元総合商社駐在員が語る!ベトナム製造業進出で押さえておきたい現地「生」知識

【2020年3月23日】公開

2019年時点で、日本から約1, 800社が進出しているベトナムは、2018年の実質GDP成長率が過去10年間で最高の7.1%と伸び、今後も高い経済成長が見込まれています。
年間約150万人の人口増が続く勢いがある国で、労働人口割合の高さや生産力の強さなどにより、ビジネスでも注目を集めています。
なかでも自動車産業においては、各国の自動車メーカーが現地法人を設立し、ベトナム政府も市場の拡大を推進しています。

今回は、総合商社の駐在員としてベトナム自動車業界に長く身を置き、深い知見を持つ石川毅志さんお聞きしたした内容をもとに、ベトナムにおける自動車産業の歴史から未来予測、現地におけるBtoB展開のコツなどをご紹介します。

ベトナムでの自動車関連製造業のビジネス

ベトナムをはじめとする東南アジア諸国は、近年とくに自動車製造業が力を入れているエリアであり、日系自動車メーカーのシェアが高いことでも知られています。
ベトナムにおいては、日系自動車メーカー各社が、現地に総代理店となるディストリビューターを立ち上げ、日本や中国から自動車の生産部品を調達して新車を生産(組み立て)しています。
自動車の販売では、新車の販売のみでは限界があるため、修理やメインテナンス、補給部品の販売なども手がけるなど、いわゆる「アフターセールス」で儲けを出すビジネスモデルが一般的です。

「アフターセールス」の販売先は基本的にディストリビューター傘下のディーラーですが、ベトナムの大企業やグローバルカンパニーなど広域で展開する法人も対象となります。
また、このような新規顧客の開拓によってさらにビジネスを拡大できる余地があるのもベトナムの魅力です。
 

2006年にベトナムの自動車産業に転機が訪れた

日系企業のベトナム進出は1990年頃からで、大手商社によって日系企業向けの工業団地建設が始まりました。
トヨタ、マツダ、日産、いすゞ、スズキなど日系自動車メーカーの本格的なベトナム進出は、1990年代半ば頃に集中しています。

2000年代になると自動車が次第に普及します、おもに日本から輸入した中古車が市場の主役でした。
個人はもちろん、現地の法人にも新車を購入するだけの経済的余力がまだなかったからです。

ところが、2006年に「中古車輸入規制」が導入され、海外で新車として販売されてから5年が経過した車はベトナムに輸入できなくなりました。
これが契機となり、ベトナムの自動車業界は新車市場へと切り変わらざるを得なくなったのです。

新車市場の拡大に伴い業績を伸ばしたのが、ベトナム大手ディストリビューターであるTHACOです。
それまでは中古車を多く扱っていましたが、規制が導入されたのを機に新車販売に着手しました。
現在、同社はマツダやKIA、ブジョーといった海外ブランドを抱えており、中国や韓国から調達したコンポーネントの輸入・組み立ても手がけています。
 

インフレによる経済引き締めの苦境後、2014年にあらたな転機

こうして新車市場が立ち上がったものの、8,000万人近い当時の人口にもかかわらず、需要はまだ物足りないレベルでした。
次第に販売台数は増加しましたが、ベトナム国内での年間販売台数がおよそ15万台になった2010年にインフレに陥り、国の経済全体がいったん、引き締められることになりました。
その結果、2012年には年間販売台数が約8万台まで下落するなど、自動車業界にとって厳しい状況が続きました。

その後、ベトナム国内の景気は徐々に回復し、為替が安定したこともあって販売数は増えていきました。
ただ、中心はあくまでトラックなどの商用車でした。

そのころのベトナムでは、トラックの最大積載量以上に貨物を積み込む過積載が横行していました。
4トン車に10トン以上積むようなことも日常的に行なわれていました。
しかし、2014年にトラックの「過積載取締強化規制」が導入されてルールが厳格化されたため、たくさん積める10トン車の購入や、4トン用トラックなら複数台の購入が必要となったのです。

このように政府の規制によって、必要な積載量の車を購入せざるを得なくなり、商用車の販売台数は飛躍的に伸長。
個人向け乗用車の需要が増えたこともあって販売台数は右肩上がりに成長し続け、2016年には前年比24.3%増の30万台超とピークを迎えました。
2017年には同10.4%減の約27万台と減少したものの、2018年は同5.8%増の約29万台と増えています。
 

2035年まで続く“人口ボーナス期”が経済成長に貢献、生産数150万台の予測も

今後も販売台数の拡大が見込まれているベトナム。
その大きな理由は人口増加です。
ベトナムの人口は年に約150万人ずつ増えていて、近い将来1億人の大台が予測されています。
着目すべきは平均年齢が29歳と若く生産年齢人口が多いことで、こういった“人口ボーナス期”が2035年まで続くとの試算から大幅な経済成長が期待できます。

また、ベトナムでは2019年に約30万台の自動車が販売されていますが、近隣のインドネシアでは人口2億7,000万人で約130万台、タイでは人口6,000万人で約100万台と大きなボリュームとなっています。
このような近隣諸国の状況を踏まえると、ベトナムの人口レベルでは近い将来に約50~60万台と現在の約2倍に増えるという予測もできます。

これからは、二輪のバイクから四輪自動車への乗り換えなど個人需要に期待がかかります。
個人ではトヨタのヤリスのようなコンパクトタイプの人気が高く、世界的に売れ筋のSUVタイプにも注目が集まっています。
その他、将来の市場動向としては、電気自動車の開発も進めているビンファスト(ベトナムの国産自動車メーカー)の新たな動きも気になるところです。

ベトナム政府は2035年の国内生産台数を150万台と見積もり、国内需要の80%を国産車でカバーするという政策を掲げています。
主要産業と位置づけた自動車業界でTHACOやビンファストなど、ベトナム発の自動車関連企業の育成を目指す政府が、助成面や法律の見直しにどう着手していくのかも、日系の自動車メーカーや部品メーカーにとって常時ウォッチすべき重要ポイントと考えられます。



さて、ここからは、調達や販路開拓、行政の動きなど、ベトナムの自動車製造業を取り巻く各種事情についてまとめます。
 

輸入規制など業界を大きく変える法律改正は要注意

自動車業界の細かい法律については参入してから学んでも遅くはありませんが、どのような車にどういった税制がかかるのか、あるいは輸入規制などの基本的な知識は事前に持っておいた方がいいでしょう。
先に触れた2006年の「中古車輸入規制」や2014年にトラックにかけられた「過積載取締強化規制」など、業界の動きを大きく変えてしまう規制がベトナムでは過去に何度かかかったことがあるためです。

なかには、2017年に発令された「政令116」のように、外資系メーカーに大きな衝撃を与えた規制もあります。
この規制は、車のテストを行なうために全長800メートル以上のテストドライブコースをベトナム内に設けなければ完成車は輸入できないなど、厳しい条件を課すものでした。
日本も含め、外資メーカーは新たに土地を手配し、コースを作るといった大きな投資を行い、ようやく完成車の輸入にこぎつけたという経緯があります。

法改正を事前察知するには、ベトナム自動車産業を牽引する国内メーカーTHACOの動きをよく見ておくのがひとつの方法だという見方もあります。
ベトナム国内で強い販売力と大きな製造力を持つTHACOと逆の動きをすることは、控えた方が賢明といえるでしょう。
 

品質の担保と小ロット対応が可能なら中小部品メーカーにもチャンスが

ベトナムはタイやインドネシアと違って自動車部品の裾野産業が育っておらず、部品の現地調達が難しいのが現状です。
ベトナムにも日系の大手部品メーカーはあるのですが、ベトナムで作った部品はいったん日本などに輸出され、ベトナムの自動車メーカーはその部品を日本からわざわざ逆輸入して使っています。
取引ボリュームの問題があり、ベトナム国内の大手部品メーカーからの直接購買は進んでいないのが現状です。

実際に、日系や欧州、ベトナムのいずれの自動車メーカーも、ベトナム国内から部品を調達しているメーカーはほとんどなく、タイヤやバッテリー程度にとどまっています。
ベトナムの部品メーカーは実績がなく、調達ソースの議題にのぼることは少ないのです。
もし、日本国内で自動車メーカーに部品を納めている実績を持つなど品質が担保されていて、ベトナム国内の自動車メーカーに小ロットで販売できるのであれば、中小の部品メーカーにもビジネスチャンスがあるといえるでしょう。

日系メーカーはどの企業もタイなどにマザー工場を保有し、そこから部品調達することもできます。
しかし、欧州メーカーは日本ほど東南アジアでのネットワークが強固ではないと考えられるため、調達ネットワークを調査し、入り込む余地があるかどうか検討するという手もあるでしょう。
 

販路開拓は現地駐在員へのアプローチが早道

現地でハードルが高いのは販路開拓です。
自動車メーカーにもよるものの、工場長や調達担当者とコネクションを持ち、直接、現地工場が抱える問題を聞くのが近道でしょう。

コンタクト先を探すにあたり、ベトナム日本商工会議所を活用して情報を収集できます。
ベトナム日本商工会議所には自動車関係の工業部会をはじめ、そのほかにも貿易部会などたくさんの分科会があり、会費を払えば複数の部会に参加できます。
所属メンバーは企業の役員クラスの人たちなので、人脈を作るチャンスがあります。

また、ベトナムはソーシャルメディアが盛んで、ベトナムの自動車メーカーは人材採用などにもひんぱんにFacebookを利用しています。
ベトナムメーカーに販路開拓でアプローチするには、Facebookでグループを探したうえでキーマンを見つけてコンタクトする手法も有望です。
また、もしアポイントがとれたら自ら直接出向くことをおすすめします。
日本人駐在員がわざわざ来てくれたということで好意的に接してもらえるケースが多いそうです。

販路開拓する際には、そのメーカーが自動車をベトナムで組み立てているのか、完成車を輸入しているのかを事前に調べておくことが基本です。
例えばメルセデスやGM、フォードなどは現地組み立てなので販路開拓できますが、BMWなどは完成車を扱っているのでアプローチは厳しいでしょう。

どの国のメーカーも、ほとんどベトナム国内では部品調達をしておらず、新たな調達ルートも開拓していないのが現状のようです。
そのため、品質を担保していることや小ロットでの納入が可能なこと、輸入による調達に比べてコストが大幅に下がることを現地のキーマンにアピールするのは有効と言えます。
興味を持ってもらえれば、本社に提案したうえでテストしてもらえるようになり、品質基準を満たしていれば、採用につながる可能性があります。



では、ここからはベトナムに進出するにあたり、ポイントとなるパートナーづくりと労務関連についてまとめます。
 

進出前にJETROや商工会議所などで情報収集や人脈づくり

まず、自動車関連企業が現地に進出する場合、考えられる基本的なステップは次のようになります。

最も重要なのは、どの都市に進出するのか、という点です。ベトナムであればホーチミンかハノイが考えられます。
気候や住環境、24時間営業が可能などの面を加味すると、ホーチミンが良さそうに見えますが、最大の判断基準は取引を予定する自動車メーカーの工場があるかどうかです。
例えば、スズキ、いすゞ、三菱とのつながりが強いのであればホーチミンに、トヨタ、ホンダ、日野ならばハノイにというように、取引メーカーの工場がある場所が決め手となります。マツダと日産は中部に製造工場があります。

次のステップとしては、各地のJETROなどで情報収集をすることです。
本格的な事業開始まで1年程度の期間をとれるのであれば、最初に事務所を置くのはマンションの1室でも問題ありません。
そこを情報収集拠点として、JETROや商工会議所、業界団体のベトナム自動車工業会(VAMA)などにアプローチしてヒアリングや調査、人脈づくりに着手してください。

VAMAは日系の自動車メーカーを中心に構成されていて、欧州や米国のメーカーやベトナムメーカーのTHACOも加盟しています。
政策や政府の動きを早めに聞けたり、自動車関連の政策を提言・陳情したりと、業界が団結して行動を起こせるメリットがあるため、VAMAの動きを入手できるような関係性を構築することが肝要です。

業界全体で動くというメリットでいえば、展示会に出店するのも1つの手といえるでしょう。
展示会への出展を検討する際には、JETROや日本商工会議所に相談すればアドバイスしてもらえます。
これら団体が日系企業を集めたパビリオン出展をしたり、部品メーカーが一丸となって展示会を開いたりというケースもあるので、試験的な位置づけとしてまずは参加してみることをおすすめします。
 

スムーズな会社運営には現地パートナーの協力が必須

現地に部品工場を作るのであれば、その後は事務所でなく会社の設立が必要です。
法律を調べたり情報収集を行ったり、現地でライセンスを取るための条件や手続きを徹底的に確認するなど、法人化に向けた基礎的な業務を行います。

さらにベトナムでの会社設立や工場経営に欠かせないのが、現地パートナーの協力です。
現地の役所・行政などとパイプを持つパートナーを探して、合弁会社を設立することが重要です。
ベトナムでは言葉だけでなく契約に関する感覚や商習慣も異なるため、パートナーの協力を得られれば交渉も進めやすくなります。

パートナー探しは上述のJETROなどにも相談できると思いますが、現地の商社や銀行に相談に乗ってもらい、どのような候補がいるのかをヒアリングしてもよいと思います。
仲介まではしてもらえず、最終的には直接アプローチをする必要がありますが、日本や海外でブランドや実績があれば門前払いはされないでしょう。

製造業のパートナーとしては不動産業者やたくさんの土地を保有する地主、財閥などが中心です。
彼らは有望と判断すれば複数の企業に投資します。
政府系資本が入っている会社などは経済合理性以外の要因で経営・投資判断がなされることもあり、そこにやりづらさを感じるのであれば、民間資本パートナーとの提携を優先したほうがよいでしょう。

パートナーの資本を入れて合弁会社を立ち上げるわけですが、ベトナムの法律では75%が賛成すれば大事な議決は決まるので、出資比率を決める際のガイドラインとして意識しておくべきでしょう。
 

ベトナム独自の商習慣を知り、円滑な組織運営を

現地で従業員を雇用し会社を運営していくにあたり、現地ならではの重要なポイントを2つご紹介します。

1つは、業務や権限を現地従業員の中の1人に任せすぎないことです。
トップである日本人駐在員はだいたい3~5年で異動して入れ替わるため、長く会社にいるベトナム人が番頭的な存在となり、権力がそこに集中することになりがちです。
この場合、この番頭をスキップして何か聞いても誰も口を開かず、番頭なしにコミュニケーションが成り立たなくなるリスクがあります。
結果として、番頭本人が退職などでいなくなった場合、会社や工場が回らなくなる事態が想定されます。

特にベトナムでは転職を繰り返すジョブホップ傾向が強いこともあるので、たとえ古株でも業務や権力が1人に偏りすぎないような組織作りが求められます。
日本人の従業員と同様に、ローテーションしながら扱うのが得策といえます。

さらに、会社組織の序列としての一般的なヒエラルキーとは違う、ベトナム人従業員内でのヒエラルキーが存在することも念頭においた方が良いでしょう。
ここでも、頭ごなしに社内序列を押し通すより、ベトナム人従業員同士の関係を理解して、会社が回りやすいように上手く使ったりすることが賢明とされています。

もう1つの重要ポイントは、ベトナム人は真面目で日本好きが多いので、その利点を大切にすることです。
ベトナムではジョブホップが多いため、従業員の定着率が低いことも課題となっています。
給料の金額で勝負となれば日本企業は欧米企業に勝つことはできませんが、従業員を大切にして人間関係を作り上げれば定着率アップにつながります。

従業員との関係性を軽視してしまうと、人を大切にしないという噂が立ってしまう可能性もあるので注意が必要です。
日系自動車業界は広くないため、パワハラなどの悪い噂が広がると従業員に逃げられたり、仕事に影響が生じたりということにもなりかねません。
 

月1回は法律や規制を確認するチェック会議を開きリスクを回避

最後になりますが、これまでも繰り返し指摘してきたように、政府の方針や法制面を常にチェックしておくことが重要です。
法律が急に変わった場合には、半年から1年くらいにわたって生産や販売に穴があいてしまうリスクがあるからです。

法制面で遅れをとらないためには社内で毎月定期的に法制チェック会議を開き、自社の生産・販売状況にかかわる規制の動きがないかを確認することが不可欠です。
JETROや商工会議所、VAMAからの情報収集も欠かさないようにし、現地の自動車メーカーの動きにも留意してください。



さて、これまでレポートしてきたように、自動車関連製造業でアジア進出を考えたときに、ベトナムは今、東南アジアで一番の伸びが期待できるようです。
中でも単品のモノ作りはとても有望で、自動車関連部品メーカーにとっては最も注目すべき国といえるでしょう。


<石川毅志氏プロフィール>
common株式会社 代表取締役CEO
総合商社の自動車部門在籍中に出資するベトナムのディストリビューターに出向し、販売部門やアフターセールス部門のGMとして約4年間業務に従事。ベトナム自動車業界・経済全般に深い知見を持つ。早稲田大学理工学部卒、米国公認会計士(アラスカ州)。


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