部品メーカー元トップに聞くインドネシア自動車業界の現況と対策-労務管理のポイントは?

世界第4位の人口を抱えるインドネシアは、将来有望な市場として世界各国から注目されています。
なかでも自動車産業においては、販売台数の約97%を日系メーカーが占めており、「ティア1」「ティア2」といった下請け企業も比較的参入しやすい市場となっています。

一方、役人の汚職や労働者による激しいストライキなど、日本では考えられないようなトラブルもあるので、現地の事情をしっかりと把握しておく必要があります。

本記事では、インドネシア駐在中に労務管理や生産管理を担っていた自動車樹脂部品メーカーの元トップに取材した内容をもとに、現地の自動車産業や労働者の現状、新規参入にあたっての留意事項などを紹介します。
 

新規参入の際は現地で稼働している大企業のサポートを視野に

日系メーカーが圧倒的なシェアを誇るインドネシアの自動車業界では、「ティア2」「ティア3」といった下請けの部品メーカーが進出する際にも、当然ながら日系の自動車メーカーが主な顧客となります。
ですから、いきなり現地に行ってビジネス交渉をスタートさせようとしてもうまくいきません。
まずは日本で下準備を始めましょう。

具体的には、インドネシアに生産拠点をもつ自動車メーカーに、自分たちが現地でどのような部品を生産できるのか、その強みやメリットについてアプローチするのが妥当な方法です。
自動車メーカーもいろいろなニーズを抱えているので、そこにヒットするような提案ができれば、メーカー側も積極的にサポートしてくれるでしょう。
いい技術をもっていたり、特殊な部品を作れる企業があれば、ぜひ力を借りたいというのがメーカーの本音だからです。

インドネシアでビジネスを展開する際にまずハードルとなるのは、政府や役人の対応がスマートではないという点です。
リーダー層の役人たちの中には「国のために働く」という意識が薄い人も多く、私利私欲に走るなど役人の腐敗も目につきます。政府が定めるルールも朝令暮改だったり、陳情によって税制や法律が急に変わったりすることもあるため、思わぬところで足元をすくわれる危険性があります。

また、インドネシアは労働組合が強く、ストライキなどの労働争議が激しいことでも知られています。
労働争議を扇動し、賃上げ分の一部を報酬とするようなビジネスまで存在します。
そうしたことを考えると、「ティア2」レベルの中小企業が単独で進出するのはかなり難しいでしょう。

少なくとも一次受け部品メーカー、できれば自動車メーカーが主導する工業団地に入る形でビジネスを展開することをお勧めします。

労働争議の際にも、豊田通商や双日といった工業団地の開発に参画した会社が表に立って指針・対応方法を示してくれます。
極端なケースでは、外部からバイクに乗った集団が争議を煽りに来るといったこともありますが、そうした情報も会員企業を通じて即座に伝達されるため、事前に工業団地の門を閉めてシャットアウトするといった対応もできるわけです。

ですから、まずは日本で自動車メーカーや「ティア1」の部品メーカー、あるいは自動車メーカーと関係の深い商社にアプローチして、いかに自分たちの会社の魅力をわかってもらうかということが非常に大事になってきます。
 


インドネシアの2019年の実質GDP成長率は5%で、自動車販売台数も前年比10%減の103万台と、経済的にはやや伸び悩みの傾向が見られます。
こういうときだからこそ、新規参入を急ぐのではなく、何を売りにするかをじっくりと考え、製品開発や駐在員の育成、日系企業との関係づくりに時間をかけるべきです。

すでに現地で稼働している部品メーカーの中には、ストライキなどさまざまなトラブルで疲弊しているところもあるので、そうした生の情報をもとに打つ手を考えるなど、万全の態勢を整えておきましょう。
 

現地の人材をいかに見極め、どう使うかが重要

新規参入においては、現地人の採用も重要なファクターとなります。
面接の際は社長や役員などトップレベルの人間が対応すべきです。
面接官が責任を持って臨まないと、相手の本質を見抜けないからです。

なかでも経理や人事に関わる人材は重要です。
インドネシアの場合、特に人事担当の採用には細心の注意を払ってください。

実際、現地で採用した人事部長から社内の情報が労働運動のリーダーに筒抜けになり、騒動が起きかけたといった事例もあります。
人事、特にマネジャークラスの人材を選ぶときは、過去に労働争議に関わっていないかなど、徹底的に前歴を洗う必要があるでしょう。
そうした情報をリークする人もいるので、時間とお金をかければ、かなり詳細に調べることができるはずです。

現地の人材紹介会社を利用するのも一つの手です。

インドネシアでは特に豊田通商が、トヨタ自動車のニーズを踏まえて現地スタッフの手配などにも関わっているため、いい人材紹介会社をいくつも知っています。
こうしたところを利用すれば、手堅く確実な採用が見込めるので、トヨタグループにルートがあれば頼ってみてもいいでしょう。

また、インドネシアの自動車関連工場で働いている従業員は女性が多く、約6~7割を占めています。
というのも、採用の際に簡単な能力テストをすると、たいてい女性のほうが優秀だからです。
たとえば、単純な組み立て作業を1分間でどのくらいできるかといったテストを行うと、圧倒的に女性のほうが早く、間違いも少ないのです。



ここでは、女性に向けた特別な配慮も必要となります。
たとえば、インドネシアの女性は常にヒジャブを身につけていますが、工場で作業をする際にもこれを被ったままなので、機械にひっかけるといった危険性があります。

また、ただでさえ暑い工場内でヒジャブを被っているので、熱中症のリスクも出てきます。
ですから、作業服を改良するなどして、主戦力となる女性が働きやすい環境を整えることも大切です。
そういった細やかな配慮によって忠誠心が芽生え、エンゲージメントが高まるといったメリットもあります。
 

こまめなコミュニケーションで情報漏洩を防ぐ

ストライキなどの労使トラブルに対するリスクマネジメントも重要です。
どんなに気をつけて採用しても、労働争議を扇動するような人物が入り込んでくることはあります。
むしろ、社内に数人はそうした危険のある人物がいると思って対処したほうがいいでしょう。

そのため、まず大切なのは、常日頃からコミュニケーションを密にしておくことです。
マネジャー層だけでなく、工場で組み立てをやっている現地従業員にも「ご苦労さん」「最近、調子はどう?」などと気軽に声をかけ、関係性を築いておきましょう。

毎朝の工場巡回時や昼休みなどに言葉を交わし、様子がおかしくないか、変な動きをしていないかを日頃からチェックしておけば、トラブルの兆しを未然にキャッチできるかもしれません。



また、役人への情報漏洩にも注意が必要です。

インドネシア政府はワーキングビザがない人が工場に立ち入ることに対して非常に厳しいのですが、たとえば日本からの出張者がちょっと現場に入ったときに役人が踏み込んできて、パスポート提示を求められるといった事例もあります。

事務所で打ち合わせをしている分には問題ないのですが、出張者はワーキングビザがないので、工場にいるとペナルティ(罰金)が科されるわけです。どうしてそのタイミングで役人が来たかといえば、現場の従業員が報奨金目当てに情報をリークしているからです。

経理関係の情報が税務署に漏れるといったケースもあります。
社内の経理担当者から漏れるのか、会計士事務所から漏れるのかはわかりませんが、会計処理上の細かい情報まで税務署が把握していて、「ここはおかしいのではないか」と言ってきたりする。日本では考えられないようなことが、インドネシアでは普通に起こるのです。

対処の難しい問題ではありますが、こうしたトラブルがあるということも知っておいてください。
 

小規模でスタートし、着実な地固めを

先ほども述べたように、インドネシアの自動車市場はやや停滞しており、この先数年で大きく伸びるといった兆しも見られません。
ですから新規参入の際は、控えめな経営計画を立て、工場も大きくしすぎず、少ない従業員で、無駄を省いた引き締め政策をとることをお勧めします。

ただし、停滞気味とはいえ、ASEANでの自動車販売台数はタイを抑えて1位となっています。
確かな品質で製品を作り、手堅い経営を行っていけば、ビジネスとして十分に成り立つでしょう。
新規参入先としてタイかインドネシアか迷うといった声も聞かれますが、タイの市場も飽和に近い状態なので、伸びしろから考えるとインドネシアのほうが将来性を見込めそうです。

これまでは、インドネシアの自動車購買層は主に男性でしたが、最近は女性も権限を持つようになってきています。
優秀な女性が多いので、経済力がつけば、ますます発言力が高まるでしょう。そうしたところにもビジネスチャンスがありそうです。

2億6000万人という人口規模から考えても、今後、市場がブレイクする可能性は大いにあります。
ですから、ここ数年はリハーサル期間と考え、いろいろな面で準備を進めておきましょう。
たとえば工場の横は更地にしておき、いつでも増設できるようにするなど、市場が拡大し始めたらすぐに増産できる態勢を整えておけば、一気に波に乗ることができます。
入念な準備と手堅く着実な経営が、インドネシア進出のポイントといえそうです。


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