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急成長するタイのSaaS市場!タイで起業したTalentEx社の越さんに聞く市場攻略で乗り越えるべき課題とは

クラウドサーバーにあるソフトウエアをインターネット経由で提供する「SaaS(Software as a Service)」市場は、IT業界をけん引するサービスとして世界各国で成長し続けています。ASEAN諸国のハブ的な場所に位置し、2021年の実質GDP成長率が1.6%増となったタイには、現在1,600社を超える日系企業が進出。そのうちIT企業は200社程度とされており、さまざまなSaaSスタートアップ企業も参入しています。 

前回に続き、KDDIグループの業務でタイに赴任し、翌年に人材マッチングをはじめとしたサービスで起業するなど、タイでのSaaS運営経験もお持ちのTalentEx社の越陽二郎さんに、タイのIT企業やSaaS企業が抱える課題をはじめ、成長している企業やその理由、進出へのアドバイスなどをうかがいます。

前回の内容はこちら

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<越 陽二郎さん プロフィール> 
TalentEx (Thailand) Co., Ltd. 代表兼CEO 

株式会社日本能率協会コンサルティングに入社し、アジアマーケティングチームの業務に従事。2011年に株式会社ノボットに入社後、KDDI子会社medibaへの売却に伴いタイ拠点立ち上げリーダーに就き、2013年に退社、同年にバンコクにてTalentExを創業。 
(TalentEx公式サイト:https://talentex.co/ja/) 
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IT企業やSaaS企業が抱える「低いITリテラシー」という課題

― 越さんはタイでスタートアップコミュニティにかかわったり、JETRO(日本貿易振興機構)のアドバイザーや講師などをなさったりしていますが、タイでSaaS事業を展開する際の課題はどのようなことでしょうか? 

越さん:
いくつか挙げられますが、まずはITリテラシーの低さではないかと思いす。例えば、クラウドの勤怠管理システムなどをセルフインストールをしようとしない、自分で学んで使い始めるということができないケースがみられます。


TalentEx (Thailand) Co., Ltd. 代表兼CEO 越 陽二郎さん

SaaSだと初月は利用料が無料だったりするので、日本ならば特に営業しなくてもセルフで導入してくれる会社も多いかと思います。ところがタイでは営業した後にインストールも手伝う必要があったり、その後も1社1社マンツーマンで向き合ってサポートしたりということも多い。やや手間がかかるうえに人件費やカスタマーサポートコストが必要になる可能性もあり、SaaS企業にとっては課題といえそうです。 

プラットフォーム事業についても、同じようなことがいえます。仮に「ビズリーチ」に登録して職を探そうと思ったら、日本人なら誰でも履歴書や職務経歴書を作成してから登録するはずです。しかし、タイで「WakuWaku」にアクセスしてくる人はLINEで「何かいい仕事ある?」とメッセージしてきて、履歴書を用意していない人も一定数います。スタッフが名前から住所から聞き取りし、その内容をシステムに打ち込んでその人の履歴書を作成するなど、マッチング以前の課題もあるといえそうです。 

ただ、これらは単にリテラシーの問題というわけではなく、めんどくさがり屋な国民性もあると思います。 

さらに、タイではITに限らず、一般的に学習意欲の課題もあります。小学校の教育なども関連していると推測されますが、社会人になってからも積極的に何かを学び、自分を高めるという意識が低いように感じます。大人になってからその姿勢を軌道修正するのはなかなか難しい。そこが変わらないと、例えば教育コンテンツなどはビジネスとして成立しにくいかもしれません。 

欧米で教育を受けたり一流大学を出たりした人たちはとても優秀なのですが、その数は少なくて人口の数%程度。企業の経営者がITに詳しくても、何十社、何百社の全社員にSaaSシステムをきちんと使ってもらうのはかなり大変で、骨が折れる可能性があります。

 

低い競争率はマーケットの未熟さや規模が課題 

― マーケットの観点から見た課題はどうでしょうか。 

越さん:
タイではまずソフトウェアに投じる予算自体が少ないということも、大きな課題といえるでしょう。マーケットがまだ小規模で、予算をかけるまでには至っていないようです。 さらに、タイの人々は面倒なことを嫌う人が多く、従業員の賃金が低いので、日本ならば機械化した方がメリットのあることも「賃金が安いから1人置いておけばいい」という考え方になりがちです。お金をかけてシステムを入れて運用していくことは面倒だしもったいないと、ソフトウェアやシステムの導入に対する基本的な考えが日本とは違うといえます。


― タイのSaaS市場における今後の可能性についてお聞かせください。 

越さん:

SaaS市場の見極め方については、「規模の観点」と「ハードル・壁の観点」の2点から考える必要があります。 タイはエンジニアが少ない国なので、IT業界の競争率自体は低いと思います。タイには国産のマーケティングオートメーション(MA)ツールはほぼなく、「HubSpot」など海外のMAツールを使うことが多いですし、参入チャンスはあるかもしれません。ただ、「規模の観点」からいえば、MAツールが存在しないのはマーケット自体が成り立たないから、との理由も考えられます。 

日本発や現地オリジナルの新たなMAツールを紹介しても、現在使っている英語・欧米系のツールで構わないと考える企業も多いかもしれません。なので、参入の競争率は低いものの、タイの市場規模やタイ企業の考え方を参考にしたうえで、参入余地があるかどうかを判断する必要もありそうです。 

また、例えば日本ではかなり前から「クラウドワークス」や「ランサーズ」など多くのクラウドソーシングが存在し、現在はさらに特化・細分化しています(例:フォトグラファー専門のクラウドソーシングなど)。そういった細分化したサービスをタイに持ち込めないかという話もたまにありますが、タイでは総合型でメジャーなクラウドソーシングでも「Fastworz」だけ。そのような状態で、果たして細分化したサービスが成り立つのかということになります。「規模の観点」ではこういった状況を見極めることが大切だと思います。 

「ハードル・壁」の観点では、例えば会計系SaaSの場合などは海外のプロダクトをタイでそのまま使えるかどうか、ということも考えなければなりません。労務や勤怠、賞与などがローカル基準のため、そこにハードルや壁が生じる可能性もあります。 

採用系SaaSであれば候補者のトラッキングや面接セッティングなどの機能がそのまま使える欧米のツールがあります。そういった海外・欧米などのツールと戦うためには、より優位性があるプロダクトやサポートが求められるでしょう。


商品力に加え、フォロー体制やサポート力も成長のカギ 

― タイのIT企業やSaaS業界ではどういった企業が伸びていますか?できれば具体的な社名などを挙げて、成長の理由なども教えていただければと思います。 

越さん:
「伸びている業種の1つとして、個人的には会計クラウドサービスが強いのではないかと思っています。タイの地場SaaS企業では、日本の会計クラウド「フリー」や「マネーフォワード」と同じようなサービスを手がけるFlowAccount(フローアカウント)というスタートアップがとても強い。国内の会計クラウドの中でも圧倒的な伸びで6万社ものユーザーを抱えています。 


FlowAccount https://flowaccount.com/

この分野の中でも早い時期にスタートしたため早期に投資を受けられたことや、スタートアップの数がまだ少なかった時期に政府のアクセラレータープログラムなどにより、宣伝効果が高まったことなどが背景にあります。通信会社の一押しアプリとしても紹介されたり、創業者もメディアで若手起業家として紹介されたりしたことでサービスの知名度が上がりました。 

数年前に聞いた話ですが、2週間に1度の割合で潜在顧客や操作に不慣れな新規契約客を毎回数十人集め、使い方を教えるセミナーを開催しているとのことでした。開発力やスピード力だけでなく、こういったフォロー体制やオペレーション力も効いているのだと思います。 

タイの地場SaaSで他にも、日本でも人気のビジネス用チャットアプリ「Slack(スラック)」のタイバージョンのようなサービス展開をしているEko(エコー)があります。タイの大財閥であるCPグループの身内が経営していて、知名度がとても高いSaaS企業といえます。 

また、日系との関連で挙げると薬局用POSの提供をしているArincare(アリンケア)があります。2020年に三菱商事タイランドと大手企業SCGから出資を受けて事業展開しています」 


― 日本のSaaS企業で伸びているところはありますか? 

越さん:

タイでの日本のSaaS企業の成長例としては、写真や動画を用いたわかりやすいマニュアルをクラウド上で簡単に作成・共有・管理運用できる「TeachimeBiz(ティーチミービズ)」を手がけるStudist(スタディスト)がトップクラスと言えます。マニュアルをアプリで簡単に作れるサービスで、これまではOJTで教えていたような内容を標準化や仕組化、均一化できるようにしました。プロダクト自体が素晴らしいのですが、セルフインストール力が低い企業に対する提案力やコンサル力にも秀でています。 

勤怠管理「Jobcan(ジョブカン)」も成長しているようです。中高生に人気が高いライブ配信・動画投稿サービス「ミクチャ」などを手がけている日本企業のDONUTS(ドーナツ)が提供するSaaSのプロダクトとなります。日本で一番使われているクラウド勤怠管理システムの一つですが、Jobcanの日本の動画CMをタイ語にして流すなど、日本で保有する資産をフルに活用しています。ローカル企業や資金力に余裕がないスタートアップのSaaS企業が真似できるレベルではありません。

プロダクトの開発力も素晴らしく、日本のシステムをタイに合わせてカスタマイズ。専用の開発チームをタイに置き、タイならではの30日間の傷病休暇のオプションを導入するなど、給与や休日管理もタイ向けにバージョンアップしています。日本でもタイでも、利用価格がとても安いことも大きな特徴です。

 

日本で年商10億円あればタイで事業展開できる可能性も 

― 最後に、タイ進出を考えている日本SaaS企業へのアドバイスをお願いします。タイのDXやITの伸びしろや、SaaS事業を展開する場合に必要な年商規模、現地で円滑に事業を進めるコツなどを教えてください。 

越さん:
DXやITの導入は日本よりも遅れているため、その分伸びしろはあるものの、広がるまでそれなりの時間がかかるでしょう。日本での売上高が年に10億円以上あればタイでも事業展開できる可能性がありますが、進出する前にSaaS分野の調査を行うなど十分な見極めが必要です。 

タイで事業を進めるにはタイのビジネス文化や商習慣について理解することがとても大切で、日本目線のスピードや規模、常識で評価しないことです。年功序列が日本より厳しいため、例えば現在の社員より年下や給与が高い新人をいきなり上司に抜擢するのは避けるなど、基本的なことを知っておくとよいと思います。 

タイ人は基本的に、仕事はプライベートを充実させるものと考えています。好きな人やよく知っている人たちと、理解し合いながら一緒に働くことを望む傾向が強いといえます。そのため、前述したように、信頼関係を「仕事で築く(タスクベース)」か「食事で築く(関係ベース)」か、ということもよく考えてみてください。さらに、日本に本社がある場合、日常業務のオペレーションについては全てタイ拠点に任せて権限移譲することも、円滑な事業運営のコツといえるでしょう


― さまざまな観点で見たときに困難に見えるタイ市場でのSaaSサービスの展開において、越様が挑戦し続ける理由や、魅力について教えていただければ幸いです。

越さん:
自社ではもうSaaSは展開しておりませんが、タイ市場で挑戦を続けることは、グローバルで誰もいない道を切り開くというやりがいがあります。また、困難はありながらも、同じように戦う仲間たちとチャレンジを続けるうえでとても魅力的な場所です。


 

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