【2020年5月15日】公開
以前に掲載した記事、「
JETROアドバイザーが語る!今後の伸びしろに大きな期待ができるベトナム自動車産業への参入のポイント」で、台湾企業をパートナーとした東南アジアへの進出について触れました。
今回は、その中でご紹介したTJPO(台日産業連携推進オフィス)にお邪魔して、プロジェクト顧問の葉武松さんとスペシャリストの木村隆さんに、お話を聞いてきました。
日台連携のこれまで
木村さんによると、1964年から現在まで、日本から台湾への投資には4つのピークがあったとのことでした。
第1次のピークは、1973年ごろ。
投資件数は100件程度あったものの投資額はあまり大きくなく、2度の石油ショックの影響もあり、しばらく低調が続きます。
第2次のピークは、日本がバブル経済にわいた1986から1989年にかけて。
バブル経済の崩壊後は、1993年に件数・額ともピークから半減しますが、それでも1986年の水準に戻っただけとも言えます。
そして1993年を底に、再び投資が活発になり、2000年に第3次のピークを迎えます。
ちょうど、アメリカを中心とした世界的なドットコムバブル、日本ではITバブルの時期に重なります。
しかし、第3次ピーク後の投資件数の落ち込みは大きくなく、投資額についてはほぼ横ばいといえる状況でした。
そして2006年、投資額は16億米ドルを超え、史上最高額を記録します。
それが、翌2007年に起きたアメリカの住宅バブル崩壊、それに端を発した2008年のリーマンショックで急激にしぼみます。
その後、額は低調なままですが、2012年にかけて件数が一気に倍増します。
きっかけは、東日本大震災でした。
製造業の各社が、生産拠点の分散を進め、その候補地として多くの企業が台湾を選んだことで投資が集まりました。
TJPOは、この2012年から現在に至る第4次ピークを迎えたところから、日台のビジネス連携は新時代に入ったとしています。
TJPO(台日産業連携推進オフィス)とは
TJPOは、台湾と日本の産業交流を活発にする目的で、2012年に設立されました。
2011年、台湾の内閣にあたる行政院が「台日産業連携架け橋プロジェクト」を制定したのをうけて、経済部(日本の経済産業省に相当)工業局の産業発展推進プロジェクトを実行する機関として産声をあげたのです。
TJPOは、3つの部門で構成されています。
・サービス課
・プロジェクト課
・Japan Window
です。
「サービス課」は、日台公的機関の交流窓口となることが主な役割です。
政府や自治体などの行政機関とのコミュニケーションをうけもち、調整や連携強化をはかっています。
「プロジェクト課」は、具体的な案件の開拓とそのサポートにあたります。
交流イベントの開催なども、プロジェクト課の役目です。
「Japan Window」は、その名の通り、在日の相談窓口です。
東京の港区に事務所を構え、日本の行政機関や企業との連絡業務を担っています。
日本国内で、日本語による相談ができるのはうれしいですね。
TJPOによる個別案件サポートの流れ
TJPOに持ち込まれた相談は、案件ごとに評価され、サポートの可否を決定し、どのようなサポートを実施するか検討されます。
まず、次の3つの観点で評価されます。
1.台湾政府の推進する「5+2産業イノベーション政策」に合致しているか?
2.産業サプライチェーンにおける重要なメーカーであるか?
3.台湾で必要とされている技術であるか?
このうちの1つ目の「5+2産業イノベーション政策」について補足しておきましょう。
台湾政府は、官民を挙げて注力すべき分野を7つにしぼり、産業の育成に取り組んでいます。
当初掲げられた5つの計画、
・アジアのシリコンバレー
・スマート機械
・グリーンエネルギー
・バイオ医薬品
・国防産業
に、
・新農業
・循環経済
を加えたものを「5+2産業イノベーション」と定めています。
これらの評価に基づいて、それぞれの案件のサポート内容を決めていきます。
では、具体的にはどのようなサポートを受けることができるのでしょうか?
1.会議の設定
日本企業が台湾の企業や産業協会、公的機関へのコンタクトを望む場合、TJPOがアポイントをとり、企業や工場、協会などへの訪問を手助けしてもらえます。
その際に、TJPOのスタッフに同行を求めることも可能です。
2.交流イベントへの参加支援
産業セミナーや産業展示会、商談会などの紹介や、参加のサポートをしてもらうことができます。
また、日本の地方自治体などが、台湾との交流イベントを開催したい場合などのニーズにも対応してもらえるとのことです。
3.工場設立・投資関連の支援
台湾の工業団地視察や投資家推進関連機関訪問をコーディネートしたり、スタッフが同行したりといった支援をしてもらうことができます。
そのほかにも工業局管轄の資料などの提供も受けることができます。
また、日台の企業間で事業が開始された案件については、継続的にTJPOがフォローアップをしてくれます。
渡航費や通訳費用、市場や企業調査といったリサーチなどの実費は必要ですが、サポート業務自体は無償で受けることができ、必要に応じて外部委託先の紹介も依頼することができます。
ゼロから自力でおこなうことを考えると、とても助かりますね。
台湾企業との連携による東南アジア市場への進出
さて、TJPOがサポートする案件は、日本企業による台湾への投資だけではありません。
海外市場に進出しようとしているのは、台湾企業も同じです。
そうした企業同士を結び付け、日台共同での第三国市場進出という企業連携事例も出てきています。
たとえば、優れた技術や商品をもっている日本企業でも、海外での販路開拓で苦戦するということはよく耳にします。
そのような時に、台湾企業のネットワークを活用して、スムーズに進出を果たすというようなケースです。
お互いの強みを補完しあって、Win-Winの関係をつくる橋渡しもしています。
また、日本のメーカーが海外に進出する際、サプライチェーンの問題にも直面します。
日本国内では多数のサプライヤーとパートナーシップを結んでいても、そのサプライヤーすべてが一緒に海外に出ていくというわけにはいきません。
現地でサプライヤーを探さなければなりませんが、ゼロからサプライチェーンを構築するのは骨が折れます。
TJPOには、そのような相談もサポートした実績があります。
日本のメーカーのもとめる仕様をもとに、台湾の産業協会を通して台湾のベンダーに照会しました。
現地に進出している台湾企業のほか、台湾企業が取引している現地企業など、これまで多くの実績を持つサプライヤー候補の企業が多数提案され、無事に契約をすることができたそうです。
日台連携新時代
葉プロジェクト顧問は、台湾と日本は文化的にも、ビジネスのやり方の面でも近しい間柄だといいます。
そのため、両者は連携をとりやすく、お互いの強みを持ちよることで、大きな力にすることができると考えています。
その連携をさらに強化すべく、TJPOが設立されました。
その背景には、第4次のピーク以降、日本企業との関係が変わってきたことがあります。
第4次ピーク以前には、日本企業の台湾への投資といえば、製造業によるOEM先の開拓がほとんどでした。
しかし、今では投資モデルが、多様化しています。
TJPOでは、そのモデルを3つの類型に分類しています。
モデル1は「台湾顧客密着型」。
これは、台湾をOEM先ではなく市場ととらえ、顧客ニーズに合ったサービスを迅速に提供して市場に参入するというモデルです。
この先には、台湾顧客が中国大陸市場でもつ人的ネットワークを通じて、さらなるビジネスチャンスを獲得するという狙いもあります。
モデル2は、「台湾=輸出生産拠点型」。
これは従来型のモデルといえます。台湾の製造業がもつ、品質とコスト優位性を利用して、輸出競争力を高ようというモデルです。
モデル3は、「台湾=ビジネスモデルテスト市場型」。
主にサービス業によるテストマーケティングの場として台湾市場をとらえているモデルで、近年とくに外食産業や小売りで多く見られるようになりました。
日本でのビジネスモデルとサービス内容を改良してアジアの中華圏市場を開拓していく、いわば橋頭保の役割を担っています。
こうした新しい日台の関係を、TJPOでは「日台連携2.0時代」と呼び、日本と台湾をとくにAI、IoT、5Gの研究開発、ハイエンド製造の重要拠点および試験地域と位置付けて、新たな垂直応用を開拓し、グローバル市場へ進出する手助けをしています。
台日産業連携推進オフィス
https://www.tjpo.org.tw/jp/
※ 記事内の図版はTJPO提供