現地部品メーカー役員が語る!インドネシア自動車産業進出のポイント | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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現地部品メーカー役員が語る!インドネシア自動車産業進出のポイント

【2020年4月9日】公開

東南アジアで、タイと並ぶ自動車産業国であるインドネシアは、販売台数の約97%を日系自動車メーカーが占める有望な市場です。
ただ、2019年の実質GDP成長率は5%にとどまり、自動車販売台数も足踏み状態が続くなど、やや勢いが弱まっているという見方もあります。
政府が進める電気自動車(EV)製造の促進政策が日系企業に新たなチャンスをもたらす可能性もあり、自動車メーカーや部品メーカーの動きが注目されています。

本記事では、日系自動車部品メ-カー出身で、現在はインドネシアの部品メーカー役員として現地で事業を推進する影山稔人さんに取材した内容をもとに、自動車製造業界の現状や部品マーケットなどについてご紹介します。
 

経済成長率が伸び悩み昨年の販売数は前年比10%減の103万台

インドネシアの自動車販売数は2013年に123万台とピークを迎えましたが、その後は微増減が続き、直近の2019年は前年比10.5%減の103万台にとどまりました。
ただ、同年に100万台だったタイには3万台の差をつけ、トップに位置しています。

トヨタが前年より高い32.2%までシェアを伸ばしたこともあり、日系ブランドは引き続き96%強と高いシェアを占めています。
一方で、低価格を掲げて2017年に参入した中国ブランドのウーリンが、前年に比べてシェアを0.7ポイント伸ばし日産を超える2.2%を占めるなど、市場では変化も見られます。

昨年の自動車販売が不調だった理由の1つとして、4月に大統領選挙が行なわれたことが挙げられます。
選挙後には回復すると思われていましたが、中国に勢いがなくなったことがマイナスにつながりました。
インドネシアの経済は資源価格に左右されてしまうため、中国が不況になるとそれに引っ張られて景気が悪くなる傾向があります。

昨年のGDP成長率は5%を保ちましたが、自動車業界にとっては6%ないと成長を維持することが難しいとされ、かなりギリギリのラインといえるでしょう。
人件費も高騰し、毎年8%以上は上がっています。
政府が2015年に最低賃金の算出方式を公式化して発表したため、それを基準に必然的に上がっていくようになりました。
 

中国系メーカーの進出で価格の安さが大きなポイントに

昨今のインドネシア自動車業界で注目されているのが、中国系自動車メーカーのウーリンとソコニンドです。
両社とも2017年に自動車組立工場の稼働を開始し、特にウーリンは順調に販売台数を伸ばしています。
まだシェアは小さいものの、両社ともディーラー網を整備しつつ、消費者へのアプローチを着実に進めています。

インドネシアで中国系自動車に人気が集まり始めた理由は、車型が大きい車であっても日系自動車などに比べて価格が30%ほど安いからです。

こういった市場の動きもあり、日系をはじめインドネシアに拠点を持つ自動車メーカーは、部品を現地調達することで販売価格を下げたいと考えています。
当然ながら、現地に拠点を持たない部品メーカーは厳しい状況になっているのが現状です。

インドネシアに拠点を置く自動車メーカーにとっては、日本に開発拠点があって品質管理を行い、日本やタイですでに自動車メーカーと取引をしていて、インドネシアに拠点となる工場を持っている、と三拍子そろったサプライヤーが理想的です。
品質が保証されていてコストが安いという点で、このパターンを実現できる取引先がベストといわれています。

また、部品や機械が高度になったり複雑になったりすればするほど、部品メーカーには技術力が求められ、図面を描くことも含めての依頼となります。
対応できる技術力が必要となり、責任は重くなるものの、高度な技術を持つ部品メーカーにはビジネスチャンスがあるといえるでしょう。


 

進出に踏み切るには長期を見据えた計画が必要

2億6,000万人もの人口を抱えるインドネシアは技能実習生を送り出せるほど人材が余っている状態で、政府も人材育成に力を入れています。昨年は、ハーバード大学で学んだこともある、ベンチャー企業Gojek Indonesiaの30代の共同創立者(Co-Founder)Nadiem Makarimが教育省の大臣に抜擢されており、今後も優秀な人材を育成・活用していく可能性があります。

日本は深刻な人手不足でモノづくりは厳しい状況であり、市場も縮小しています。
どの業界でも成長するには海外進出を狙うしかないという動きが加速していますが、自動車部品メーカーに関していえばインドネシアは簡単ではありません。

確かに人口は増えているうえ、タイやマレーシアに比べて自動車普及率はまだ低いため、自動車マーケットの伸びしろが大きいことは事実です。
ただ、現在稼働している部品メーカーはすでに日本で自動車メーカーと取引していたというケースが多く、メーカーに頼まれて進出してきたという経緯があります。

従ってこれからの新たな進出については、3年など短期での回収を目指すのではなく、10年、20年先を見据えての進出を想定する必要があるでしょう。
 

政府は電気自動車の普及を促進するも充電スポット整備には遅れも

インドネシア政府は電気自動車(EV)の促進に関する政令を2019年8月に発表し、アジアのEV製造拠点を目指す考えを示しました。
2025年までには生産台数の20%をEVにするという計画で、EV製造への動きが加速するとみられています。

さらにEVの普及を後押しするために、自動車にかけられていた「ぜいたく税」を改正する政令を2019年10月に公布し、CO2排出量を基準に税率を決めることにしました。
来年10月の施行から、バッテリー電気自動車や燃料電池自動車などEVについては税率を「実質0%」とする優遇措置を導入します。
ただ、部品などの優遇税制に関してはまだ細則が決まっていないため、自動車業界では様子見状態が続いています。

EVになればトランスミッションやエンジン周りの部品は不要となり、内装やパネル、ホイール、タイヤなどしか需要がなくなってしまう可能性があります。
国を挙げてのEV推進政策は、部品メーカーにも大きな影響を及ぼすと考えられます。

韓国自動車メーカーのヒュンダイは、エンジン自動車の組み立て工場をインドネシアにつくる予定を変更。
CKD方式を採用して部品をベトナムに運び、現地の工場で組み立てることになりました。
インドネシアではEVへのシフトが進むとの判断とみられ、長期で考えるとエンジン自動車部品への投資は難しくなっているといえるでしょう。

ただ、政府のEV推進計画にはやや性急な面があるのも事実で、インドネシアはこれからハイブリッド車が入ってくる段階にあります。
さらに、EV推進政策が予定通り運ぶかどうかのカギとなる充電スポットの整備についても、あまり進んでいません。
まだ10年程度は、エンジン自動車部品マーケットは成長が見込めそうです。
 

中小部品メーカーは「ティア1」へのアプローチを視野に

インドネシアには多くの自動車メーカーが進出しているため、日本で取引があるのであれば、まずはそのメーカーへのアプローチが早道です。
ただし、すでに日系自動車メーカーと取引があり、依頼を受けて現地参入した部品メーカーが多いことも知っておいてください。

自動車メーカーに直接部品を供給する「ティア1」と呼ばれる現地の一次請け部品メーカーに、二次請けの「ティア2」として入り込むのも手法の1つです。
ここ10年ほどはそのような動きが目立ち、新たに進出する部品メーカーは「ティア2」としてビジネスをしていくフェーズに移りつつあるともいえます。

もし、日本で取引がなかった自動車メーカーを開拓するのであれば、飛び込みで日本人の購買担当者を紹介してもらうのも1つの手です。
日系メーカーではトヨタやホンダ、三菱、ダイハツ、日野、いすゞなどが現地で部品組み立てを手がけているため、アプローチできる可能性はあります。
中国系の上海GMは部品メーカーも巻き込んで進出しており、韓国系のヒュンダイはまだ組立工場しかないため、営業先はどうしても日系メーカーになります。

可能であれば、日本の設計部門から紹介を受け、現地の設計部門や設計担当者につないでもらうと効果が高いでしょう。
ある部品を導入するかどうかの決裁権は設計者が持っていることが多く、キーマンである彼らに部品の機能が優れていることを知ってもらえばチャンスがあります。
 

大きな潜在力を持つアフターマーケット進出にはネットワークを活用

成長への大きな潜在力を持っている市場として、アフターマーケットにも注目が集まっています。
整備工場や修理工場、中古車ディーラーにおけるメンテナンス需要は増加傾向にあり、近年では見本市も開かれるなど一定規模の市場が形成されているのです。
インドネシアのアフターマーケットでは、かなり高価格でも部品が売れるといわれています。

インドネシアでは10~20年、またはそれ以上使っているようなかなり古い自動車がたくさん走っていて、人々はメンテナンスしながら乗っているのが現状です。
彼らはアリババのようなネットマーケットプレイスは利用せず、街の修理工場などで部品を購入したり修理したりすることが多いといわれています。

ただし、アフターマーケットで部品を売るには、“華人”など現地のキーマンを経由することが重要です。
インドネシア人は価格にシビアで、どんなに品質がよくても安価な方を選ぶケースが多いので、華人が経営する会社を通して「高いけれどこの部品がよい」と薦めてもらうことが必要となります。

華人頼み以外でアフターマーケットに行き着く方法としては、やはり現地のネットワークを開拓するのが早道です。
部品商に直接会いに行きどこから仕入れているのかを聞くとか、地元の有力者に紹介してもらうとか、現地に古くから住む日本人でリタイアしている人に尋ねるなどの手法が挙げられます。

一見すると、昔ながらの泥臭い営業のようですが、現地ではかなり有望なやり方だとされています。
日本人は新車の営業には力を入れるものの、アフターマーケットの営業についてはあまり力を入れていない傾向があり、中小部品メーカーにとっては思わぬビジネスチャンスがあるかもしれません。
 

アフターマーケット専門展示会への出展も選択肢のひとつ

展示会については、新車の自動車部品市場はすでにある程度既存企業で埋まってしまっているため、なかなか難しいのが現状といえます。
むしろ、シェアを持つティア1への直接営業の方が功を奏するようです。

一方、アフターマーケットの展示会については、今からでも十分活用の価値がありそうです。
昨年9月にはジャカルタでインドネシア改造・アフターマーケット協会(NMAA)主催の「インドネシア・改造エキスポ(IMX)2019」が開催され、約120ブランドの自動車アフターマーケット関連企業が参加しました。
前回に続く2回目の開催であり、初回の成約額を30%近く上回ったと現地で報道されています。
当日は多くの現地部品商が出入りするため、出展するのも選択肢の1つといえるでしょう。

【参考】 IMX2020公式サイト
 

進出が決まればレンタル工場の活用も

進出準備では、まずは実現可能な事業かどうかを多角的に調査・分析するフィージビリティスタディを日本で念入りに行うべきでしょう。
その後はプロセスの第一段階として、日本で取り引きしている自動車関連メーカーのつてを利用し、インドネシアにいるメーカーの担当者に話を聞くことをおすすめします。
数回は現地に足を運び、ビジネス概況やマーケットについてヒアリング調査を進めましょう。

現地進出が決まったら、第二段階のモノづくりへと進みますが、工場を建てる前にレンタル工場を借りるのもよいかもしれません。
すぐ作業に入りたいならば設備なども搬入してしまい、工場が完成するまで1年程度稼働させるのも選択肢のひとつです。
自社工場が即稼働できるように機械を入れてしまうため、お試しレベルではなく、本格的に進出が決まってからの話となります。

工場を立ち上げるには取引先メーカーに近い場所が前提ですが、ジャカルタ近郊はどうしても人件費が高めになってしまいます。
ジャカルタで月に約3万6,000円程度かかる人件費は郊外なら1万円以上も安くなり、かなりの差があります。
昨今は高速道路が発達し、交通も便利になったため、人件費が低い郊外も検討の余地はあります。

工場を建設する際の会社選びはとても重要なポイントなので、しっかり考えて決めてください。
考慮に入れておきたいのは、費用と工期のバランスです。
日系の建設会社は工期を守りますが費用が高く、現地の建設会社は費用が安くても工期が遅れてしまう傾向にあります。
 

現地従業員に配慮した言動を!人事面で覚えておきたいコツ

インドネシアで陥りやすい失敗事例として、人事のトラブルが挙げられます。
よくあるのが、日本人の上司としては、現地従業員を指導したつもりでいても、相手の自尊心を傷つけるような言動によって大きな反発を招くようなパターンです。

普段は温和なインドネシアの人も、たとえばペナルティを与えられたりすると激しく怒り、本人だけでなく他の従業員も同調して騒ぎが大きくなってしまいます。
もともと現地は「FSPMI(金属労協)」などの労働組合が強いこともあり、注意が必要です。
定規で従業員の手のひらを叩いた日本人駐在員が彼らの怒りを買ってしまい、任期途中で解任され、帰国させられたというケースなども過去にありました。

また、東南アジア各国でよくあるように、インドネシアでもリベートや裏金といった慣習がまかり通っているといいます。
現地で採用したマネージャーがお金を持ち逃げすることもあります。
「そのポジションに就いたこと自体が幸運」と考えるものもおり、悪事だという意識が薄いともいわれています。

こういった慣習的な問題によるトラブルは、現地のどこの企業でも見られるようです。
現地の従業員とうまくやっていくコツは、日本企業のコンプライアンスには反するものの、あまりガチガチに管理しないことだとされています。
中には、真面目な従業員を選んで裏金用の特別口座を作らせ、そこに振り込んでもらったお金を現地従業員に配分するという手法をとっている会社もあるそうです。


さて、現地企業の現役役員にお聞きした話をまとめてきました。
なんと言ってもインドネシア自動車製造業界に進出する際の最大の強みは、「日系車天国である」ということなのかもしれません。
信用力が大きいため現地での情報収集が比較的有利なのに加え、キーマンを探して接触する場合にもプラスに働くと思います。
まずは日本できっちりとフィージビリティスタディを実施し、進出の可能性を探ってみてください。


<影山稔人さんプロフィール>
自動車部品の国内上場企業に勤務後、2006年にインドネシアに赴任。鋳物工場の立ち上げからかかわり、2016年まで工場長として運営に携わる。その後、インドネシア最大の自動車部品メーカー、アストラオートパーツのグループ企業に転職。現在は現地の財閥系自動車部品会社で副社長を務める。
 

【参考サイト】

2019年のインドネシアの自動車販売台数

SGMW Motor Indonesia(ウーリン)について

 

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