タイの首都バンコク・プナウィティ地区にある「
True Digital Park(以下、TDPK)」が、タイのスタートアップシーンに新たな波を起こしています。2021年9月、タイを代表する大財閥CPグループがサイアム商銀行とともにベンチャーキャピタルを設立したことをはじめ、外資系企業や投資家が新興企業への投資を加速させました。
TDPKが台頭した背景には、タイ政府の情報化政策「Thailand4.0」の影響があります。今回は、TDPKの概要とともに設立の背景や日本スタートアップの利用方法などをまとめて紹介します。
東南アジア最大のスタートアップハブ「True Digital Park」とは?
True Digital Park(以下、TDPK)とは、タイのスタートアップエコシステムの中心となる複合施設で、東南アジアで最も大きなデジタルスタートアップのハブ拠点です。デジタル庁の河野大臣(2023年3月当時)が現地を視察し、デジタル化の課題やタイとの協力関係について意見交換を行うなど、日本政府としても注目しています。
出典:https://www.truedigitalpark.com/en
この施設は、バンコクの中心部から電車で約40分の距離にあるプナウィティ地区に位置しています。かつて下町エリアだったこの場所は、タイの大財閥であるCPグループの不動産開発会社MQDCと通信会社True Corporationが、2019年からTDPKを開発したことで、急速にスマートシティへと変貌を遂げました。
TDPKは、コワーキングオフィスや会議場・催事場のあるオフィススペース、イベントスペース、ハイテク大手向けの技術革新スペースなどを提供しています。ここでは、スタートアップ、エネルギー、テクノロジー分野に関連するイベントを日常的に開催されており、最先端ソリューションの共有の場となっています。また、高層コンドミニアムやショッピングモール、図書館も併設されており、総面積は約23万㎡(サッカー場28個分に相当)を超えます。
TDPKのテナントは多岐にわたり、スタートアップだけでなく、中小企業、外資系大企業(Google、Huawei、リコーなど)、投資家、大学・学術機関、政府機関(デジタル経済振興庁)など、5,800以上の企業や団体が入居しているとされます。建設業や製造業の現場情報を一元管理するアプリ「KANNA」をリリースする日本の株式会社アルダグラムもその1つで、タイ駐在員事務所をTDPKに構えています。このように、TDPKは、さまざまな分野のイノベーションやコラボレーションの中心地として機能しています。
株式会社アルダグラムの出展事例はコチラ
https://piripiri.bigbeat.co.jp/blog/true_digital_park
参考資料:
https://thailandpicks.com/bangkok-punnawithi/?fbclid=IwAR06B1pa6II7ZVyD8JYGx8_Tdu2JdBfF58A1NEQnRdGgsrVVdUkANdkghfk
https://a49.co.th/Projects/view/978?fbclid=IwAR2NSYggXpubINTXN13VuSbTZwHuz6Oiy6QZzsdyuhCCKjoVXv_K6P2x-Go
https://businessyokohama.com/jp/2023/10/10/true-digital-park-startup-thailand-league-2023-demo-day/?fbclid=IwAR3ZXhAlk-JTKOpgkwZqkWNYLm6AS4-WtWOPRUTAmSJ_tDEWiHaJvhNEjrE
https://www.digital.go.jp/speech/minister-230314-01?fbclid=IwAR0Qc14im2fTh_6n-w6FHUNDwzKjySbZCoQjYYqCj0XyCHZ1FHBaLKbvOnY
https://arayz.com/old/truedigitalpark/?fbclid=IwAR2NSYggXpubINTXN13VuSbTZwHuz6Oiy6QZzsdyuhCCKjoVXv_K6P2x-Go
https://www.wisebk.com/683-10/
https://arayz.com/column/aldagram-202308/
https://www.truedigitalpark.com/en/about/about-us
タイ政府が掲げる「Thailand4.0」の実現へ
TDPKの設立は、CPグループによる開発努力の一環であると同時に、タイ政府が推進する国家戦略「Thailand4.0」の影響を受けています。Thailand4.0とは、2015年にタイ政府が発表したもので、経済の情報化を目指し、「中所得国の罠」からの脱却を目的としています。
中所得国の罠とは、開発途上国が経済を成長させ中所得レベルに到達した後、その成長が止まり、高所得国へと進むのが難しくなる状況です。この問題は初期の経済成長が、安い労働力や外国からの投資に頼っていたために起こります。そして、産業をより高度なものに変えたり、新技術を導入したりすることを怠った結果、成長が停滞してしまいます。
タイの場合、国民の1人当たりのGNI(国民総所得)は世界銀行のデータによると2022年で7,230米ドルでした。世界銀行では1万3,845米ドル以上(2024年度基準)を高所得国としており、その仲間入りを果たすにはさらなる飛躍が必要です。
Thailand4.0の戦略は、デジタルインフラの整備、経済活性化、社会の公平性の向上、電子政府の構築、デジタル人材の育成、デジタル技術への信頼構築の6つの柱に集約されます。TDPKは、これらの施策の具体的な実現を目指し設立されました。
また、Thailand4.0の成功を支えるため、タイの大手企業や財閥はスタートアップとの連携を積極的に進めています。その一例が、CPグループと経済産業省が共同で開催した「Rock Thailand」イベントで、日本のスタートアップがタイの大手企業に対してピッチを行う場を提供するものです。2022年11月の開催では、9社のスタートアップがプレゼンテーションを行いました。このような取り組みは、Thailand4.0の目標達成に向けた具体的なステップの1つと言えるでしょう。
出典:https://www.komchadluek.net/pr/536369
参考資料:
タイの情報化政策について
https://cicc.or.jp/japanese/wp-content/uploads/20221220-01th.pdf
タイランド4.0について
https://marketing.ipros.jp/contents/blog/141/
財閥企業からスタートアップへの投資について
https://routexstartups.com/startups/zaibatsu-company-startups/
Rock Thailand#4.0について
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/eaffaede81bf189a.html
TDPKはタイのスタートアップエコシステムの中核となり、日本を含むグローバルな連携を促進する重要な役割を果たしています。施設内での多岐にわたるイノベーション支援施策やコミュニティ構築機能を通じて、日本のスタートアップにも広く門戸を開き、タイ企業とのコラボレーションによる新しいビジネス機会の創出が期待されています。