元駐在員に聞く!中小部品メーカーはインドネシアの自動車業界でどう戦うべきか? | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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元駐在員に聞く!中小部品メーカーはインドネシアの自動車業界でどう戦うべきか?

【2020年4月30日】公開


インドネシアの自動車製造業におけるビジネス概況

市場のほとんどを日系メーカーが占めるインドネシアの自動車業界は、日本のブランド力が強いため、ビジネスがしやすい環境にあるといえます。
実質GDP成長率には伸び悩みも見られますが、2億6,000万人もの人口を抱えており、今後15年間にわたり人口ボーナス期が続く有望市場とされています。
低価格を強みとした中国車メーカーもじわじわとシェアを伸ばすなか、進出を狙う企業には現状を把握するための情報収集力を養うことが求められています。
 
本記事では、自動車の電子制御部品メーカー在籍時にインドネシアでサプライヤー開拓などを手がけた安野準也氏に取材した内容をもとに、現地自動車業界の現状やニーズ、サプライヤー開拓、進出時の課題などについてレポートします。


まずは、インドネシア自動車製造業の状況や動きなどをみてみましょう。
 

現地マーケティングを通じた商品開発力が必須に

インドネシアの自動車業界は日系メーカーが強く品質の信頼性も高いため、日本の部品メーカーが進出する場合も、ビジネス環境は充分整っていると考えられます。
同じように日系メーカーが強いタイでは中国メーカーとの競争が激しくなっていますが、まだインドネシアではタイほどには至っていません。
 
10~20年前のインドネシアは車よりもバイクが中心でした。
車を購入する場合も、家族が多いこともあり7人乗りが主流、デザインや機能性ではなく、とにかくたくさんの人が乗れることが大前提でした。
 
ところが、所得が次第に上がって中流人口が増え、人々のライフスタイルが変わってくると、車のニーズにも変化が見られるようになりました。
相変わらず低価格は基本路線ではあるものの、デザインや機能も重視するように意識が変わってきたのです。
 
例えば、スマートフォンやSNSが大好きという国民性を背景に、最新技術とライフスタイルを連動させた製品づくりが求められるようになりました。
購入者である彼らのニーズを押さえることで、デザインや機能も大きく変わってきたのです。
 
車載用システムを提供する「ティア1」の立場であれば、現地でのマーケティングを強化してローカルニーズを押さえ、自動車メーカーに提案する能力が重要となります。
日本でのニーズとは異なるため、現地メーカーの商品開発部と密に連絡を取り合いながら部品を開発しているのが実態です。
 
このように、インドネシアでは何十年もの間、品質がよい車を安価でたくさん製造することを目的に発展してきましたが、現在はマーケティング力や商品開発力が必須となりました。
コンペでも価格だけでなく、現地で必要とされるデザインや機能に対応しているかどうかが求められています。
 

オペレーションやマネジメント面で力を発揮し付加価値を提供

インドネシアは日系メーカー車の天国といわれてはいるものの、やはり中国や韓国のメーカーの脅威を完全には否定できません。
たとえばタイでは、中国・上海汽車グループの自動車メーカーMGが、完全に若年層を狙ったデザインに特化した展開をしています。
品質などの総合力でいえば日本車の方が勝っていても、このような尖った訴求手法でインドネシアにも入ってこられると脅威となる可能性があります。
 
インドネシアでの「ティア1」については日系メーカーがメジャーではあるものの、「ティア2」や「ティア3」になると韓国系や現地インドネシアのメーカーも相当数存在します。
日本の中小部品メーカーが現地進出するのであれば、こういった日系以外の既存メーカーとの競争も意識しておく必要があります。
 
韓国系や現地インドネシアの部品メーカーは実力もついてきており、購買する側にしてみれば同じ品質で価格が安ければそちらを選んでしまいます。
価格を下げにくい日系部品メーカーにとっては脅威であり、価格勝負にならないようにプラスアルファとなる付加価値をどのように付けるかということが勝負の分かれ目となりそうです。
 
ここでいう付加価値というのは、技術力や品質に限ったことではありません。
進出したばかりでも、工場の設備さえそろっていれば、加工などはある程度のレベルまでできる可能性はあります。
 
大切なのは、それ以外のオペレーションや在庫の管理、納入時期といった運用部分。
在庫を抱えずいかに効率的に回転させるかということに加え、納入先の顧客が必要な時に必要な量だけを届けるなど、顧客の負担にならないように事業を回していくことが肝となります。
 
顧客ファーストを優先させた場合、ロットで納入できなかったり納入時期が変わったりすることもあり、自社のコスト増につながるかもしれません。
ただ、現地スタッフやマネージャーを中心としたオペレーション力やマネジメント力を発揮して乗り越えることができれば、製品づくり以外の差別化策として勝ち目が見えてきそうです。
 

インドネシアの国内需要を見込んだ進出は中小部品メーカーにも勝機が

中小部品メーカーが進出した際の競争は他の国や地域と同様に厳しいと思われますが、成功の可否は販売の目的によって変わります。
もし、輸出ベースのビジネスモデルを考えているのであれば、難しいかもしれません。
インドネシアでは輸出入のレギュレーションが頻繁に変わったり、タイなどに比べると港の通関機能も安定していなかったりなど、さまざまなリスクがあるからです。
 
一方、人口が多く自動車の保有率がまだ低いインドネシアでは、今後の内需が十分に期待できることから、国内需要を見込んでの進出であればおすすめできます。
収入増やライフスタイルの変化により、バイクや旧型ファミリーカーに乗っていた若年層や中間所得層の購買意欲が高まっているため、これらの層を内需のボリュームゾーンとして狙えそうです。
 
インドネシアにはすでに日系の「ティア1」がしっかり進出していて、そこに紐付くサプライチェーンもやはり日系メーカーが中心となっています。
中小の部品メーカーが進出するのであれば、「ティア1」も含めた日系企業にアプローチし、最終的には現地のトヨタやホンダで生産される車を狙っていけば可能性はありそうです。
ここで勝つためには、既存の競合メーカーと同じような部品では差別化が図れないため、何らかの付加価値を提供することがポイントです。

 

サプライヤー開拓方法のヒント

さて、ここからは、安野さんの主要業務であったサプライヤー開拓について、お聞きした話をまとめていきましょう。
インドネシアには日系だけでなく、韓国系や中国系、地元ローカル系など、さまざまな部品メーカーが存在しています。
技術力では確実に日系メーカーが勝るものの、購買の側面から考えると、コスト面でのプレッシャーも無視できません。
財務調査も含め、現地ではどのように調達先となるサプライヤーの開拓を行っているのでしょうか。
 

日系の部品商社を通じたサプライヤー開拓が効率的

インドネシアで部品を供給してくれるサプライヤーを開拓する場合、まずは部品メーカーに材料を納入している日系の材料商社へのアプローチが早道です。
例えばプラスチックの成形品だったら、その原材料を販売している商社を探し、「こういうものを作りたいが、そのための部品を作れるメーカーはあるか」と尋ねて何社かに絞り込んでもらうのです。
 
Webを使って探すこともできますが、Web上の情報だけではそのメーカーが実際にはどこまで作れるのかは判断できません。
また、Webの情報を頼りに実際に訪ねたとしても、期待外れの場合も少なくありません。
 
そのため、客先情報を持っている材料商社に相談することで、ある程度絞り込んでスクリーニングをかけてもらえると良いでしょう。
相手先メーカーがどのような設備を持ち、どの程度の規模感なのかもわかるため、自分たちでゼロから調べるよりもかなり効率的というメリットがあります。
 
日系商社の材料販売先は日系のサプライヤーに限ったことではなく、韓国やインドネシアローカルもあります。
日系、韓国、インドネシアなど各国サプライヤーの選び方や付き合い方に関しては大きな違いはないそうですが、相手が中小企業であれば、まず経営者に会って信頼できる人物かどうかを見極めることが大切とされています。
日系以外の企業経営者とはあまり言葉が通じないこともあるものの、一緒にランチをしたりコミュニケーションをとったりしながら、信頼関係を築くことをおすすめします。
 

重要な部品の買い付けはやはり技術力が高い日系メーカーで

ただ、モノづくりについては、やはり日系メーカーの技術力が優れていて、一日の長があるのは明らかです。
部品を買い付けする際には、相手先のメーカーの力量によって品目を分けて発注する場合も多くあります。
車の制御装置のように事故につながりかねないような重要な品目については、やはり日系メーカーが選ばれやすい傾向にあります。
 
部品を購買する立場にある場合、社内において常に価格のプレッシャーがあります。
ただ、部品によってはあまり価格を重視しすぎると品質面で失敗しかねないため、きちんとした軸を持って買い付けすることが大切です。
品目の特性や重要性によって、この部品であれば多少高くても日系メーカーから仕入れた方がよい、というような判断が必要になります。
 
求められるレベルに達していなかった部品メーカーの中にも、その後新しい設備を導入したり、技術力が進歩したりで成長するメーカーもあります。
新たな購入先となる可能性もあるため、購買側は定期的に部品メーカーの状況の変化をウォッチし、アップデートしたと聞いたら出向いて確認することが大切です。
サプライヤー側の立場にある場合は、設備や技術をアップデートした際には顧客にアピールすることでチャンスをつかめるかもしれません。
 
事例としては多くはないですが、なかには“夜逃げ”してしまうような部品メーカーもあります。
しかし、信頼できるサプライヤーを見つけるために、その都度調査会社を利用するわけにもいきません。
中小の部品メーカーも多いということもあるため、たとえば取引前には過去3年間の財務諸表の開示を依頼し、開示してくれた企業だけに発注するなどの手法でリスクヘッジを行うのが得策でしょう。
 

新たに進出した日本の部品メーカーに求められることは?

日本から進出する部品メーカーの場合、技術力や工場の加工設備がそろっていれば、基本的にはビジネス自体に問題はなさそうです。
これらメーカーは、一般的に技術開発は日本で実施し、その加工設備をインドネシアに移転させるビジネスモデルを採用しているからです。
 
ただし、加工のスペックなどには問題はないものの、工場でのセッティングの仕方や、工程と工程の間の時間管理など、工場の流れとして見たときにはバラツキがあるようです。
金型のメンテナンスや何か問題が起きた際の修繕などに関しても、まだ現地での習熟度が低く、緻密性やノウハウが確立されていません。
難しい技術や工程を求められた場合はクリアできないこともあり、やはり品質実績や納入実績をきちんと確認したうえでないと、進出してすぐのサプライヤーは使いづらい面があるといわれています。
 
そのような中で、進出後にサプライヤーとして選んでもらうためには、日本の技術や加工設備をそのまま持っていけばよいというものではありません。
セッティングや工程管理など、実際の工場の流れをいかにスムーズにオペレーションできるかということに加え、緻密なメンテナンス能力の習熟度向上やノウハウを早期に蓄積する必要が出てくるでしょう。
 
 

労働争議問題と人材育成

さて、ここからは、事業を運営していくうえで最も重要な、人材確保と育成についてまとめていきます。
2035年まで人口ボーナスが続くとされ労働人口も豊富なインドネシア。
一方、国民性もあって、ジョブホッピングが盛んで従業員が定着しにくいという課題も抱えています。
事業を円滑に回していくためには現地スタッフの育成やエンゲージメント向上が不可欠なものの、国民性の違いもありなかなか難しいのが現実です。
労働争議も盛んなインドネシアにおいて、定着率をアップさせるような具体策はあるのでしょうか。
 

現地マネージャーを育成、責任あるポジションを任せることも大切

自動車部品工場をオペレーションしていくうえでよくある失敗として、トップである駐在員だけでなく、各部門のトップポジションを全部日本人にした事例が挙げられます。
日本人だけですべて回していこうとしても作業の細かな流れまでわかっていないことが多く、このような体制の工場は長くは続きません。
 
一方で、インドネシア人のマネージャーをきちんと育てて、重要なポジションに配置している工場は、うまくオペレーションができていて雰囲気もよいといいます。
日本人従業員も減らせるため、コストを抑えることにもつながります。
 
ただし、せっかく育成した人材に逃げられては元も子もありません。
インドネシア人は賃金条件のよい企業に転職することに抵抗がないので、ジョブホッピングを前提にしつつ、従業員のエンゲージメントや会社へのロイヤリティをいかに高めていくかがカギとなります。
 
うまくいっている事例の1つとして、従業員とのランチミーティングが挙げられます。
社長や工場長が毎週1回ほど従業員何人かとランチしコミュニケーションをとることで、従業員との距離をなるべく近づけるようにしているのです。
困っていることに耳を傾け、小さいことならすぐに対処するなどの気配りが大切です。
 
日本ではほとんど見られなくなりましたが、インドネシア人はその国民性から、社員旅行などの催しが好きです。
工場に社員旅行の写真が飾ってあることも多く、ロイヤリティ向上につながっている可能性があります。
ただし、催し事をする場合は行き先や企画は彼らに任せ、会社は予算だけ提供するのが望ましい形態です。
 

優秀な従業員は昇級などの手厚い待遇を

仕事についても、現地の従業員は日本人とは異なった発想やよい改善アイデアを持っていることも多く、業務の改善工夫に関する提案に耳を貸すことが大切です。
失敗することがあってもある程度任せておき、よい部分と悪い部分をフィードバックして、フォローしながら育成するようにします。
 
優秀な従業員を昇級させる報奨制度も必要になります。
その際、基本的な人事制度の制定は当然重要ですが、優秀な人がきちんと評価されるように、マネジメント側が個人の人事評価内容を細かく見て関わっていくことが大切です。
誤った評価にならないようにスタッフの日々の様子を理解し、自分自身の尺度を持って評価することが重要となります。
 
大事なのは実力がある人を昇級させることと、フェアに扱うことで、優秀な人材にコストをかけることは会社にとって得策だという意識を持つことです。
 
工業団地が多いため賃金の情報はすぐに広まってしまい、お金目当てに転職する人が多いのは事実です。
ただ、ある程度の賃金をもらい自分の仕事に誇りを持てるような役職に就くことができれば、10年以上定着する従業員もいます。
 

年々賃金が上昇しているマネージャークラスの人材

ジョブホッピングが前提である現地の採用では、ワーカーレベルの従業員ならば地元に住み、仕事場と住居が近い方が離職率は低くなる傾向にあります。
地元出身でない人は辞めやすいということもあり、なるべく地元住人を採用するのも1つの方法といえます。
ただ、工業団地に入っている場合は賃金情報がすぐ知れ渡るため、少しでも高い工場に移ってしまう可能性は常にあります。
 
優秀なマネージャークラスの人材採用にはそれなりの賃金を支払う必要があり、他の東南アジア諸国と同様に年々賃金が上がっています。
安くて有能な人材がいるとは思わない方が賢明といえるでしょう。
 
マネージャークラスの採用については、現地の人材紹介会社を通じるなどの一般的な方法に加え、自社で働く優秀な従業員が連れてくる知り合いを採用する方法もあります。
優秀な従業員が連れてくる知り合いもおおむね優秀な人が多く、おすすめの採用手法といえそうです。
 

ビジネス化している労働争議は現地の大きな課題

インドネシアの労務関係で注意したいのは組合などの労働争議です。
会社が増益になったから賃上げや昇級を求めるということではなく、「騒げば賃金は上がる」という概念で行動するのがインドネシア人。
 
会社により組合があるところとないところがありますが、組合がなくてもそれなりのグループは存在しています。
現地では工業団地を丸ごと仕切って、労働争議を扇動し、賃金アップをサポートすることで上がった分から報酬をもらうというビジネスまでもが成り立っています。
 
最近は労働運動を国が規制するようになり、やや収まってきたものの、以前はこういった激しい労働争議が日常的に行われていました。
毎年10%レベルの賃上げが何年も続き、日本企業もその対応で大変な状況でした。
 
ただ、賃上げ交渉もやり方次第という面もあるようで、なかには組合を作らせないという会社もあります。
日頃から従業員とコミュニケーションを重ね、個別に賃上げの話し合いには応じても、組織としては交渉させないという強い手法で対応しているそうです。
 
ジョブホッピングと労働争議が根付いているインドネシアの人事・労務トラブルは、進出を果たした日本の部品メーカーにとって重要な課題です。
特別な処方箋はありませんが、フェアな報奨制度や日々のコミュニケーションを心がけることが信頼関係の構築に役立ち、定着率アップにもつながるかもしれません。

 
<安野準也氏プロフィール>
車載用システムメーカーに長年在職し、インドネシアやタイ、シンガポールで自動車部品の購買活動に携わる。インドネシアでは日系・韓国系・インドネシア系サプライヤーの開拓や財務調査をはじめ、電子部品の商流戦略立案や自社工場での購買スタッフ育成などを手がけた。現在は1部上場の電子機器メーカーに勤務。


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