ベトナムでゼロから工場を立ち上げたベテラン経営者が語る自動車製造業界の現状 | ピリピリ 東南アジア進出をサポート!
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ベトナムでゼロから工場を立ち上げたベテラン経営者が語る自動車製造業界の現状

【2020年5月12日】公開

ベトナムでは自動車産業が勢いを増しています。
それに伴い、金属加工のカギとなる金型の需要も増していますが、ローカル工場の技術力はまだ低く、日本の品質には遠くおよびません。
そのため、ベトナムの国産車は、まだまだ輸入部品に頼っているのが現状です。
しかし、将来はすべての部品を国内生産することを目指して、国を挙げての取り組みが進められています。
 
本記事では、現地でのモノづくりの現状や参入ステップ、留意点、マーケティング施策などについて、ベトナムに進出してゼロから金型工場を設立し、長く経営に携わってきた株式会社イイダモールドの飯田秀夫さんにお聞きしました。
 

ベトナムで設計事務所と金型工場を設立

――金型部品メーカーとして2005年にベトナムへ進出したきっかけや背景は?
 
飯田さん 27歳の時に日本で金型設計事務所を立ち上げたのですが、図面の納入先からの依頼で金型製造元を紹介することになり、設計だけでなく商社としての機能も持つようになりました。
次第に、日本で金型を作るコストが厳しくなったので、2008年にベトナムに進出し、まずは金型の設計を手がける会社を設立しました。
 
もともと人件費の安さからベトナムを狙っていたものの、2004年に初めてベトナムを視察した時は、日本より半世紀は産業が遅れている印象をうけ、正直言って何もできないのではないかと思いました。
ただ、日本と比べて若者の購買意欲が圧倒的に高く、自動車など自分が欲しいものは何年かけてでも手に入れるという意気込みがすごかった。
産業は遅れているものの国全体がエネルギッシュで、大きな熱量を感じたことも進出を決めた理由です。
 
――当時のベトナムはどのような状況でしたか?稼働はスムーズに進みましたか
 
飯田さん ベトナム人の設計者を集めてビジネスを開始しました。
当時のベトナムにも金型産業はありましたが、40~50年の歴史を持つ日本の技術とは比べものにならないほど低い水準でした。
日系の設計事務所で働いていたといえばベトナムではキャリアに箔がつき給料が上がるため、腰掛けで入社してくる現地エンジニアが多く、人材がなかなか定着せず苦労しました。
社長に据えたベトナム人も同様で、4人目でようやく定着したところです。
 
そうしているうちに、ベトナム人は国民性としてモノづくりが好きであり、設計図面を描いているだけではあまり喜ばないということに気づきました。
描いた図面が金型になり、成形品になるまでの一連の工程を見るというモノづくりの喜びが感じられないと定着しないということがわかったのです。
金型はあくまでも成形品を作るための道具であり、プラスティックの成形品にならないと彼らは満足しないのだと。
 
そこで、製造ライセンスを追加で取得して、金型の製造工場を設立する計画を立てたのです。
先行投資をして600平米の場所を借り、それからライセンス取得に動きました。
工場の場所については工業団地ならばすぐに許可が下りるのですが、工業団地は中心部から遠くて人材確保が難しいと考え、あえてホーチミン市内にあるローカル企業が保有する大きな工場の一角を借りました。
なんとか半年ほどで製造ライセンスを取得できたので、日本から工作機械を輸出し、2016年から工場を稼働させました。
 

国策としてベトナム国内で国産車を製造する動きが加速

――現在のベトナムでは自動車部品製造業はどのような状況でしょうか。
 
飯田さん かつてのベトナムには、ホーチミン工科大学のような優秀な学校を卒業しても、国内で能力を発揮できるような職場がありませんでした。
外資企業が参入してくることにより、こういった人たちが2014年頃から職に就けるようになりました。
彼らの就職を、われわれ製造業が後押ししたという背景もあったわけです。
 
ベトナムでは2008年頃からGDPが急激に伸びたため人材確保が難しく、外資系企業は立ち上げ当初の数年間は本社から人材を赴任させるなど、人も資金も投下せざるを得ませんでした。
その後、現地で育成され鍛えられた人材が次第に力をつけ、起業したりローカル企業の工場長に就いたりするようになりました。
技術はまだ日本に追い着かないものの、昨今ではようやく金型などのモノづくりができるようになりました。
 
――ベトナム国内で国産車を製造する動きも目立っていますが、現状をどう捉えていますか?
 
飯田さん 現在のベトナムでは、国産車の生産も始まっていますが、部品を輸入して組み立てをしているだけの状態です。
国としての将来の目標は、難しいものも含めてすべての部品を国内で製造することです。
しかし、全部の部品を自前で製造できるような、高いスキルの現地企業はまだありません。
 
ビングループをはじめ、現地の自動車メーカーは、BMWなどの設計を取り入れて部品も海外から輸入して国産車を作っており、国民がそのように作られた国産車を購入する動きもあります。
ベトナムでは、日本や欧州メーカーなどの技術のある外資系企業から学ぶというよりも、完成された製造手順をコピーして作ってしまおうという考え方が主流でなので、生産の立ち上がりは早いといえます。
 
技術力があるベトナムの部品メーカーでも、よい機械を購入できないために品質が上がらないということがあり、投資してくれる資金力があるスポンサーを見つけようという動きが目立ちます。
ベトナムは銀行金利がかなり高いので銀行からの借り入れはせず、スポンサーに役員報酬を支払うという形で、投資金を返済しているのです。
中には複数の投資家を募り、日本企業にもないような設備を備えた工場もあります。
 

経営者としては人件費の高騰が今後のシビアな課題に

――ベトナムでの今後の金型製造はどのようになっていくと思いますか?
 
飯田さん 自分たちで金型製造工場を作ってみようと考える現地の完成品メーカーもいるのですが、金型というのは、よい図面を描ける人材を雇い、よい機械を導入したからといってできるものではなく、最後にはスキルを持つ職人が手を加えなければレベルが高いものは作れません。
 
完成品メーカーが投資をしても、金型はその部分をクリアすることが難しいのです。
そのため、外資の優秀な企業に好条件でベトナムに進出してもらい、現地でベトナム人を雇用して精度が高い部品を作ってもらうようにした方がよいのでは、という考え方になっています。
 
ベトナムの国民は購買意欲がとても高く、何とかしてお金を稼いで自動車を買おうとしています。
製造業においても利益のあがる業務への切り替えが素早く、金型だけでは儲からないから成形もやろうというように、とても強いバイタリティを持っています。
それが従業員の末端まで行き届いていて、失敗や苦労はするけれど、最終的にはやってしまうというすごさがあります。
 
そういったベトナム人のやる気や逞しさという背景もあり、将来は金型などの技術力も日本並みになるだろうと思います。
当社もベトナムでの金型製造をどこまでやっていかれるかという不安もあり、昨年から成形工場の稼働も始めました。
金型だけで終わらず、金型に樹脂を流し込んで成形品を作るラインを増設したのです。

――ベトナム製造業の将来の見通しをお聞かせください。

飯田さん ホーチミン市では人件費の高騰が激しく、今後もさらに上がっていくだろうということが経営者としては大きな課題です。
物価も上がり、2005年頃は一家4人が月に2万円で暮らせたのが今は10万円ないと難しくなっています。
あと数年は大丈夫でしょうが、将来は人件費のバランスをどのように保つかがいっそうシビアな問題になるでしょう。
当社でもすでに着手していますが、ベトナム以外の国への拠点設置も視野に入れていく必要があると思います。
 

日本企業に多い!会社設立時のコンサルティング会社選びでつまずくケース

 ――ベトナムで会社を設立する際の注意点について教えてください。

飯田さん 今は会社設立をサポートしてくれる日系のコンサルティング会社や税理士事務所がベトナム国内に100以上も存在しているので、現地で会社を作ること自体は比較的に簡単です。
ただ、どのようなコンサルティング会社に頼むのかということがとても重要で、まずこの時点でつまずく日本企業がとても多いといえます。
 
このようなサポートをしている日系の会社や事務所は、会社設立を主要なビジネスにしていることが多く、料金が高いところだと登記だけで200万円くらいかかったりします。
ベトナム人が経営している事務所ならば30万円くらいで同じサポートを得られるので、私が設立した時はそのようなローカル事務所に依頼しました。
 
現地の日本人に頼ると失敗しやすいため、自社のベトナム人社長に私が指示して、コンサルティング事務所のトップであるベトナム人と本音で交渉してもらいました。
ベトナム人同士の方が、話がスムーズに運ぶことが多いのです。
決める前にはいろいろなコンサルティング会社を訪問し、トップと面談して実績を聞いたうえで、交渉先の候補を選ぶことが大切です。
 
――設立場所として現地には多くの工業団地も整備されているようです。
 
飯田さん 工業団地だからといって必ずしもその場所がきちんと機能するとは限らず、中心部から遠かったり人材を集められなかったりという場所もあります。
工業団地の売り主にとっては売ることが目的で、売った後にその会社や工場が機能できるかどうかは関係ありません。
 
現地の日本政府の出先機関などに相談すると、親切心からまずは安全で立地条件がよく、人材を集めやすいメジャーな工業団地をコンサルティング会社経由で紹介されることが多いのです。
ただ、そういった場所は家賃や維持費が高いというデメリットがあります。
 
スタート地点である会社設立時に、コンサルティング会社選びでつまずいてしまう例は結構あるので、ここで失敗しないように慎重に選ぶことがとても重要なのです。
 

人材採用には大学キャリアセンターやSNSも活用

――人材の新卒採用や中途採用はどのように行っているのでしょうか。

飯田さん 新卒の採用は、大学のキャリアセンターにある掲示板に、応募用紙を付けた名刺やチラシのようなものを貼り付けて募集します。
応募用紙部分を切り取れるようにしておき、記入して郵送してもらうのです。
日本と同じようにハローワークや人材紹介業、新聞広告もありますが、現地では掲示板を通じて簡単に募集できるため、当社では現在も活用しています。

中途採用の方法としては広告媒体をはじめ、LINEやFacebook、ベトナムでメジャーなモバイルアプリ「Zalo」などのSNSもよく利用されています。

――採用する際の注意点について教えてください。

飯田さん 採用は面談を通して決めますが、製造業経験者の場合はどこでどういう仕事をしていたかを細かく聞きます。
金型製造の経験者であっても、簡単なものと難易度が高いものでは技術力に大きな差があるからです。
 
自分の経歴や技術力を大げさに言う人も多いため、当社では終身雇用契約ではなく最短で1年ごとの契約を交すようにしています。
契約終了の1ヶ月前くらいに話し合い、使い続けるのが難しい人材ならばそのまま更新しなくて済みますし、再雇用する場合も賃金交渉ができるからです。
なるべくなら短いスパンの雇用契約を交しておいた方がよいと思います。
 

日本企業としての信用力や現地での実績などが営業に奏功

――御社ではベトナムで製造した金型や成形品をどういった企業に納入しているのでしょうか。またどのようにアプローチを行っていますか?

飯田さん 現地のローカル企業に納入しているのをはじめ、中国、アメリカ、日本などへ輸出しています。
現地では金型を提供しているところが多くないのに加え、日本の企業ということで技術への信用力も高いため、ある意味看板を掲げているだけで当社には声がかかります。
 
先方はまず当社に声かけをしてみて、コスト面は見積もりさせてからということで動いてくれるのです。
もちろん、ベトナムでの業歴が長いこともあり、自社の実績が業界に知られていることが大きいとは思います。
 
――御社のベトナムでの外販はそう長くないですが?
 
飯田さん そうですね、もともと日本本社で使うためにベトナムへ進出したわけで、ずっとそのために金型を作っていました。
ベトナムでの母体が整ったところで、2年ほど前から外販を始めたのです。
ただ、それまでの長い間に会社や私自身が現地で知られていたことで、幸いにもあまり営業努力をしなくても仕事を獲得することができるようになりました。
 

現地ティア1との連携やメーカーへのダイレクトアタックが営業の有望手法

――部品メーカーが現地で営業するためのよい方法があれば教えてください。

飯田さん 現地には金型会社を紹介するサイトをはじめ、複数のマッチングサイトやニュースメディアなどがあり、これらを活用している部品メーカーも結構あります。
 
また、業界関係者とパイプを作るためのメジャーな手法として、現地の商工会議所に加入する会社は多いですね。
大手メーカーから中小メーカーまで入っているので人脈づくりに役立ち、自社のサービス内容も発信できるため、取引につなげられる可能性もあるかもしれません。
ただ会員社同士にはさまざまなつながりもあり、私自身は気兼ねやしがらみなくどこへでも営業に行きたいという考えがあるため、当社はあえて加入しておりません。
 
金型など中小部品メーカーがベトナム進出する際には、日本で取引がある自動車メーカーから依頼されたり、現地の一次下請のティア1と連携したりして事業展開するという方法があります。
ベトナムで実績があるティア1に入り込むことができれば、日本では難しい大手自動車メーカーとも連携できるようになります。
 
さらにベトナムでは、自動車メーカーと金型メーカーが一緒に業務に取り組めるというチャンスもあります。
大手自動車メーカーの直接開拓も現地ならば可能なので、アプローチしてみるのもよいかもしれません。
進出したばかりの会社は自主努力が第一ですが、ダイレクトアタックは大変でもわりと効率的なので、努力してみる価値があります。

――進出した部品メーカーが自社の日本本社と連携してできる取り組みはありますか?
 
飯田さん ベトナムで仕事をしたい相手が日系企業であるならば、日本の本社でコンタクトしてから現地でやりたいとつないでもらうことも1つの方法です。
 
日本では、日本企業との連携を希望する海外企業経営者と海外展開を目指す中小企業とをマッチングするために、中小企業基盤整備機構が開催している「海外CEO相談会」があります。
ベトナムのメーカーも参加しているので、現地でのアプローチがうまくいかなかった場合は、日本で開かれているこの相談会に参加してみるものよいと思います。
 
もしもベトナムで取引に成功すれば日本でも一定の評価を獲得できるため、ベトナムの実績を日本での営業に生かすことができるかもしれません。
実際に、ベトナムで大手メーカーと取引できたので日本本社でも取引口座を作ってもらえたという例を聞いています。
 
日本でのアプローチがうまくいけば、次は日本国内やタイなど他の東南アジア諸国で仕事を受注できる可能性も生まれます。
ベトナム単体で考えるよりも、自社全体としての総合メリットを追求することも視野に入れておくべきでしょう。

 
<飯田 秀夫氏プロフィール>
株式会社 イイダモールド 代表取締役
1995年に日本で金型設計事務所を立ち上げ、金型の調達先と納入先をつなぐ商社機能も付随させて事業を展開する。2005年からベトナムエンジニアの受け入れを開始し、ベトナムに進出。2008年に現地駐在員事務所を立ち上げ、2015年に製造ライセンスを取得して金型の製造工場を設立し、翌年から稼働を開始。2019年にはベトナム工場に成形工場を増設している。




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