PoC(試験導入)においても、新しい技術や革新的なところがないと、受け入れてもらえませんでした。

「他社がやってるかどうか」が選定基準となる日系企業と、「他社がやっていない」という先進性が評価されるローカル企業とでの国民性の違いとも言えるギャップに同じ国でもセールスの方向性の難しさを感じたという池西さん。ローカル企業に対しては、そもそもシンガポールの国自体が新しい取り組みをする企業の支援に力を入れていることもあり、“新しいことをやっている企業”が目立ちやすいということも踏まえて取り組まれているようです。

 

ローカルに受け入れられていくプロダクトの開発と改良

ローカル企業が求める先進的なテクノロジーや取り組みに対して、製品・サービス、またコミュニティー構築に関わる部分でSansanが取り組んでいることは何でしょうか?

池西さん:
製品・サービスの部分で言うと、この2年間は名刺管理システムのSansanを中心に展開してきましたが、最近はBillOneというクラウド請求書受領サービスのプロモーションを強化しています。シンガポールでは、ヨーロッパで作られた請求書のガイドラインを政府として導入しています。しかし、実際にはそれだけでビジネスは完結しません。シンガポールはASEAN各国との取引も多く、請求書の形式もバラバラです。そこで、Sansanの提供する、紙の請求書をデジタルデータ化するサービスを活用いただけます。さらに、世界的にメールを使った請求書詐欺が急増しており、そうした防犯対策としてもBillOneは効果的なのでローカル企業と協力してPoCを推進していく計画です。
ローカルのことは、ローカルの人が携わらないと、最後まで行き届いたプロダクト開発やコミュニケーション構築はできないと思っています。これから、シンガポールやASEANを中心にプロダクトを広げていくためには、現地のインダストリーや国民性に見識のある人材が必須です。そうした人材を組織に取り込んでいくために、プロダクト開発のマネジメントを担えるローカルの人を現地で採用していきたいといったことも考えています。


開発予算の面で日本とローカルでの違いや苦労はありますか?

池西さん:
日本でビジネスが成果を出していると、プロダクトの開発優先度も日本が中心になります。こうした状況を打開するためには、社長が現地に来て指揮するのが一番効果的だと思います。マーケットの規模は世界の方が大きいので、海外版のプロダクト開発に投資するべきなのですが、開発組織が日本中心だと目先の利益に注力しがちになります。
社長が現地に来られないのであれば、開発部門をローカルで独立して進められるようにする方法もあります。しかし、グローバル展開では、国境を越えた対応が求められるので、日本よりも開発費が増加します。例えば、Sansanではサードパーティと連携したサービスがありますが、同様のサービスをASEANで提供しようとすれば、国ごとに提携するサードパーティが異なるので、開発にコストも時間もかかります。それだけの投資をできるかどうかが、課題となっています。

日本でビジネスが成果を上げることにより、プロダクトの開発優先度や顧客からのフィードバックについても日本優先となってしまうケースを指摘した池西さん。
マーケットの規模でなく、目先の利益によって日本ファーストで開発が進められてしまうケースはこれまでの日本のITや製造業界の中でも多々ありました。
しかしグローバルでの開発は日本よりも開発費も増加するため、そうした開発に関わるコストやリソース配分など、経営的にも重要な判断に関しては社長が現地で直接指揮をとったり、また社内への働きかけや説得など調整ごとも含め、熱量高くやり続ける覚悟が必要と言えます。

 

多様な文化で成り立つASEANでのマーケティング戦略とは

最後に、様々な人々や企業ががマーケットに参入しているASEANの市場で、
現地の声をどのように拾い、どう精査してサービスに活かしていこうとされているのか教えてください


池西さん:
例えば、シンガポールでは人件費が高いので、秘書が名刺を手入力するよりも、Sansanを使えば時間もコストも節約できると訴求できます。一方で、タイは人件費が安いので、同じマーケティングのメッセージでは届きません。コスト感も国によって変わるので、マーケティングのメッセージは、国ごとに分けていく必要があります。我々の実感としても、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシアでは、それぞれ異なります。こうした国の違いに対して、できるだけ幅の広い予測を立てて、ローカルのいろいろな方のアドバイスなどを聞きながら、マーケティングのメッセージを的中させていこうと考えています。

世界60か国以上で利用されるSansanの名刺管理サービス。その裏には各国の価値観や文化を相手に一進一退ともいえる池西さんたちの奮闘と挑戦がありました。

 

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