タイ人とはまず食事!?タイで起業した日本人経営者が語る現地で組織を作る難しさ | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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タイ人とはまず食事!?タイで起業した日本人経営者が語る現地で組織を作る難しさ

クラウドサーバーにあるソフトウエアをインターネット経由で提供する「SaaS(Software as a Service)」市場は、IT業界をけん引するサービスとして世界各国で成長し続けています。ASEAN諸国のハブ的な場所に位置し、2021年の実質GDP成長率が1.6%増となったタイには、現在1,600社を超える日系企業が進出。そのうちIT企業は200社程度とされており、さまざまなSaaSスタートアップ企業も参入しています。 

本記事では、2012年にKDDIグループの業務でタイに赴任し、翌年に人材マッチングをはじめとしたサービスで起業するなど、タイでのSaaS運営経験もお持ちのTalentEx (Thailand) Co., Ltd.越陽二郎さんに取材した内容を紹介します。越さんがタイで手がけている事業内容をはじめ、現地で成功しているSaaS企業とその理由、起業体験を通じて見えてきたタイSaaS市場の課題や展望、進出を考えている日本企業へのアドバイスなどを語っていただきます。 

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<越 陽二郎さん プロフィール>
TalentEx (Thailand) Co., Ltd. 代表兼CEO
 

株式会社日本能率協会コンサルティングに入社し、アジアマーケティングチームの業務に従事。2011年に株式会社ノボットに入社後、KDDI子会社medibaへの売却に伴いタイ拠点立ち上げリーダーに就き、2013年に退社、同年にバンコクにてTalentExを創業。 (TalentEx公式サイト:https://talentex.co/ja/) 
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日本語を使えるタイ人に特化した人材マッチングサイトを展開

― 越さんはがタイで起業しようと思った理由や背景は何だったのでしょうか。 

越さん:
まずは自分が帰国子女だったという生い立ちもあり、日本とタイ現地をつなぐことで何か貢献できる仕事があるかもしれないと思いました。当時はデジタルやスマートフォンに関係する事業の黎明期ということで、タイはまだ混沌とした時期でしたが、やりがいがあるのではないかと。そこでHR(人材)領域を軸に、その国の独自性に向き合ったサービスを提供することにしました。


TalentEx (Thailand) Co., Ltd. 代表兼CEO 越 陽二郎さん

― タイではスタートアップとしてTalentEx社を立ち上げ、人材マッチングプラットフォーム「WakuWaku(ワクワク)」を展開されています。主な事業内容について教えてください。 

越さん:
「WakuWaku」は、日本で伸びているスカウト型転職サイト『ビズリーチ』のようなダイレクトリクルーティングサイトです。日本語、タイ語、英語で展開していて、タイ国内にある日系企業に向けて日本語を使えるタイの人材が登録しています。日本語人材に特化していることが他社との大きな差別化ポイントで、これまで累計でおよそ1,500社、2万人が利用しています。 

日本語を使う仕事の求人のため、登録者は日本語学科をでた学生や、大手日系企業から転職したい方などが対象。人材を雇用したい一般企業だけでなく、ネオキャリアや、RGF(リクルート)などの人材紹介会社も掲載していて、登録者はそちらにアクセスすることもできます。 

一般的にはタイ国内で人材が欲しい場合、企業は人材紹介会社や現地求人サイトで探すこともできますが、 「WakuWaku」ならば自分たちが求める人材の一本釣りが可能。日本語能力試験検定(JLPT)のレベルである『N1』や『N2』の有無、年齢やキャリア、日本への留学や親の仕事の関係で日本に住んだことがあるかなど、細かい検索条件を入力して探せます。 

例えば、『N1』資格を持ち日本本社とやりとりできるようなタイ人の会計士などはとても希少ですが、『WakuWaku』を使えば一瞬で検索できますし、日本語がわかる生産管理者やエンジニアなど専門的な人材も絞り込めます。『WakuWaku』のシステム自体はそう難しい仕組みではないものの、他社は日本語に合わせたデータベースを手がけていないため優位性があります。 

― 登録者獲得のためにはどういったツールを活用しているのでしょうか? 

越さん:
当社はFacebookをメインに使っています。事業分野によって利用するSNSツールは異なり、一般の消費者向けではLINEが効果的で、飲食関係ではInstagramが人気です。特にタイ人は“映え”が大好きなため、タイの大手高級百貨店であるサイアムパラゴンのInstagramは世界でトップのアクセス数だったこともあります。 

SaaS事業者が企業向けにアプローチする場合は、メールマーケティングも多いですね。一般的にタイ人はメールを見ないといわれていますがそれはプライベートでのことであり、メールを読んでくれてフォローにつながるようなリテラシーの高い真面目な企業をセレクトしていくうえでの指標にもなると思います。 

 

働いて感じる、タイ人と仕事をする難しさ

― この2年間で、コロナ禍が事業に影響したことなどはありましたか? 

越さん:

実は「WakuWaku」はマレーシアでも同様に展開していたのですが、コロナの影響で休止を余儀なくされました。タイでは「WakuWaku」のほかに「RPA(ロボティックプロセスオートメーション)」事業も始めていましたが、コロナで中止せざるをえなくなりました。また、「WakuWaku」のリアルイベントとして年に1~2回「ジョブフェア」を開催し、企業と登録者のマッチングや交流の機会として好評だったのですが、やはりコロナの影響で現在は休止中です。現在はタイの「WakuWaku」の運営に集中しようと、人件費や広告費などを投入し、集客や登録者拡大に力を入れているところです。

― タイで起業した際に、困ったことや大変だったことを教えてください。 

越さん:
日本でも同じだと思いますが、組織づくりに苦労しました。タイの人は責任感やモチベーション、ロイヤリティ、コミット力などが日本人とまったく違うので、さらに大変です。例えば勤怠管理システムを導入しようとしても、日本の企業ならまず試してみようと考えるはずですが、タイではそうは考えない。



例えば自社でもあったことなのですが、システムを導入した際にセットアップまで一緒にやって使い方を教えても、自分が出張から戻るとスタッフはもう誰も使っていない。なぜかと聞くと「越さんがいなかったから誰もやっていない」と。もう一度教えたとしても、次回の出張があればまた同じです。そのため、日報をチェックする人、それを私に報告する人、というように一から決めて仕組み化していかなくてはならない。組織作りには、日本の5倍、10倍の時間がかかります。 

信頼関係の築き方についても、日本なら「この業務をしておいて」と仕事の“タスクベース”で関係性が築けますが、タイでは何回一緒にランチしたかなど“食事ベース”で築くことが必要です。よく知らない相手のために仕事を頑張る必要はない、という考え方があり、何回も食事を共にしながら家族や子ども、自分のことなどを話しているうちに信頼感や親近感を持ってくれるようになり、力になってみたいという気持ちになってもらえるのです。


編集より

日本語に習熟したタイの人材と企業を結びつけてきた越さん。今後は集客や登録者拡大に注力すると言うことで、事業の拡大が期待されます。次の記事では、WakuWakuの運営やJETROのアドバイザーを通して、越さんが感じた日本のSaaS企業がタイ市場で押さえておきたい課題とポイントについて、ご紹介いただきます。

 

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