コロナ禍における外出制限や在宅勤務の推奨により、インドネシアでもデジタルツールを活用したリモートワークが浸透してきています。それに伴い、社内稟議における承認システムも紙ベースからデジタルベースに変わるなど、人々の働き方にもさまざまな変化が見られます。
そこで今回は、三菱商事の在インドネシア子会社で営業取締役として経営に携わってきた福本大悟氏への取材をもとに、インドネシアのビジネスにおけるデジタル活用の現状や人気のツール、リモートワークの問題点などについてリポートします。
インドネシアでは新型コロナの累計感染者数が200万人を超え、2021年6月時点でも首都ジャカルタで1日の新規感染者数が過去最多となるなど、東南アジア最大の感染被害を出しており、病床が逼迫した状態が続いています。インドネシア政府は規制の厳格化と緩和を繰り返しながら、感染防止と経済活動のバランスをとろうと苦慮しています。
2021年6月中旬時点では、企業に対しては「オフィスへの出勤は、感染ゾーン『赤』の県・市では25%まで、感染ゾーン『黄』及び『オレンジ』の県・市では50%まで」という出勤制限が求められています。これを受けて週2~3回オフィスに行き、あとは在宅勤務(Work From Home)という出勤体制をとる企業が多くなっています。社員を二つのグループに分けて、半分ずつ出社させるという企業もあります。
コロナ以前は現地スタッフなどの実務担当者にはノートパソコンが支給されずにデスクトップ型パソコンのみの支給だったのが、感染が拡大してからは全社員に一人一台ノートパソコンが支給され、自宅でも業務ができるような体制を取る企業が増えています。
以前はPolycomの電話・ビデオ会議システムを利用している企業が多く、これを社内のテレビにつないで国際会議などを実施するのが通常でしたが、このやり方では会議室に複数の人間が集まる形になるため、コロナ禍では使いにくくなりました。
そこで、最近はMicrosoft Teamsを使う企業が増えています。Teamsの会議ツールを使って社内会議や社外会議をしたり、チャットツールを使って打合せをするなど、自宅にいても支障なく仕事が進むようになってきました。Web会議サービスのZoomもよく使われており、インドネシアではこの二つがよく活用されるツールとなっています。また、社外とのやりとりでSlackを活用している事例もありますが、日本ほどは流行っていないようです。
社内稟議や決裁においては、以前は上司や役職者などの権限者から承認を得る際は紙ベースが基本で、必要書類に直接サインをするというのが一般的でした。しかし、コロナ禍でリモートワークの機会が増えたため、稟議・決裁の方法をEメールベースにしたり、独自の社内稟議システムを構築して電子決裁に切り替えたりして、出社しなくても業務が回るような仕組みへと移行する企業が増えています。
Microsoftのファイル共有・情報共有サービスSharePointを利用している企業もあります。たとえば、以前なら係長から課長、部長に回してサイン(署名)をもらってから発注というような流れだったものが、ワークフローシステムを使うことで、出社しなくても承認から発注までの作業をスムーズに行えるなど、格段に仕事がしやすくなっています。
一方で、インドネシアの人々のコミュニケーションは「古き良き昭和の時代」というイメージもあります。「○○さんに紹介されたから会いましょう」「○○さんの友人だから話を聞きますよ」というように、人と人とのつながりを大切にしており、実際に会って話をする、いわゆるface to faceのコミュニケーションを非常に重視します。
このコロナ禍でさらにWebツールも浸透し、打合せや交渉などもリモートで行われてはいますが、やはり最終的には会って最終協議・契約しましょうとか、ちょっとどこかで集まりましょうというように、昔ながらの人間臭いコミュニケーションを大事にする慣習は変わっていません。インドネシアでは比較的スムーズにリモートワークが浸透しましたが、その一方でこうした状況に大きなフラストレーションを感じている人も多いというのが実情です。
リモートワーク疲れも出てきています。リモートワークになってから会議が増えた、仕事時間が長くなった、忙しくなったと感じている人も多いようです。ただ、おおらかで明るい南国気質というのがインドネシアの国民性でもあるので、メンタル不調をきたすというような深刻なケースは稀です。
リモートワークだからサボってしまうということもあまりありません。というのも、そもそも日本人ほどひた向きに働くという国民性はなく、たとえば日系企業で現地スタッフを雇うときも、日本人なら「100」任せる業務量の場合、インドネシア人には「50」のみ任せるというように、仕事のペースがのんびりしていることを前提に体制・組織作りをせざるを得ないのです。もともとマイペースに働いているので、リモートワークでもそのままのペースで業務をこなしているというわけです。
インドネシア人の仕事を管理する際には、そうした国民性も理解しておかなければなりません。たとえば月曜日に「この資料、金曜日までに仕上げておいてください」と頼んで、木曜日頃に「あの資料、どのくらい進みましたか?」と聞いてみると、「え? 何の資料でしたっけ?」などということもあるのです。
ですから、インドネシア人に対しては相手のレベルに応じたマイクロマネジメントが有効です。定期的に、細かく進捗状況を確認し、「今日は10%しかできていないから、明日水曜日の確認打合せまでには40%ぐらいまで進めておいてください」「金曜日が締め切りだから、明日木曜日の確認打合せまでに90%まで仕上げられるように進めてください。その確認打合せで一緒に最終確認しましょう」などと具体的な指示を出しながら、自分でもしっかり細かく確認することが求められます。
リモートワークでは特に目の行き届かないところが出てきやすいので、こまめなチェックで仕事の抜け漏れを防ぐことが肝要で、それができればスムーズに業務が進むと思います。
<福本大悟氏プロフィール>
東京大学卒。経営学修士。
三菱商事株式会社にて自動車ビジネスの海外事業に従事。東南アジアの子会社取締役(史上最年少の営業取締役)等として経営に携わった後、リスクマネジメント部にて全社レベルの投資案件に従事。空飛ぶクルマのスタートアップにて事業開発シニアマネージャーとして事業戦略全般を担う。起業活動を経た後、モビリティ関連スタートアップ・ディノーボ株式会社(Dinnovo,Inc.)設立、代表取締役社長就任